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 頑張れ!女子サッカー 04/10/26 (火) <前へ次へindexへ>

 華やかなステージがもたらした意外な大差。日テレ、奇蹟への猛チャージ。
 L・リーグ第13節 日テレ・ベレーザvs.宝塚バニーズレディースSC

 文/西森彰
2004年10月23日(土)19:00キックオフ 国立霞ヶ丘陸上競技場 観衆:2,800人 天候:晴
試合結果/日テレ・ベレーザ11−0宝塚バニーズレディースSC(前半6−0、後半5−0)
得点経過/[日テレ]伊藤(10分、83分)、荒川(14分、44分)、近賀(17分、57分)、大野(20分、43分)、澤(68分)、永里(81分)、小林弥(89分)


取材・文/西森彰 写真/星智徳

「スタンドにいらっしゃったのがわかりましたよ。君が代の時に気づいていました。本当に、すぐにわかりました」

 神戸ユニバー記念競技場の控室前でオリンピック終了後初めて顔をあわせた川上直子(TASAKIペルーレFC)は、そう笑いかけた。世界ランキング4位にして女子ワールドカップ準優勝国のスウェーデン。その強敵との一戦を前にしても、川上にはスタンドを見回すだけの余裕があったわけだ。

「みんなが注目してくれるようになって、その中で大きな試合をいくつもやれたことが大きかったと思います。『オリンピックで仕事ができたか?』っていうとわかりませんが、試合を前にして、とても落ち着いている自分がいた。昨年のワールドカップ・プレーオフの時にはもう前の日から『どうしよう、どうしよう、どうしよう』っていう感じでしたけれど、オリンピックでは『どうしよう』とは全く思わなかった。それだけ落ち着いている自分自身を発見できたことが、一番の驚きでしたね」

 ホーム&アウェーで争われたメキシコとのワールドカップ・プレーオフ。ワールドカップ本大会での3戦。そして北朝鮮とのオリンピックを賭けた国立決戦…。そんな大一番のひとつひとつを戦った経験値は彼女の中に蓄積され、ビッグトーナメント初戦を平常心で迎えさせたのだ。

 国立霞ヶ丘陸上競技場で史上初めて開催されたL・リーグ公式戦も「経験」の価値を改めて認識させるゲーム内容となった。



 前節、伊賀FCくノ一に痛恨の1敗を喫して、2位に転落した日テレ・ベレーザだったが、大舞台はいくつもこなしている。華やかなライトに照らされ、100試合出場を達成した小林弥生、四方菜穂らが、タレントから花束を渡され、笑顔で歓声に応える。先発メンバー全員が1月に行われた全日本女子選手権の決勝で国立のピッチを踏んでいる日テレ。いかに注目されているゲームであろうとも、感慨が大きすぎることはなかった。

 対照的に、宝塚バニーズレディースSCのイレブンは大舞台の雰囲気に飲まれてしまっていた。前節、スペランツァF.C.高槻を降してL1残留を決めていた。寒い中、スタジアムに残ってくれた観衆は今季最高の2,800人。さらに地上波でのテレビ中継用カメラが入り込む。幾多のビッグマッチの記憶が刻み込まれている国立のピッチには、彼女たちを舞い上がらせる魔物がいたるところに潜んでいた。何がなんだかわからないうちにキックオフの笛を聞いた。



「前節、自力優勝がなくなった時点で『あと2試合、自分たちにできることをやろう』と開き直った」(宮村正志監督・日テレ)日テレは、ポジションバランスが取れないほど、緊張で舞い上がってしまった宝塚を押し込み、ハーフコートゲームを展開する。小林弥生が次々にパスを通し、サイドでは近賀ゆかりがドリブルで翻弄し、前線では荒川恵理子と大野忍が次々にゴールを狙う。フリーキッカーも務めた伊藤香菜子が10分に先制ゴールを奪うと、これをきっかけに緑のユニフォームが弾けた。

 ここからの3点は、全て荒川が絡んでのもの。一躍ヒロインになった、ここ国立での北朝鮮戦以降、全く勢いが止まらない。14分、左サイドからエンドライン際をドリブルで突破し、角度のないところから2点目を奪う。さらに、17分には小林のスルーパスを受けて近賀に、20分にも須藤安紀子のロングボールを大野に、それぞれポストプレーでつないでアシストを記録する。相手が体勢を立て直す前にゲームを決める見事なゴールラッシュを演出した。

 負傷した谷原ゆかりと今枝梢を交代させた宝塚は、日テレがやや縦に急いで単調になったこともあり、20分過ぎから五分の時間帯を得た。だが「相手に流れが行きかけたところで、しっかり守ってペースを取り戻した」と宮村監督が評価したように、日テレはこの20分間をきっちりとやり過ごし、またもや荒川を軸に追加点を奪う。43分、大野のゴールをアシストした荒川は、ロスタイムに自ら2点目を叩き込む。ハーフタイムを迎えたところで、すでに6対0のスコアが記されていた。

