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 第84回全国高校サッカー選手権大会 <前へindexへ>
クリエイティヴィティとパワーのぶつかり合い。野洲が84代目の王座に輝く
第84回全国高校サッカー選手権大会 決勝 鹿児島実業高等学校vs.滋賀県立野洲高等学校

2006年1月9日(月・祝) 14:10キックオフ 国立競技場 観衆:31782人 天候:晴
試合結果/鹿児島実業高等学校1−2滋賀県立野洲高等学校(前0−1、後1−0、延前0−0、延後0−1)
試合経過/[野洲]荒堀(23分)、[鹿児島実業]迫田(79分)、瀧川(107分)


取材・文/中倉一志

「これが野洲」。そう言わんばかりの決勝ゴールだった。時間は107分、左サイドハーフウェイライン付近から、田中雄大が大きく右サイドへ。ピッチを横断する糸を引くようなボールが乾貴士の足元にピタリと届く。その素晴らしい球筋にスタンドがどよめく中、乾はドリブルで中央へ持ち込んでからヒールパスで平原研へ。平原が再び右サイドへはたくと、オーバーラップしてきた中川真吾がGKとDFラインの間に絶妙なクロスボールを送る。最後はファーサイドへ走りこんできた瀧川陽がゴールネットを揺らした。

 鹿児島実業にすれば一瞬の出来事だった。この直前、ゴール前に攻め込んだ鹿児島実業は決定的なチャンスを演出。GK下西要のセーブの前にゴールを奪えず、そのプレーで痛んだ西岡謙太がピッチの外に出ていたわずかな隙を突かれた形になった。これも勝負のあや。言い換えれば、両チームの間には、些細なことでしか決着がつけられないほどの差しかなかったということ。極めて対照的なサッカーを繰り広げた両チームだが、勝負の面では五分と五分で渡り合った好ゲーム。今大会のベストゲームとなったことに疑いの余地はない。



 このゲームの第一のポイントはゲームの入り方だった。鹿児島実業のストロングポイントはパワーとスピード溢れる中盤のプレッシャー。そして野洲は高い技術に裏打ちされた中盤の構成力。自らのストロングポイントを生かすためには、相手の最も得意とする部分を潰す以外に方法は無い。「野洲の中盤をどのように切っていくかなということ」(松澤隆司総監督・鹿児島実業)。「疾風怒濤の攻撃を、穴にもぐって隠れておくか、前に出るかの二つに一つ。野洲は野洲らしく行け」(山本佳司監督・野洲)。互いに真っ向から勝負を挑んだ。

 前に出るのは鹿児島実業。しかし、栫大嗣を欠く布陣は前線に預けどころがなく、いつものように奪ったボールを前線に放り込むことが出来ない。対する野洲は無理してつながず、かといって下がらず、DFラインへボールを戻して左サイドの田中から正確なフィードを前線に当てる。そして鹿児島実業が下がると空いた中盤でボールを回した。「あの使い分けが上手かったですね」(松澤監督)。前へ出てはすかされ、長いボールを保持され、鹿児島実業からは、いつもの疾風怒濤の先制攻撃が消えた。

 10分を過ぎてからは野洲の一方的なペース。積極的に仕掛けるドリブル。囲まれてもボールを奪われない技術の高さ。そして正確無比なサイドチェンジとロングフィード。自由自在にパスを回す野洲を鹿児島実業は捕まえきれない。そして先制点は22分、セットプレーのこぼれ球を拾った野洲は金本竜一がすかさずクロスをファーサイドへ。これを荒堀謙次がゴールへ叩き込んだ。この後もペースは野洲。追加点はならなかったが、自慢のクリエイティブなサッカーを随所に披露。野洲の特徴を余すことなく発揮して前半を折り返した。



 さて、二つ目のポイントは後半の立ち上がり。ここでは鹿児島実業が主導権を奪った。鹿児島実業は後半から平田政志郎に代えて飯森裕貴を投入。この飯森が前線で起点を作ることで鹿児島実業の前へのパワーが蘇る。中盤と最終ラインが押し上げてコンパクトなゾーンを形成する鹿児島実業は、持ち前のハイプレッシャーでボールを支配。野洲を自陣に閉じ込めてゴールへ迫る。その気迫はすさまじいばかり。オールコートプレスをしかけてボールを奪っては、ゴリゴリと前へ出る。

