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 webnews 05/12/24 (土) <前へ次へindexへ>
本当に勝ちたかったクラブの元へ、トヨタカップは渡った。
FIFAクラブワールドチャンピオンシップ トヨタカップ ジャパン2005 決勝 サンパウロFCvs.リバプールFC

2003.12.18(日)19:20キックオフ 横浜国際総合競技場
試合結果/サンパウロFC1−0リバプールFC(前1−0、後0−0)
得点経過/[サンパウロ]ミネイロ(27分)


取材・文/西森彰

 デポルティボ・サプリサとアル・イテハドによる3位決定戦が始まる前から、横浜の街には白をベースにしたサンパウロのユニフォームが溢れていた。ことサッカーとなれば、どんなタイトル戦であっても負けてはいけないお国柄のブラジル。もちろん、歩道で踊るブラジル人たちは、この日のゲームこそ世界一決定戦と信じて疑っていない。

 決勝戦は大方の予想通り、欧州代表と南米代表の対決となった。3位決定戦の終了直前から、徐々に人が増え始めた横浜国際総合競技場のスタンドには、公式発表66,821人の観衆が入った。その内訳はサンパウロのファンが10%、リバプールのファンが1%未満、他大勢が9割を占める、いかにも日本らしい風景。競技場の中でもサンパウロのファンは、気勢を上げて、自分たちのチームを鼓舞している。

 隠れファンこそ多くいただろうが、リバプールには拍手もまばら。しかも大多数が手袋を着用しているために、アップを進める選手たちの聴覚に訴えることもない。さらには、黙祷直後の突発的なキックオフ、そして観客の乱入。イスタンブールの奇蹟を演じた猛者たちも「何が起こるかわからない」という薄気味悪さを感じていたはずだ。


 それが影響したのかどうか、FIFAクラブワールドチャンピオンシップのファイナルは、静かな立ち上がりを見せた。

 リバプールは3日前の試合と先発メンバーを5人も入れ替えてきた。最前線で張るのは、準決勝で2得点を挙げたピーター・クラウチではなく、ベテランのフェルナンド・モリエンテス。この周りをルイス・ガルシアが動く4−4−1−1。一方のサンパウロは、アル・イテハド戦と全く同じ11人。

 どちらも先に傷を負わないように、ゆっくりと相手の様子を見る。こう着状態の中でボールポゼッションを争うなら、足元の技術で上回るサンパウロに軍配が上がる。足元でボールをキープし、ラインの裏に走りこむ味方に、点で合わせようと試みる。リバプールは、サンパウロの厳しいチェックもあって、なかなか攻撃の起点を作れない。

 そして、27分、左サイドでアモローゾがタメを作ると、前の選手を追い越したボランチのミネイロが、リバプールが敷いたラインディフェンスの裏を取る。ホセ・マヌエル・レイナの鼻先でボールを受けたミネイロが、リバプールの連続無失点記録を破ると、サンパウリーノが喜びを爆発させた。前半はそのままサンパウロが圧倒的に優勢を保ったまま終了。リバプールは、スティーヴン・ジェラードがフリーのシュートを枠から外すなど、ほとんど良いところがない。



 クラブにビッグイヤーをもたらし、「5人目のビートルズ(ジョージ・ベスト他多数が該当するのだが)」と讃えられた、スペイン人のラファエル・ベニテス監督は、ここから単純かつ最も効果的な戦術に転換する。フィールドプレーヤーの平均身長差約5センチを生かし、ハイボールで勝負を挑んだのだ。

 この戦術変更で、試合の流れは完全にリバプールへと移った。前半から、ハリー・キューウェルに対応して4バック気味になっていた右ウイングバックのシシーニョに続き、左ウイングバックのジュニオールも背後へボールを入れられて、ポジションを下げられる。当然のことながら中盤、特にサイドでリバプールの選手たちが、自由を手に入れられるようになった。ここから前線に送られるロングボールがFK、CKとセットプレーを生み、チャンスが広がる。

 それでもサンパウロのゴールには、神がかったように当たりまくるGKが鎮座していた。右隅に吸い込まれるかに見えたジェラードのFK、蹴った本人さえ期待しないような軌道を描いたキューウェルのクロス。そして、ルイス・ガルシアのシュート。それらは、いずれもサンパウロの守護神ロジェリオ・セニによって阻まれる。