 日テレの宮村監督は、最終節で必要になる酒井與恵をベンチに下げて、復調途上の澤穂希を投入。大量リードにも気を緩めることなく「DFラインでのサイドチェンジは多いのに、中盤が左右に散らせていない。裏のスペースを狙いすぎている」と指摘し、小林のポジションを下げて舵取りを任せた。「監督からの指示通り、急ぎ過ぎないようリズムをとってコントロールした」(小林弥生・日テレ)日テレは、後半に入っても近賀、伊藤がこの日2点目を奪う。途中出場の澤と永里優季も、五輪予選では奪えなかった国立ゴールを決める。ロスタイムに小林が最後を締めて合計11点。宝塚を完膚なきまでに粉砕した。 



「これが優勝決定試合だったら、最高だったんですけれど…。今シーズン、たった2点しかとられていない。その1点がああいう感じでとられてしまって…。さいたまレイナス戦が今ひとつの内容で、伊賀戦で取り戻そうとプレッシャーになってしまったのかもしれない。でも最後までやれることをやろうと。今日はこういう舞台が用意されていたので、優勝うんぬんじゃなくて、『いろいろな人にベレーザらしいサッカーを見てもらおう』と頑張ってくれました」(宮村監督)

 さいたまの勝敗に左右される優勝争いだが、可能性ある限り、栄冠を求めてチャージをかける。指揮官が「選手たちは今日、この舞台でいつも以上の力を出してくれた」と褒めたように、得点を重ねても手を抜かず、さらにゴールを狙う貪欲さが、この日の日テレにはあった。常に次を狙って主導権を譲らなかったことが、相手の混乱と戦意喪失につながった。「攻撃こそ最大の防御」を地で行った勝利だった。

「(『勝って待つ?』)それはもちろん! 今日の試合結果も(首位を行くさいたまレイナスFCへの)プレッシャーにしたいと思っていました。その中で11点取れたっていうのは自信を持って良いと思います」と小林弥生も、トレードマークとなっている満面の笑みを見せた。「若い子たちがベレーザのサッカーを学んで成長しました。最近は、こちらが驚かされるプレーがたくさんあるし、彼女たちの良さを引き出すことで、自分も活かしてほしい」と小林。昨年から再編成したチームは、確実に成長を辿っている。TASAKIペルーレFCとの最終戦に全てを賭ける。



 宝塚は散発的に訪れたチャンスをモノにすることができず、屈辱的な大敗を喫した。日テレの宮村監督は「鶴見(緑地球技場)の時には、マンマークでガチガチに来られて途中まで苦しんだ。しかし、今日は予想に反してそういうところがなかった。こういった舞台の上で勝負したことはそんなに経験したところがなかっただろうし、そのあたりがプレッシャーになっていたのかもしれない。ウチとしてはそういうところが突けた」と振り返った。

 第7節では最終スコアこそ0対6となったものの、澤が閂をこじ開けるまでの57分間、日テレに引き分けの恐怖を感じさせ続けた。その功労者はオールコートで影のように澤の背後に張り付いた伊丹絵美だった。その伊丹がこの日は、三浦香子とともに前線で攻撃を担った。来期以降の戦いを睨み、現状の力差がどの程度なのかを計るオープンな布陣だったのだろうが、それが大量失点につながってしまった。

 11失点は、今期のL1・L2全てのゲームを通じてワーストスコア。GK・安田真希のビッグセーブがなければさらに4、5点は追加されていただろう。いくら日テレが強いといっても、こんな形で負けるチームではない。力を全く発揮することができなかったことは、悔し涙を流しながら引き上げてきた選手たちの姿が語っていた。



 この日、完璧な守備を披露した日テレの須藤安紀子も、全日本女子の決勝ではミスを連発し、試合開始20分でベンチに下げられた。10点目を奪った永里優季も、五輪予選のタイ戦でシュートミスを続けて、試合終了後に泣き崩れた。今は大敗を喫した悔しさ、恥ずかしさが、宝塚イレブンの心を苛んでいるかもしれない。だけど、いつか笑顔で振り返ることができた時、この日のゲームは彼女たちの大きな糧になっているはずだ。たった1試合の敗戦でサッカーが終わるわけじゃない。


(日テレ・ベレーザ) (宝塚バニーズレディースSC)
GK: 小野寺志保 GK: 安田真季
DF: 中地舞、四方菜穂、須藤安紀子、豊田奈夕葉 DF: 阪上由紀代、佐藤裕美、西手友美、田中真由美(65分/須藤愛)
MF: 酒井與恵(H.T/澤穂希)、近賀ゆかり(65分/井関夏子)、小林弥生、伊藤香菜子 MF: 河野雅子、小林恵(86分/永吉麗奈)、谷原ゆかり(20分/今枝梢)、柏原慶子
FW: 大野忍(69分/永里優季)、荒川恵理子 FW: 伊丹絵美、三浦香子
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