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 Go for Athens 04/04/18(日) <前へ次へindexへ>
やれるだけのことはした。後は本番を待つのみ。
Go for Athens(13) 全てがそこにある。


文/西森彰

「我々はJヴィレッジでずっとやっているんですけれども、ご覧のとおり、コンビニとか温泉とかそれくらいで、女性でそういう類のものは無いので…(笑)。きっと、皆さん、いろいろと書きたいんでしょうけれども」。福島合宿の練習終了後、男子A代表の無断外出問題について報道陣と雑談中、上田栄治・日本女子代表監督が喋りながら、自分のセリフに思わず噴き出した。

 3週間、フィジカル中心のトレーニングをこなした2月の福島合宿では、選手選考期間でもあり、選手たちのストレスも相当あった。そうした対策として焼肉パーティや温泉外出などのイベントを休養日に取り入れていたようだが、最近は『ビリヤードや卓球で十分』と言ってくるんで」(上田監督)練習漬けの毎日だ。

 1週間、みっちり練習が出来る。1日中、サッカーのことだけを考えることができる。それだけで女子代表の選手たちにとっては夢のような環境なのだ。



「内容より結果」。酒井は中盤の底で日本代表を支える。
 L・リーグではTASAKIペルーレFCのような一部の企業チームを除けば、アルバイトなどで生活費を稼ぎ、学校、職場を終えた夕方から集まって練習を行なうクラブチームの方が圧倒的に多い。

 昨シーズンをL・リーグ3位で終え、宮崎有香、宮本ともみ、山岸靖代の3人を代表に送り込んでいる伊賀FCくノ一も、企業チームから市民クラブチームへと姿を変えた。首都圏で昼過ぎにキックオフするゲームへの移動手段はバス。当日の早朝5時、6時に集合して試合会場を目指す彼女たちにとって、アウェーゲームは大きなビハインドを背負ったものとなる。

 L・リーグで2年連続最優秀選手に選ばれた酒井與惠の所属する日テレ・ベレーザもクラブチームだ。荒川恵理子、小野寺志保、小林弥生、澤穂希、永里優季、そして酒井と女子代表内最大派閥を形成し、TASAKIとの「2強」を謳うこのクラブの選手たちも「もっと練習ができれば、もっと上手くなれるはず」と思いながら、現状の中で、できる限りの努力を積んでいる。

「オリンピックは夢。そこに賭ける想いとか、今までに積み重ねてきたもの、そういうものを全て出す。『内容より結果』です。アトランタに出て、シドニーを逃して・・・。今回を逃したら次は無いと思うんですよ。ホッケーにしてもバスケにしても次々に女子チームが出場を決めているし。やっぱり世間の注目度も高いと思うんで、必ずアテネへ行きたいです」(酒井與惠)

 アテネへ行ければ、またサッカーだけに集中できる。



不動の右サイド川上(黄色)。代表一の体力を誇る。
 昨年、L・リーグで連勝街道を驀進中、スタジアムでインタビューに応じてくれた川上直子(TASAKIペルーレFC)は語った。

「私たちは恵まれているんだから、結果を求められて当然なんです」

 L・リーグ参加以降、田崎真珠はチームをずっとスポンサードし続けた。リーグ優勝など遥か手の届かない時代、2部(チャレンジリーグ:当時)落ちを経験した時代もだ。チームの選手たちは全員が雇用してもらえている。Jリーグの環境とは比べるべくもない。それでも川上が語るとおり、女子サッカー界では恵まれている方なのだろう。

 選手たちもプレーを続けさせてくれる会社への愛社精神は並外れたものがある。どんなに観客が少なくても、試合前には自分たちでロゴの入った横断幕を取り付ける。例え、真冬の表彰式でも、トロフィーやメダル授与という記念撮影シーンでは、必ず上に羽織っていたコートを脱ぎ捨てて、ユニフォームの胸についている「TASAKI」のロゴを露出する。自社製品を身に付けてアピールする選手もたくさんいる。

 彼女たちは地元である兵庫県内の幼稚園にも出向いて、園児たちにサッカーの楽しさを教えている。「一種の『地域密着』というんですかね。でも特にチームとしてやらせている訳でなく、有志たちで自主的にやっているんですよ。もちろん、自分たちの休日にね。本当に頭が下がります」(仲井昇監督・TASAKIペルーレFC)。そんな彼女たちの行動は、自分の会社のイメージアップ、そして女子サッカー全体の認知にもつながっている。

 アテネへ行ければ、その効果は数倍、いや数十倍だ。



「これからの女子サッカーのために戦いたい」。磯崎は自分のサッカー
人生をかける。
 川上と同じTASAKIに所属する磯崎浩美は、キャプテンの大部由美(YKKフラッパーズ)が出場しない試合では、ゲームキャプテンを任されている。得意の密着マークを「カマキリディフェンス」という横断幕が称える。昨年のプレーオフでも、メキシコのエース・ロドリゲスを完封した磯崎だが、本大会のパフォーマンスは外から見ていてもベストコンディションには程遠かった。ひと月前の伊賀FCくノ一戦でのケガが尾を引いていた。

「これまで随分長いこと選手生活をやって来ている中でも、たぶん一番大きなケガだったと思います。足首が膨れ上がってまともに履けないのに、テーピングで固めた足を無理やりスパイクの中に突っ込んでいるような状態でした」

 失意のうちに終わったワールドカップを経て、所属チームに戻った磯崎はL・リーグ、全日本女子サッカー選手権のダブルクラウンに大きく寄与した。そして新シーズン、彼女は一度も参加したことがないオリンピックの舞台を目指す。もちろん、不本意だったワールドカップのリベンジもある。けれども、それは自分自身のためだけではない。

「年齢的にも今回が世界を目指せる最後のチャンスだと思う。自分のこともありますけれども、まずは、ずっとここまでやってくるのを支えてくれた家族、いつも応援してくれている人たち、そしてこれからの女子サッカーのために戦いたい」

 アテネへ行ければ、世話になった人たちへ最大の恩返しになる。



 サッカーのことだけを考えていられる時間を、1分1秒でも長く引き伸ばすために。これまで支えてくれた家族のために。仕事をフォローしてくれた同僚のために。全てはアテネを目指す戦いの中にある。
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