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 webnews 03/12/25 (木) <前へ次へindexへ>
スペインの大健闘も及ばず。ブラジルが4回目の優勝を飾る
FIFA World Youth Championship UAE2003 決勝 スペイン代表vs.ブラジル代表

2003年12月19日(金)20:45キックオフ アブダビ(ザイード・スポーツシティ・スタジアム) 観衆:60,000人
試合結果/スペイン代表0−1ブラジル代表(前0−0、後0−1)
得点経過/[ブラジル]フェルナンジーニョ(87分)


文/中倉一志

 長い、長い、94分間の終わりを告げるホイッスルが鳴り響いた。抱き合い、重なり合って喜ぶブラジルイレブン。呆然と立ち尽くし、あるいはピッチに倒れこんで悔しさに暮れるスペインイレブン。互いの差はわずかに1点。たった1度のセットプレーでの得点が両者の立場を残酷なまでに分ける。しかし、死力を尽くした両チームの力に差はなかった。スペインもまた、讃えるに値するチームだった。この日はブラジルが栄冠を掴んだが、若い選手たちの戦いは始まったばかりだ。



「攻撃のブラジル」対「守備のスペイン」。両チームは、ここまで対照的な勝ち上がりを見せてきた。ブラジルはスコアの上では接戦が多いが、その卓越した技術と攻撃的な姿勢は今大会No.1。常に高い位置でのプレーを選択する両SBはMFと見間違うほどだ。グループリーグではオーストラリアに不覚を取ったが、今大会の優勝候補筆頭であることは間違いない。対するスペインは、ブラジルと同じくグループリーグを2位で突破したが、ここまで喫した失点はわずかに3。その守備の堅さが光る。

 戦前の予想ではブラジルの優勝を押す声が圧倒的。そんなブラジルに対して、堅い守りで膠着状態を作り出し、少ないチャンスを確実に決めて逃げ切ろうというのがスペインの狙いだったはずだ。ところが試合は思いもよらぬ幕開けとなる。自陣左サイドの深い位置からのダニエル・カルバーニョのロングフィードにニウマールがDFの裏に抜け出した。次の瞬間、メッリがユニフォームを掴んでニウマールを引きずり倒す。ファールを告げる笛。そして赤いカードが提示された。試合が始まって4分が経ったばかりだった。

 ブラジルは、ここがチャンスとばかりに前がかりになって激しく攻め立てた。準々決勝の日本戦同様、早い時間帯で勝負を決めてしまおうということなのだろう。相手は10人、そして攻撃には自信がある。当然といえば当然の狙いだった。しかし、スペインはそれを許さなかった。残された3人のDFと5人のMFで巧みにスペースを消し、あるいはコンパクトなゾーンを敷いて、ここぞというところでプレスをかけてブラジルの自由を奪う。10人しかいないことを全く感じさせない守り方は見事。慌てるそぶりを少しも見せず、淡々とブラジルの攻撃を凌いで行く。



 手元のメモを見ると、ブラジルの前半の決定機は6回。しかし、クロスバーに阻まれ、あるいはポストをわずかにはずれゴールを奪うことが出来なかった。それどころか、20分を過ぎた辺りから攻撃のテンポが微妙に狂いだした。スペインの頑張りと巧みな守りの前に、不用意に攻め込めなくなったのだ。しかも、針の穴ほどの隙を見つけては1人でブラジルのゴールを狙うセルヒオ・ガルシアの存在も不気味。いくら数的優位でもDF面の注意は怠れない。

 明らかにペースはスペインに移っていた。ハーフタイムにピッチを引き上げるブラジルイレブンの表情から余裕は感じられない。「どこか勝手が違う」。そう言いたげな表情だった。そして後半に入ると、彼らの嫌な予感は的中する。49分、ビトロのFKがブラジルゴールを襲う。続く5分、セルヒオ・ガルシアが1人で持ち込んで強烈なシュートを放つ。余裕がないブラジル。淡々と当たり前のようにプレーするスペイン。どちらが10人か分からなくなった。

