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カディスの熱い戦い


文/山田晃裕(スペイン・カディス在住)

「今年はどうかしらね?去年も4位になって昇格を逃したのよ。」

 カディス対シウダッド・ムルシア戦のチケットを買いに行く時に、バス停で私に話しかけてきた女性の言葉である。「今年こそは」という期待を感じさせる言葉だったが、それと同時に襲ってくる不安を隠すことは出来ないようであった。

 その通り、この街のシンボルであるカディスは、03-04シーズンを2部A4位で終え、念願だった1部昇格を逃してしまった。クラブがビクトル・エスパラゴをチームの新指揮官として迎えた今シーズン、チームは序盤から快進撃を続け、昇格圏内である3位以内をキープしたまま残り試合数は4となった。念願の1部昇格まであと僅かのところまでやってきた。そして5月29日、カディスはホーム、エスタディオ・ラモン・デ・カランサにシウダッド・ムルシアを迎えることとなる。


 スタジアムまでのバスの中で驚かされた。カディスのチームカラーである黄色のユニフォームをまとった人が多すぎる。バス停に止まるたびに黄色い人々が増えていく。黄色だけに眩しい。グレーのTシャツを着ていた私は、明らかに異邦人であった。スタジアム周辺ではすでに黄色い人だかりが出来ている。友人と酒を飲みながら、試合の展望について熱く語る人もいれば、グッズショップに足を運ぶ人もいる。ショップは客で埋め尽くされており、レジ待ちの行列すら出来ていた。試合1時間前、カディスの選手を乗せたバスが到着。待ちかねていた熱心なサポーターたちの叫びがメインの入場口にこだまする。チームへの愛情とその熱を感じさせるエールだった。

 先にウォーミングアップに出てきたムルシアには、サポーター総出のブーイング。逆にカディスのメンバーがピッチに出てきた時には、怒号とも歓声ともつかない音がスタジアムを支配した。選手たちがアップから引き上げてしばらく、観客試合開始前独特の静寂に包まれる観客席。しかし、両チームのイレブンが入場すると、誰もが立ち上がり、わっと歓声が沸きあがる。読んで字の如く、若い女性の黄色い声も聞こえてきた。

 そして、観客全員が立ち上がり“Un Minuto de Silencio(1分間の沈黙=キックオフ前に、クラブ関係者などの逝去を追悼する儀式)”が行われる。黄色一色で眩しいスタジアムでのUn Minuto de Silencioは、正直違和感すら覚えた。そして、いよいよキックオフ。


私自身、セグンダA(2部)のゲームは初観戦となるが、ここでこの日のカディスのスタメンをおさらいしておくと以下のようになる。

GK アルマンド 00-01シーズン以来不動の守護神であり、サポーターの信頼も厚い。
DF バレーラ 基本は右SBだがDFならどこでもこなせるユーティリティーが魅力。
デ・キンターナ 老練さを感じさせるCB。地味ながらも堅実なプレーが光る。
パス 抜群のポジショニングが売りでボランチからコンバートされたCB。
ラウール・ロペス 自分の仕事をサボったりはしない真面目な左SB。
MF フレウルキン 元ウルグアイ代表のボランチ。長身を生かした空中戦にも強い。
マノロ・ロペス ボールタッチは正確で、鋭いスルーパスを出すボランチ。
エンリケ 怪我を乗り越え復活した右サイドの職人。守備にも余念がない。
パボーニ 前線へのパスの供給源で、監督の信頼が厚い司令塔タイプの選手。
セスマ トップ下からコンバートされた左サイドに見事に適応。チーム得点王。
FW ミロサヴルヘビッチ セルビア出身の助っ人。スピード・身体能力に優れる。

 基本フォーメーションは4−5−1であるが、パボーニが1列下がり、マノロ・ロペスと共に後ろからドリブルで持ち上がると、今シーズンのバルセロナの4−3−3のようにもなる。

 この日の対戦相手であるシウダッド・ムルシアは、順位こそ22チーム中17位で、19位以下が対象のセグンダBへの降格圏を脱出してはいるが、降格に怯えざるを得ない、言わば「格下」のチーム。引いて守る相手を状況に応じて揺さぶれるような柔軟な戦術だった。


 試合序盤からボールを支配するカディス。左サイドのセスマがドリブルで中に切れ込めば、1トップのミロスブルベビッチが左サイドのスペースへ流れて、攻撃にアクセントをつける。右サイドは一変してフレウルキン、パボーニ、エンリケ中心の長短のパスを織り交ぜた攻撃で、DFラインからのロングボールにエンリケ・ミロサヴルヘビッチが反応する。

 前半はカディスが終始ボールを支配する。主に左サイドから攻撃が繰り出されたが、アタッキングエリアでの決め手を欠いていたため、ゴールを奪うには至らない。対するシウダッド・ムルシアは、わずかなマイボールの時間帯で、呼吸がずれがちのCBのパスと左SBのラウール・ロペスの間のスペースを集中的に攻め続けた。前半のシュートは、ほとんどペナルティエリア前の彼ら2人の間から放たれていた。お互いに決め手を欠き、0−0のまま前半終了。

