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 webnews 03/07/15 (火) <前へ次へindexへ>
 全員で勝ち取った最終切符
史上最高の応援を背に。日本女子代表、最終切符をホームで掴む!
2003FIFA女子ワールドカップ・アメリカ大会 プレイオフ第2戦 日本女子代表vs.メキシコ女子代表

2003年7月12日(土)15:04キックオフ 国立霞ヶ丘陸上競技場 観衆:12,743人 天候:晴のち曇
試合結果/日本女子代表2−0メキシコ女子代表(前0-0、後2-0)
     ※第1戦とトータルスコア4−2で日本女子代表が第4回アメリカ大会出場権を獲得
得点経過/[日本]澤(56分)、丸山(83分)


取材・文/西森彰

 正午、つまりキックオフの3時間前。先に国立に到着していた中倉編集長から電話が入った。「ええっと…。さんじゅうにん。さっき数えて確認しちゃったよ、30人」。こうなったら、人数が何人だろうが関係ない。できるだけのことをして彼女たちのファイトに報いよう。そう思って千駄ヶ谷の駅を降りると、国立霞ヶ丘陸上競技場の状況は僅か30分ほどの間に激変していた。千駄ヶ谷門には既に開門を待つ行列ができている。その数は軽く200人以上。

「今日、良かったら応援一緒にどう? 前のほうはLサポが集まって同窓会みたいだよ」と、日頃のライバル同士が同じ目標のために一丸となろうとしている。そうかと思うと年配の男性が「アウェイゴールがあるけれど、同点で良いと思っちゃ負けるよ。やっぱり攻撃的に行かなくっちゃ」と自分が脳裏に描くゲームプランを列整理の若いスタッフに披露している。さらに小さい子供たちを連れたファミリー層が次々にあらわれた。

 開門と同時にファンがメインスタンドを埋めていった。時間を追う毎にその姿が増えていき、やがてバックスタンドにも広がっていった。ホペイロ役を請け負い、チームメイトに先んじて必要物をベンチ前に運び込んだ中地舞と宮間あや。メインスタンドに入っていたクラブの仲間から声をかけられ、後ろを振り返った彼女たちは一瞬、ビックリしたような顔を見せた。彼女たちが見上げたメインスタンドは、試合開始を1時間も前にして9割方埋まっていた。



 直前練習のため、ピッチにあらわれた日本女子代表は舞い上がることなく、非常に落ち着いていた。スタンドのファンに手をあげて感謝の意を表すと、気持ちを集中してアップに移る。基本練習の後、AB2チームに分かれてピッチの半分でフォーメーション練習をおこない、動きの最終確認をする。私の目には、高地メキシコで激戦を戦った傷跡もない、非常に良い仕上がりに映った。

 活発な動きを見せる日本に対してハーフウェイラインの向こう側にいるメキシコは、だるそうな選手たちが中距離の対面パスとシュート練習を繰り返し、軽めのメニューで終えた。「こんなところで使う余計な体力はない」「少しでもスタミナのロスを避けたい」。そんな声さえ聞こえてきそうな練習風景だった。

 気温は天気予報を遥かに上回る30.6度。明け方に降った雨の影響もあり、湿度も64%に達していた。オーロラビジョンに流されたCFの松浦亜弥だけでなく、スタンドの観客も「アジイ、アジイ…」というセリフを一度は口にしたはずだ。最悪のコンディションは日本にとってきついものだったが、メキシコにとってはそれどころではなかった。15時という開催時刻の設定は、やはり大きなホームアドバンテージになったのだ。



 いざ出陣!!狙うは4度目のワールドカップ出場
 15時4分、いよいよ日本のキックオフで試合開始。君が代を力一杯歌い上げたコアなファンの声援を背に受けて日本が左、メキシコが右に布陣した。システムは日本が3−4−2−1で、メキシコは4−2−3−1。

 日本は急転直下で認められたアウェイゴールのため、1−1以下の引き分けは受け入れられる。選手たちもこのアドバンテージを意識下に置いての戦い。酒井與惠、宮本ともみのダブルボランチは必要以上に前に上がらず、DFの前のスペースをきっちりと消し、川上直子、山本絵美の両サイドバックも対面する相手ウイングに対応しながら、タッチライン際を上下する。

