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緑と赤に染まるビセンテ・カルデロン


文/山田 晃裕

「信じられない。選手生活で初めてタイトルが獲れたし、これだけたくさんのファンがセビージャから来てくれた。信じられないよ…。」

 ベティスのキャプテンのフアニートは、試合後のインタビューで何度も「信じられない」という言葉を繰り返していた。8日のW杯予選ボスニア戦、試合序盤に負傷したプジョルの代役を果たした彼は、終盤ゴールが奪えず苦しむ攻撃陣と共に前線に残り、ラウール・ルケらと共に最後までゴールを襲い続けた。他に代表に召集されていたホアキンやオリベイラ(ブラジル)の2人も代表戦の疲れを引きずったまま、その3日後にコパ・デル・レイ(国王杯)決勝のピッチに立った。苦しいことのあとにはいいことがあるのが理想的な世の条理であって、フアニートの言葉はそれを噛み締めているように思えた。

 ベティスと対峙するのはオサスナ。3回戦からヘタッフェ、セビージャ、アトレティコと1部の強豪たちを次々と破り、下馬評を大きくひっくり返しての決勝進出となった。前メキシコ代表監督のアギーレが作り上げたチームは、「取られたら取り返す」粘り強いサッカーを展開する。アウェーでオサスナ・セビージャに敗れはしたが、すべて1点差負けだった。ホーム試合には全勝しており、1勝1敗で勝ちあがる「勝負強さ」を発揮してきた。ボランチ不足に悩むレアル・マドリードは、オサスナの心臓であるボランチのパブロ・ガルシア獲得を狙っているらしい。

 試合結果を言ってしまえば、延長の末2−1でベティスが勝利した。ベティスがスピードでオサスナを圧倒し、オサスナはパワーでベティスに粘り強く立ち向かった。足元に入ったパスを逃さなかったオリベイラがDFを引きずりながらも先制したが、粘るオサスナが途中出場のアロイシのヘッドで同点に追いつく。試合はお互いの良さが生きる総力戦となったが、延長戦はその色合いがますます濃くなった。最終的に結果を出したのはベティス。オサスナの攻撃を耐え凌いだ後のカウンター、これが延長後半のスピードかと思わせる程早かった。あっという間にペナルティーエリア前まで辿り着き、途中出場のダニが決勝点を叩き出したのだ。ベティスは27年ぶりにコパ制覇となった。


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 闘牛のカポーテをピッチで振り回すホアキンを見ながら、私は今年のコパを振り返っていた。そして、私は思った。「コパは天皇杯とは違うな。」

 まずはその日程。Jリーグは今年から1シーズン制となったが、これまでの2シーズン制だと、チャンピオンシップに出るチーム以外はシーズン後に天皇杯対策を練ることが出来る。さらに社会人、大学、さらには高校と出場資格の底辺が広い分、格下との試合では若い選手を試すことが出来る。「天皇杯の2〜3回戦=プロアマ交流戦」と認識する人も多いだろう。

 しかし、コパは長いリーグの間を縫って開催されるトーナメント。特に準々決勝以降は、リーガでも優勝争い、CLとUEFAカップを巡る争い、残留争いのことを考えなければならない。これはJリーグも同じかもしれないが、2部でも3部でも選手はプロであって、本気でぶつかってくる。今年のチャンピオンのバルセロナは初戦で2部Bのチームに敗れ、レアル系のマスコミに大きく叩かれた。コパを重要視するかどうかはチーム次第だが、1部チームとしての面目を保つことも考えてプレーしなければならない。

 また、準決勝でオサスナに敗れたアトレティコは、準決勝第2戦後のリーガ再開の初戦で再びオサスナと対戦してまたもや敗れた。1週間で同じチームと2度対戦という珍しいことも起こる。過密日程ゆえ、リーガに影響を及ぼすことも少なくない(その後アトレティコは失速し、UEFAカップ出場権を取れず11位)。そして、カップウィナーズカップがUEFAカップと統合されたことで、カップ戦を制すればヨーロッパの舞台で戦えるようになったため、中位のチームのモチベーションも高い(※準優勝のオサスナはベティスがCLに出場するため、UEFAカップに出場)。UEFA主催の大会がシンプルになったことで、各国のリーグ・カップ戦がより白熱するようになった。

 次は会場。天皇杯は「元旦・国立決戦」でお馴染みだが、コパは日程も会場も初めから決まってはいない。今年の場合はリーガが終了する頃に日時が決められ、会場はベティスのホームタウン・セビージャと、オサスナのパンプローナの地理的中間ということで、マドリードが選ばれた。ちなみに、ベティスはマドリードならビセンテ・カルデロン(アトレティコのホーム)よりも、相性のいいサンチャゴ・ベルナベウ(エル・レアルのホーム)を希望していたし、オサスナはファンが移動しやすいメスタージャ(バレンシアのホーム)を希望していた。結局ビセンテ・カルデロンで決定したのだが、決勝のチケットはベティコ(ベティスファン)とロヒージョス(オサスナファン)に均等に振り分けられ、ベンチから見て左がオサスナ側、右がベティス側となり、中央が協会関係者・来賓のゾーンとなった。スタジアムはイタリア国旗の3色が並んでいるように見えた。


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 両チームともタイトルを目指して死力を尽くした戦いを繰り広げた。ダニの2点目の瞬間、FWのアロイシはセンターサークル付近で跪いていた。彼は準々決勝を勝ち抜いた頃から、「ヨーロッパ10年目にタイトルが欲しい」と語ってきた。オサスナのような中堅チームであっても、ホームアンドアウェー方式のトーナメントならば、十分に格上チームに勝つ可能性があるのだ。オサスナは初タイトルを逃してしまったが、中堅チームの魅力をしっかりと示せたはずだ。

 ベティスは、27年ぶりのタイトル獲得。アンダルシアのチームがタイトルを獲得したのも27年ぶりのことだ。一般的に所得が低いとされているアンダルシアでは、常勝チームを作ることは出来ないが、(アブラモビッチのような富豪が来れば別の話)上々の仕上がりのチームを作ることは可能である。ベティスはチャンピオンのバルサをホームでもアウェーでも苦しめた。バルサを苦しめたホアキンは生え抜きのエースになり、バレンシアのベンチで燻っていたオリベイラは、今シーズン22ゴールを挙げた。Bチーム上がりでサブGKだったドブラスも、チャンスを逃さずスタメンを奪った。コパ準決勝アスレティック・ビルバオ戦のPK戦での活躍がなければ、タイトルはベティスのものにならなかっただろう。

「アンダルシアの人は陽気」という世間の認識の通り、この日のベティコは優勝を心から喜び、踊り歌っていた。チャンピオンズリーグ出場権を獲得した時のような喜びようだった。誰もが笑い、それぞれがカメラが向けられる度に喜びを爆発させていた。一方のロヒージョスは、試合後うなだれるイレブンにエールを送り、表彰式後に挨拶に来たイレブンの健闘を称えていた。さらには、ウィニングランをするベティスイレブンにもエールを送るではないか。北部の人々のタフさ・心意気の強さを感じさせるワンシーンだった。首都マドリーのビセンテ・カルデロンは、ベティコ色とロヒージョス色に美しく染まっていた。
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