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 Go for Athens 04/04/25(日) <前へ次へindexへ>
全ては厳しいトレーニングの結果だった。
「番狂わせ」なんてとんでもない! 日本女子代表、順当にアテネ行きの切符を獲得!
アテネ五輪女子サッカー・アジア予選 準決勝 日本女子代表vs.北朝鮮女子代表

2004年4月24日(土)19:00キックオフ 国立霞ヶ丘競技場 観衆:31,324人 天候:晴
試合結果/日本女子代表3−0北朝鮮女子代表(前2−0、後1−0)
得点経過/[日本]荒川(11分)、オウンゴール(44分)、大谷(64分)


取材・文/西森彰

 4月24日(土)、3万人を超える大観衆が詰め掛けた国立霞ヶ丘陸上競技場。日本女子代表は北朝鮮女子代表を90分間、掌の上でプレーさせ、アテネ行きのチケットを手に入れた。バックスタンドに陣取ったL・リーグの選手、家族を含め、国立に来てくれた全てのファン、そしてテレビの前で応援してくれたファンに感謝すると共に、心の底から「おめでとう」の言葉を日本女子代表に贈りたいと思う。

 その勝利は決してフロックによるものではなかった。世間の悲観論を他所に、ベトナム戦後のレポートで「絶対に北朝鮮に勝てる。」と書いてしまった。そこまで断言させてくれたのは彼女たちの合宿でのトレーニング内容と、北朝鮮対策の浸透度だった。もう、あの右サイドを大きく開けた変則システム、その他の説明をしても良いだろう。いや、威張って書かなくても、昨日の試合を見て気づいた方も多いはずだ。



練りに練られた北朝鮮対策。女子代表は大舞台でそれを実践した。
 磐城高校との練習試合を終えた帰り道だった。女子代表のFWが、相手左サイドバックにボールを持たれた場面で、必ず中央に戻すコースを切り、タテに自由にドリブルさせていることに気づいて質問すると、上田栄治・女子代表監督は、こっそりと小声で種明かしをしてくれた。

「北朝鮮の左サイドの選手は、それほど上手くないんですよ。特に左足が。女子サッカー全体の傾向なんですが、利き足と逆で上手く蹴れる選手は少ないんです。だからFWにはそちらから真ん中に戻させないように指示しているんです。『タテにドリブルさせなさい』と。ええ、今日の相手どうこうではなく、相手を北朝鮮と仮想して練習させてもらいました」

 左足が上手く蹴れないということは、日本にとって一番嫌な2トップへの速いクロスが入らないということだ。だから、そのサイドに大きなスペースを作り、ここに相手の左サイドバックを呼び込む。荒川恵理子、大谷未央の2トップも、北朝鮮最終ラインのボール回しが、怖い右サイドへ回る道だけ徹底的に寸断した。そしてFWのチェイシングで前に出てきたサイドバックを、酒井與惠と川上直子のふたりが狙い打ちにしたのだ。

 このサイドの攻撃については、川上とふたりのFWが中途半端に上がった相手の裏にできるスペースに走り、後方からのボールを呼びこむのが基本。日本にペースをもたらした先制点は、川上の右サイド突破後のリスタートから。そして、守備範囲が狭いGKと自分たちの間にクロスを入れられることに神経をすり減らした、北朝鮮DFのクリアミスから生まれた。



 その後の北朝鮮優位に見える時間帯も、日本の約束事が機能していた。危険な2トップへの対策はこうだ。まず、左右からのクロスについては、マークするDFが、責任を持って先に触る。万が一、後ろにこぼれたら、それはGKが処理する。「絶対に先に触る」プレーについては、上田監督自らDFに対して、自分の強さに自信がある選手用、そうでない選手用と2パターンの守り方を教え、自分のタイプにあったタイミングで動き出すように、指示していた。ここで得たマンマークのやり方をDFがこなした。