 必然的に攻撃の人数は減ってくるが、1トップの大谷未央が空いたスペースに走り込んでボールを受け、小林弥生、澤穂希がこれをフォロー。さらに前線からのチェイシングを怠らないため、メキシコの最終ラインにも余裕がない。厚い中盤によるプレスでセカンドボールの奪い合いに勝った日本は、4分に澤がヘディングシュート、15分にも澤のミドルシュートと前線の枚数が少ないとは感じさせない攻撃で優位に試合を進めた。



 これに対してメキシコはボールを奪うと最前線のマリベル・ドミンゲスに当てて、トップ下でこれをフォローするイリス・アドリアナ・モラが絡む、あるいは両サイドのマイラ・ロサレス、パトリシア・ペレスへ叩くという狙いだった。しかし、サイドのプレイヤーは川上と山本に押さえられ、肝心のドミンゲスには磯崎浩美が粘り強いマークでまとわりついて離れない。

 アトランタ・ビートでは澤のチームメイトでもあるドミンゲスは、磯崎をエキサイトさせようと試みた。17分、接触プレイでもつれた際に審判の目を盗んで肘打ちを放つ。それでも磯崎は全く動じない。イリス・モラも酒井與惠の監視下に置かれたメキシコは前線の4枚が完全にマークされた。チャンスはセットプレイに限定された。だが、メキシコはそのセットプレイからあわやの場面を作った。

 24分、左サイドからのコーナーキック。180センチのモニカ・クリスティーヌ・ゴンサレスをターゲットに見せかけ、ファティマ・レイバの蹴ったボールに合わせたのは、GK山郷のぞみの前でブラインド役をこなしていた小兵のロサレス。しかし、川上とともにポストに張りついていた山本が、練習通りのカバーリングを見せてゴールライン上でクリア。メキシコに重たい1点が入るのを食いとめた。

 前半終了間際のメキシコのフリーキック攻勢も凌いだ日本は、スコアレスをキープしてハーフタイムに持ち込んだ。アウェイゴールが生きるロースコアゲームは狙い通りの展開だ。



 とにかく1点をとらなければ始まらないメキシコのレオナルド・クエジャル監督は、後半開始からボランチのジャネス・パルミラ・シオルディアに代えて、モニカ・ベルガラを投入。リスクを承知で前がかりになったメキシコは、ロサレスのミドルシュートなどで日本ゴールに迫る。

 日本も後半は受身に立たず、攻め合いを選んだ。前半は低いポジショニングをとっていた川上が、田崎ペルーレFCでチームメイトの大谷と絡みながら右サイドを崩していく。6分、川上のスローインを受けた大谷が右サイド深い位置からセンタリング。メキシコDF2枚の間に割って入った小林が左足で叩きつけたが、ここはGKパメラ・タホナルが体に当てて防いだ。

 52分、思うようにいかない苛立ちから、メキシコのイリス・モラが山本にボールを投げつけて警告を受けると、日本も1分後、幾度か嫌な仕事をされていたロサレスを澤が激しく削ってイエローカードをもらう。両チームとも天国と地獄を分ける最後の数十分を迎え、その精神力・体力とも我慢比べは限界に近づいていた。

 そして56分、日本に素晴らしいゴールが生まれる。小林、澤で中央突破を試みた後、セカンドボールを酒井が拾って、左の山本に預ける。寄せてきたゴメスとロサレスをまず右、そして左と深い切り返しで完全に外した山本は、そのまま左足で鋭いクロスを中央へ。ニアサイドに走った大谷の裏にできたスペースで息を潜めていた澤が、このボールに頭をあわせて先制。ついに勝負の天秤が日本に傾いた。



 スタンディングオベーションで選手をたたえる観客
 1点を奪った日本は、直後のメキシコの攻勢を凌ぎ、落ち着いてゲームの揺れを落ち着かせる。メキシコもイリス・モラやロサレスがドリブルで活路を見出そうとするが、日本はマーカーが振りきられずに追いすがり、決してフリーでシュートを打たせない。68分、メキシコのFKではホームタウンディシジョンとしか考えられない幻のオフサイドにも救われ、アステカの過ちを繰り返さずに堪えた。