 ブラジルがようやくシュートを打ったのは56分のこと。しかし、それ以降、シュートさえ打てなくなった。ボールこそキープしているものの、スペースを消されて攻め込む手立てを見つけられない、そんなブラジルがわずかな隙を見せると、スペインはスルスルとパスをつないで、あるいはセルヒオ・ガルシアが前線でボールをキープしてチャンスを作り出す。決して守っているだけではない。攻守のバランスのよさと、攻めに転ずるタイミングの良さは見事としか言いようがない。



 満員の観衆までをも味方につけて、スペインは狙い通りにゲームを進める。得点の気配も漂ってきた。後はゴールをひとつだけ奪うだけでいい。それで勝利は手に入るはずだ。その後もペースはスペイン。ブラジルは攻めることが叶わない。決してブラジルが攻めあぐねているわけではない。スペインの守りが堅かったこと、スペインがワンチャンスをものにする気配を常に漂わせていたことが、ブラジルから攻め手を奪ったのだ。そして時間は85分を経過。ブラジルは延長戦を視野に入れなくてはならなくなった。

 しかし87分、とうとうブラジルはゴールをこじ開けることに成功した。左からのCKのチャンス。ダニエルがゴール前に上げたボールにフェルナンジーニョが飛び込んだ。そして、フェルナンジーニョが頭でさらえたボールがゴールネットに突き刺さった。その後、スペインも最後までゴールを奪う姿勢を忘れずに攻め込むシーンもあったが、結局は、この1点が決勝ゴールとなってブラジルが4度目の優勝を飾った。



 試合自体はスペインが思い描いていた展開だった。後半に入ってからはブラジルを術中にはめ、あわやゴールというシーンをいくつも作り出した。スペインが勝っていたとしてもおかしくはなかった。10人だから敗れたというのはスペインに失礼だろう。ブラジルのほうが1枚上手というのも正しくない。狙い通りに試合を進め、狙い通りにシュートを打った。しかしゴールはならなかった。サッカーという競技ではよくあることだ。結果として敗れたが、その戦いぶりに敬意を表したい。

 その一方で、あの重苦しい雰囲気の中で、むしろ精神的にはスペイン以上の重圧を感じる中で、わずかなチャンスをゴールに結びつけたのはブラジルの底力とも言える。決勝ゴールは後半に入ってブラジルが放った3本目のシュート。普通なら、良くて延長戦、最悪の場合は敗れる危険性も十分にあったのだ。にもかかわらず、わずかにチャンスを形にするのは、サッカー王国としての誇り、意地、厳しい戦いの中で身につけた精神力の賜物だ。

 ブラジルは、今大会の優勝で、2002年W杯以降、U-17、U-19と、FIFAが開催する国際大会で3連勝を飾った。これでオリンピックを制すれば、全てのカテゴリーのタイトルをブラジルが持ち帰ることになる。ユース年代については各国とも取り組み姿勢や育成方針が異なるので単純な比較は出来ないが、あらゆるカテゴリーでトップを戦えるのは、やはり「サッカー王国」ならではだろう。そしてブラジルらしく攻撃的に戦った今大会。ブラジルの強さと層の厚さを改めて感じさせられた大会でもあった。


(スペイン代表) (ブラジル代表)
GK: リエスゴ GK: ジェフェルソン
DF: ブゾン カルロス・ガルシア メッリ(4分/退場) ペーニャ DF: ダニエル アウシテス・エドアルド アダイウトン アドリアーノ
MF: ファンフラン ピーニャ(70分/ガビラン) イエニスタ ガビ(88分/マヌ) ビドロ MF: ジャルデウ ドゥドゥ ダニエル・カルバーニョ(94分/アンドレジーニョ) ジュニーニョ(70分/フェルナンジーニョ)
FW: セルヒオ・ガルシア FW: ニウマール(64分/ダゴベルト) クレベル
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