 ハーフタイム、ピッチ上では子供たちを対象としたサッカー教室が行われ、ミニゲームに興じる子供たちのほのぼのとした姿が、昇格を前にしたゲームのピリピリムードを忘れさせてくれた。追記すると、このエスタディオ・ラモン・デ・カランサの収容人数は1万8千人、南側のゴール裏スタンドは現在改修中で仮設スタンドが立っている。今年中には完成する予定で、収容人数が増えたスタジアムで、プリメーラ(1部)を戦うカディスを応援するのを市民(ファン)は心待ちにしている。

 もう1つ特徴的なのが、ベンチと観客席の距離が近いことだ。目線もほぼ一緒のため、最前列ならばアップに集中する控え選手が目の前に見える。監督の指示も丸分かりだろう。小さなスタジアムの魅力は、チームと観客との距離感が存在しないことだと私は考える。


 そして、後半キックオフ。両チームともメンバーに変更はない。スタートから猛チャージを掛けてきたのはシウダッド・ムルシア。スピードでは勝るセスマも、フィジカルでは勝てず、シウダッドDFに削られ続ける。前線からのチェックが激しくなれば、迂闊なミスも増える。マノロ・ロペスは自陣でボールを失う場面が目立ち始めた。見兼ねたエスパラゴ監督は、56分に交代カードを2枚切る。ルーズボールが目立つマノロ・ロペスに変えベサレスを投入。同じボランチながら、彼の特徴は無尽蔵のスタミナ。運動量で流れをカディスに呼び戻すのを期待されての登場だ。

 そして、もう1人。ミロスヴルヘビッチに変えて投入されたのは、チームのエースであるオリ。背番号9を背負う彼はこれまでスタメンだったが、この試合を前に体調を崩してしまい、ベンチから様子を見守っていた。昨シーズンのチーム得点王でもある。1トップとなったオリがポストプレーに励む。前を向いて勝負を試みることもあったが、大半はくさび役に徹していた。

 しかし、エースの働きとは裏腹に、どうしてもルーズボールが拾えず、攻撃に進展が見られない。その上、シウダッドの激しいチェックが止まず、連続攻撃を展開できない。流れを掴まなければゴールチャンス、すなわち勝機は訪れないのだが。観客たちはゴールを心待ちにしてエールを送り続けるが、同時に苛立ち始めたように思われた。


 この険悪な雰囲気を促進したのが審判のジャッジだ(私自身、審判も人間であると分かっているのだが…)。まさに火に油であった。前半から首を傾げたくなるようなジャッジが多く、カディスタたちは審判にブーイングを浴びせていた。後半はさらにアウェーに傾いたレフェリングで、あからさまなPKを見逃したかと思えば、不要なイエローカードを乱発した。彼のレフェリングにはカディスの選手たちも苛立っていたようで、75分過ぎから意図のないロングフィードが増え始める。

 82分、ファールを浴びて倒れたラウル・ロペスがついに痺れを切らした。相手DFのダニに食って掛かる。その後両チームメンバーが入り乱れての乱闘に発展するかと思われたが、警察がピッチに入り、その場を鎮める。私自身多くの試合を見てきたが、警察が介入するのを目撃したのは初めてだ。この騒ぎでの5分という長めのロスタイムも消化し、
0−0のスコアレスドローで試合終了となった。

 両チームとも仲良く勝ち点1を獲得したが、後味の悪さが残った。ただ、一通り審判団を野次った後、多くのサポーターがカディスイレブンを称えるエールを送っていたこと、そして、オリが試合後に「勝てた試合かもしれないけど、今日の結果を嘆きたくはないね。シーズン終了まで戦うだけさ」と語ったのが私にとっては救いだった。


 4位につけていたレクレアティーボが5位エイバルと引き分け、両チームとカディスとの勝ち点差は3のままとなった。第40節、カディスはアウェーでポンテベドラと対戦したが、ここでも1−1で引き分けてしまう。オリが久々にゴールを決めるが、その後追いつかれてしまい、勝ち点2を取りこぼしてしまう。一方でレクレアティーボとエイバルは順当に勝利し、カディスとの勝ち点差を1にまで縮めてきた。

 残り2試合となったが、次節、カディスは今季のホームラストゲームでテラッサと対戦する。セルタが1年でプリメーラに返り咲くこととなった今、アンダルシアの2チーム(カディス・レクレアティーボ)、バスクの2チーム(アラベス・エイバル)が残る2つの昇格の椅子を争っている。バルサが5シーズンぶりの優勝を飾り、大久保のマジョルカも残留したことでリーガが終わったと思っている方も多いだろう。そんな今だからこそ、プリメーラ昇格争いに注目してもらいたい。

まだ、リーガは終わっちゃいない。今、アンダルシアが熱い!
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