 この苦しい時間帯に右サイドの川上が繰り返してタッチラインを駆け上がった。メキシコの選手たちにこれを止めるだけの走力は残っていない。「苦しくなったら右のスペースへ」。日本は安全地帯とも言える右翼から攻勢をかけた。27分、50メートル以上の長い距離を走った川上が、中央の澤へボールを送る。メキシコDFを引きつけた澤はフリーの宮本へ。このシュートは僅かにゴール右へそれたが、流れを取り戻すには十分だった。

 78分、メキシコ2枚目の交代にあわせて、日本の上田栄治監督も小林から丸山桂里奈とはじめての選手交代をおこなった。ピッチから退いた小林はしばらくベンチに腰掛けていたが、しばらくしてトラックにくず折れてしまう。精魂尽き果てるまで戦い抜いた小林へ、代わって出場した丸山が最高の気付薬を与えた。83分、フリーキックに時間を使ってイエローカードを受けたキャプテン大部からのロングフィードを、右足のダイレクトボレーで叩き込んだのだ。この丸山のゴールで勝敗は決した。

 完全に切れてしまったメキシコのラフプレイも今までの苦労を思えば大したことではなかった。4分間のロスタイムもこれまで費やしてきた時間を考えれば短過ぎるくらいだった。ロスタイムがやがて5分に近づこうとする頃、タイムアップを告げるカトリーナ・エロビルタ主審の笛が薄曇の国立に鳴り響いた。抱き合う選手たちの背中にスタンドから歓声と拍手が送られた。



 ウイニングランをする選手たちと喜びを分かち合うサポーター
 まずは、酷暑の中を90分間、足を止めずに戦い抜いた日本女子代表の選手たちを称えたい。バランスの良いポジショニング、基本に忠実なスペースとサイドアタックを使ったシステマティックな戦術は、メキシコのそれを完全に上回っていた。試合を振り返っていても、飛びぬけて印象に残っている選手やプレイがない。それは良い意味で全員が最後まで自分の役割を全うし、誰かひとりに負担をかけなかったからだろう。

 そして、この日のスタジアムが本当に良い雰囲気だったことも付け加えておきたい。公式発表12,743人(どう見てもそれより多く感じたが)のひとりひとりが、日本の選手たちを「ホーム」で戦わせるために懸命になってくれた。Lリーグのクラブや大学の関係者は一緒にプレイするチームメイトに声援を送り続け、この日はじめて女子サッカーを観戦した人たちは苦しい時間帯に声を振り絞ってコールした。何より90分間を通じてミスした選手にブーイングではなく拍手を送り続けたファンの姿は、最終切符を掴むうえで大きな力となったに違いない。

 試合終了後、川淵三郎キャプテンは素晴らしい戦いを見せた選手たちに特別ボーナスの増額を発表した。実は第24回全日本女子サッカー選手権大会決勝戦終了後、周囲を囲んだ記者団に対し「500万円。さん、いち、ご、ご(優勝300万円、準優勝100万円、3位50万円ずつ)くらいで出しても良いんじゃないかな。あくまで私案だよ、私案」と賞金増額の可能性について口にしている。おそらくキャプテン就任後、思いついた最も良いアイデアであるはず。ぜひ、その持ち前の行動力で実現させていただきたい。この試合を見た人ならばその賞金500万円が5,000万円になってもおそらく文句をいわないだろうから。


(日本女子代表) (メキシコ女子代表)
GK: 山郷のぞみ GK: パメラ・タホナル
DF: 磯崎浩美、大部由美、矢野喬子 DF: エリザベス・パトリシア・ゴメス、モニカ・クリスティーヌ・ゴンサレス、ルビ・マルレネ・サンドバル、スサーナ・モラ(78分/ルス・デルロサリオ・サウセド)
MF: 川上直子、酒井與惠、宮本ともみ、山本絵美、小林弥生(78分/丸山桂里奈)、澤穂希 MF: ファティマ・レイバ、ジャネス・パルミラ・シオルディア(45分/モニカ・ベルガラ)、マイラ・ロサレス、パトリシア・ペレス、イリス・アドリアナ・モラ
FW: 大谷未央(92分/荒川恵理子) FW: マリベル・ドミンゲス
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