 しかし、野洲も踏ん張りを見せる。「攻め好きで守備が嫌いなメンバーが、DFの意識を高く持って、チームとしての完成度が高くなった」(山本監督)。ピンチの場面では身体を張ってボールを跳ね返し、これでもかとばかりに前へ出る鹿児島実業の攻撃を跳ね返し、その裏を取って、カウンター気味の攻撃から決定機を作り出す。最後のところでシュートが枠を捉えられずに突き放せずにいたが、こちらも虎視眈々と追加点を狙う。

 そんな展開の中でゴールを奪ったのは鹿児島実業。時間は79分。クリアボールを拾って強引に攻め込む鹿児島実業は、最後は迫田が頭で押し込んだ。そしてここからは、決勝ゴールを目指して、両チームともに攻撃的な姿勢を打ち出して真正面からぶつかり合った。人数をかけて強引に前へ出る鹿児島実業。高い技術を武器に個人技でチャンスを作り出し、それを起点に流れるように攻撃を組み立てる野洲。ともに自分たちのサッカーをやりとおすことだけに集中している。決定機の数なら野洲が上だが、真正面からぶつかり合う戦いは、最後まで何があるか分からない。

 迎えた延長戦。次第に鹿児島実業のパワーが野洲の攻撃を上回りだした。95分、99分、101分、105分と決定的なチャンスを重ねていく。しかし、枠を捉えきれず、あるいはGK下西の好セーブにゴールを阻まれた。そして107分、一瞬の隙を突いた冒頭のプレーで、野洲が第84代目のチャンピオンの座に輝くことになった。



 見事な野洲の優勝だった。その個人技の高さとコンビネーションの妙は、これまでの高校サッカー界には見られなかったもの。中でもボールを捉える正確さは群を抜いていた。それが顕著に表われていたのがサイドチェンジとロングフィード。あれだけ大きな展開を、振り幅の小さなキックで、しかも正確にコントロールしているのは驚きだった。当たり前のことだが、彼らのプレーは、単にクラブチームと連携した中高一貫指導だけに留まらず、血の滲むようなトレーニングが生み出したものなのだろう。過去にも同じようなチームはあったが、最終的に勝利したという意味で、その存在は過去の同タイプのチームとは一線を画するものだ。

 敗れた鹿児島実業も自分たちのサッカーを最後まで貫いた。走るサッカーや、ロングボールを蹴るサッカーは、日本の中ではどちらかと言えば批判の対象にされることが多いが、あれだけのスタミナとパワーを身に着けることは容易ではない。スポーツとは心技体の総合力を競うもの。置かれた環境の中で自らのストロングポイントをスピードとパワーに求めているに過ぎない。野洲の対極を行くサッカーだが、その完成度は野洲同様、素晴らしいものだった。

 ロングボール主体のスピードとパワーを生かしたサッカー。そして、個人技・個人戦術を徹底して高めて戦ったサッカー。どちらもサッカーに変わりはなく、それぞれが持ち味を発揮して鎬を削りあうことで、互いのレベルが上がり、様々なスタイルが生まれていく。それがサッカーというもの。そういう意味では、野洲のサッカーは高校サッカー改革というよりも、ひとつの新しい道筋を示したと言ったほうが正しいように思う。そしてこれからも、それぞれのチームが自分たちのストロングポイントを見つけて、それを貫くことで、高校サッカーは発展していくのだろう。


(鹿児島実業高等学校) (滋賀県立野洲高校)
GK: 溝ノ上一志 GK: 下西要
DF: 本城宏紀 西岡謙太(108分/玉利侑也) 赤井田侑志 DF: 荒堀謙次、内野貴志、田中雄大
MF: 永岩貞亮 三代将平 赤尾公 豊満貴之 諏訪園良平(78分/猿渡裕二) MF: 楠神順平 金本竜市 中川真吾 乾貴士 平原研
FW: 迫田亮介 平田政志郎(HT/飯森裕貴) FW: 平石竜真(64分/瀧川陽)、青木孝太
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