 45分間、サンドバックのように相手を殴り続けたリバプールは、セニの守るゴールのネットを3度揺らした。しかし、1度目は走りこんでヘディングした選手とは別の選手がオフサイドを取られ、2度目はカーブのかかったパスがゴールラインを割っていたと判断され、3度目はどこにも存在しないオフサイドによって取り消された。

 

 試合後の表彰式で、審判に大きなブーイングを飛ばしたリバプールのファンの姿勢は、ファンとしては正直なものだが、最大の敗因は、ほとんど無為に過ごした前半にある。スペイン人監督の美的意識が許さなかったのか、それとも前半から放り込んでいては最後まで足が持たないと思ったのか。いずれの理由かはわからない。

 長く高いボールを主体にした後半の戦術を採れば、ハーフコートに押し込めた可能性も小さくない。その意味では右のジェラードと呼応して左から鋭いクロスを上げられるヨン・アルネ・リーセ、そして2メートル超の大男クラウチをベンチスタートさせたことが裏目に出たとようにも見える(クラウチは負傷もあったのだが)。非常にもったいないゲームだった。

 さて、新装されたトーナメントの初代王者に輝いたのはサンパウロ。実力と意欲を兼ね備えたクラブは、見事にトヨタカップのトロフィーを横浜の夜空に掲げた。MVPに選ばれたセニの度重なるスーパーセーブもあった。そして、審判のジャッジにも救われた部分もあった。

 それでもパウロ・アウトゥオーリ監督のセリフにあるように「途中経過は関係ない」のがサッカーというスポーツ。最後に1対0のスコアが残っている以上、サンパウロの勝利にケチをつけるべきではない。そして、この勝利を心の底から喜んでいるファンがいる。最も頑張ったクラブが、最も高い位置を占めた。スポーツ的にはフェアな結果である。



 この大会への期待も、私の中では高まった。「これだけ大陸間格差があるのに、世界戦とはちゃんちゃらおかしい」という方々もいらっしゃるようだが、その人たちはきっとワールドカップを見たことがないのだろう。優勝を争うチームしか土俵に上がる資格がないなら、ワールドカップにはブラジル、ドイツ、アルゼンチン、イタリア、そして開催国しか出なくて良いはずだ。

 第3世界のクラブだって捨てたもんじゃない。Jリーグ元年を思わせるシドニーFCのピュアな戦い、そしてキング・カズ。「50戦無敗」と未知なる魅力を掻きたててくれたアフリカの怪物アル・アハリ。今大会、勝てる相手には全て勝った「第3世界首位」のデポルティボ・サプリサ。そしてJリーグが辿り着くべきポイントを、ハッキリと示してくれたアル・イテハド。彼らはサンパウロとリバプールの強さを推し測る、精密な定規の役割も果たしてくれた。

 1年後、彼らが大陸チャンピオンとして再来日した時、我々はクリスティアン・ボラニョスやデビッド・カーニーのプレーを今回よりも把握している。アラブのチームが誰をいくらで補強したかも噂しているはずだ。そして冬の耐え難い寒さを堪えて、セニのスーパーセーブや、ジェラードのノートラップボレーを思い出し、Jリーグクラブの挑戦過程を語らいながら、キックオフを待っているだろう。

 そういう繰り返しで歴史は刻まれ、地位も向上していく。どんな大会だって始まりがあった。諦めずに継続していけば、この大会のトロフィーも、徐々に輝きを増していくはずだ。


(サンパウロFC) (リバプールFC)
GK: ロジェリオ・セニ GK: ホセ・マヌエル・レイナ
DF: シシーニョ、ファボン、ルガーノ、エドカルロス DF: スティーヴ・フィナン、ジェイミー・キャラガー、サミ・ヒーピア、スティーヴン・ワーノック(79分/ヨン・アルネ・リーセ)
MF: ジョスエ、ミネイロ、ジュニオール、ダニーロ MF: スティーヴン・ジェラード、モハメド・シソコ(79分/フローラン・シナマ・ポンゴル)、シャビ・アロンソ 、ハリー・キューウェル
FW: アロイジオ(75分/グラフィッチ)、アモローゾ FW: ルイス・ガルシア、フェルナンド・モリエンテス(85分/ピーター・クラウチ)
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