 そしてハイボールの処理、浮き球の処理に自信を持つために、これを毎回練習で繰り返した。また、当然、そこから生まれる混戦の対応として、瞬時に敵味方を判別するためのハンドボール形式のパス練習、狭いエリアでの鳥かごにも多くの時間を割いた。磯崎浩美の神がかったクリアをはじめ、こぼれ球に対する最後の一歩で日本が勝ったのはその積み重ねだ。

 さらに北朝鮮の2トップとトップ下へのグラウンダーのパスについては、宮本ともみと酒井與惠のダブルボランチが必ず、中央に残って対応した。酒井が川上の上がった右後方のスペースを埋めている時には、山本絵美が中に絞って宮本とパスコースを塞ぐ。必ず中央に2枚残して、北朝鮮の前線へつながるパスコースを消しまくる。



女子サッカー史上最大の報道陣。メディアもまた、日本代表の力に
なった。
 当然、攻撃は2トップと澤穂希に限定されたが、ここは動き方を工夫した。2トップは必ず、2枚一緒に一定の距離で動く。1枚がサイドの裏に流れ、ここで生まれたスペースをもう1枚が生かす。この第2の動きにDFが釣られたら、逆サイドのエリアはがら空きなので、ここに澤を飛び込ませる。ボールの引き出し方が一番上手いのは荒川で、彼女の先発起用は前半2点のみならず、その他の時間帯でも効いていた。

 上田監督は、その大活躍した荒川に代えて、後半途中から丸山桂里奈を起用した。これはカウンター狙いはもちろん、チェイシングの上手さを買ってのものだ。荒川はプレスのかけ方にやや難が残る。先発起用は当たった。だが2点差で臨む後半は、後ろの選手にとっても、忠実に追いかけてくれる丸山の方がありがたい。後半、北朝鮮の選手たちが次々に足を攣った。それは日本の前線からのプレスが機能した結果だった。

 最後に止めを刺した3点目のセットプレーについても触れておこう。ファーサイドの宮本ともみをターゲットにした折り返しからのゴールは、福島合宿以来練習していた代物で、偶然ではない。磐城高校戦終了後に吉田コーチが「あの形で(決定機を)作れるようになった」とお墨付きを与えた。その精度を上げるために最後の自主練習の時間帯に山本が繰り返し、蹴り続けたボールの終着点があの3点目の弾道だったのだ。



 どれも特別なことではない。相手をきっちりと分析し、それに対するテーマを持ったトレーニングの積み重ね。ひとつひとつを決して雑に扱わず、自己目標をクリアし続けた日本女子代表。その練習時間を確保したサッカー協会。練習内容をひた隠しに隠し、システムまでぼやかし続けた取材陣。そして、90分間「あのウズベキスタン戦」を思い出させる多くのファンの応援。

「ひとつひとつを出し切りさえすれば、結果は必ずついてくる。日本女子代表史上最高のサポートを受けたこのチームなら、絶対に北朝鮮に勝てる」。タイ戦レポートの末尾に書いた言葉は、そのままパワーアップして、現実のものとなってくれた。


(日本女子代表) (北朝鮮女子代表)
GK: 1山郷のぞみ GK: 1リ・ジョンヒ
DF: 2矢野喬子 3磯崎浩美 5川上直子(72分/15山岸靖代) 13下小鶴綾  DF: 2ユン・インシル 6ラ・ミエ 12チャン・オックキョン 17ヤン・キョンヒ 
MF: 6酒井與惠 7山本絵美(86分/18柳田美幸) 8宮本ともみ 10澤穂希 MF: 7リ・クムスク 8ソク・チュンミョン(41分/15リ・ウンギョン) 14オ・クムラン(70分/5シン・クムオク) リ・ヒャンオク
FW: 9荒川恵理子(52分/19丸山桂里奈) 11大谷未央 FW: 10チン・ピョルヒ 11ユン・ヨンヒ
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