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  私の中の日本代表 <前へ次へindexへ>
2002world.com特別企画「私の中の日本代表」
日本、またも引き分け。それでも可能性のある限り。
プレイバック1998フランスW杯アジア最終予選Bグループ 第6戦 日本代表vs.UAE代表

1997年10月26日(日)19:05キックオフ 国立霞ヶ丘競技場 観衆/56,089人
試合結果/日本代表1−1UAE代表(前1−1、後0−0)
得点経過/[日本]呂比須(3分)、[UAE]ハッサン・サハイル(36分)


文/中倉一志

 まもなく、時計の針は90分を指そうとしている。日本のボールがUAEゴール前に上がるたびに、悲壮感にも似た大きな声援が巻き上がる。得点は1対1。何としても勝たなければならない。日本は必死になって攻撃を展開する。しかしUAEのゴールは固い。国立競技場を埋め尽くした56,000人のサポーターが待ち望んでいる勝越点は、なかなか生まれない。ついに電光掲示板の時間表示は消え、とうとうロスタイム。だが、まだ時間はある。UAEは相当時間稼ぎをしていた。ロスタイムはかなりあるはずだ。

 しかし試合はあっけなく幕を閉じた。それは掲示板の時間表示が消えて1分ほど過ぎた頃だった。UAEは、日本ゴール前で得たFKを蹴ろうとしない。会場からはブーイングが巻き起こる。その時、主審がつかつかとボールに近づいていった。イエローカードか。そう思った瞬間、主審はボールを取り上げ右手を高くさし上げてホイッスルを鳴らした。一瞬何が起こったのか判断が出来なかったが、紛れもなく試合終了の合図だった。

 5分はあろうかと思われたロスタイム。主審の時計は既に5分を経過していたとでも言うのだろうか。激しく詰め寄る代表イレブンとスタッフをよそに、さっさとグランドを引き上げていく審判団。試合は終わった。代表は、またも勝利を手にすることが出来なかった。復活した自力2位の可能性も再び消えた。抱き合って喜びを表すUAEイレブンの横で、日本イレブンはうなだれたままだ。でも、まだ可能性は消えていない。勝たなければいけない試合を3試合も続けて引き分けたにもかかわらず、未だに可能性は残されている。「あきらめずに戦え」、そうサッカーの神様が語り掛けているに違いない。



 カザフスタン戦の引き分け後、各ホームページへの書き込みや、各種メーリングリストの投稿欄には、日本代表選手や一部の協会関係者に対する度の過ぎた中傷や、あきらめムードの投稿が目立っていたが、この日の国立霞ヶ丘競技場は、いつものように熱かった。2週間も前から並んでいる者、徹夜組、まだ日が昇らないうちから集まって来るサポーター等、開門前には15,000人ものサポーターたちが、国立競技場の周りを埋め尽くしていた。

 残り試合を全勝すれば、自力で3位決定戦に出場する権利を勝ち取ることが出来るとあって、みんな一様に気合いが入っている。みんなの願いはただ一つ。UAEに気持ちよく勝利して、アウェイでの韓国戦に弾みを付けるということだけだ。普通にやれば勝てる。もう、臆病な代表は見たくない。誰もがそう思っている。

 加茂監督更迭に始まったゴタゴタ劇や、引き分けるたびに大騒ぎを繰り返す各メディア等、代表を取り囲む環境は決して良いとは言えない状況だ。長期にわたる中央アジア遠征で、選手たちは、精神的にも肉体的にも疲労が蓄積しているだろう。それならば、少しでも我々が力になろう。12番目の選手として、今こそ代表が奮い立つような応援をしよう。そんな闘志を胸に秘め、サポーターたちは開門を待っていた。



 国立競技場を包み込む「君が代」の大合唱の後、いよいよ試合は始まった。国立競技場を埋め尽くした56,000人のサポーターの大声援に送られて、代表イレブンはUAEゴール目指して飛び出していく。最初のプレーでいきなりCKを奪い、続く1分には、呂比須の鋭いシュートがUAEゴールを襲う。今までの試合ぶりとはまるで見違えるように、積極的に攻撃を展開している。そして3分、待望のゴールが生まれた。秋田のクリアボールを、カズが前線にフィード。そのボールがロペスにわたったのだ。鮮やかなフェイントでDFをかわし、渾身の力を振り絞って右足を降りぬく。このワールドクラスともいうべきシュートがUAEゴールに突き刺さったのだ。

 沸き上がる歓声。久しぶりに見る積極的な日本の動きに、サポーターは大喜びだ。とにかく勝つことしか許されていない日本は、その後も積極的に攻撃を展開する。高い位置からプレスをかけ、ボールを奪うと素早く攻撃に移る。あの強かった頃の日本が国立競技場に帰ってきたようだ。

 久しぶりの勝利を掴もうとする気負いからか、時折、不用意なパスミスからカウンターを仕掛けられたり、ゴール前に突進するあまりにコンビネーションが合わなかったりと、ちぐはぐな面も見えたが、イレブンの勝利にかける気持ちが強く表れていた。日本の気迫に押されたのか、UAEはロングボールを蹴るだけの単調な攻撃を繰り返すばかり。ミスも目立っている。この時、誰もが日本の勝利を信じてうたがっていなかった。



 しかし、あるプレーを境に日本のプレーが一転する。前半の36分。UAEのセットプレーから、日本は同点ゴールを奪われたのだ。時間はまだ十分にある。気負いからのミスが目立つとはいえ、良い頃のリズムが戻りつつある。このままのリズムで戦えば、日本が勝越点を奪うのは時間の問題と思われた。サポーターも、ここからが勝負とばかりに、あらん限りの力で応援を続けていた。

 しかし、勝利から見放されている日本イレブンにとっては、とてつもなく重い1点だったようだ。ピッチの上を心地よく走っていたイレブンの足が、ぴたりと止まった。今までの36分間がまるで嘘だったように、目の前でプレーする日本は、あの臆病な日本に逆戻りしてしまった。開始直後は、どんな位置からでも積極的に攻撃を仕掛け、いつになくシュートも放っていたのだが、おどおどとしたプレーを繰り返し、チャンスになっても消極的なプレーばかりが目立つ。そして、一度失ったリズムはなかなか帰って来ない。

 後半に入っても臆病さは消えない。中央アジアから送られてきた映像のリプレイを見てるかのように、危なっかしい場面ばかりが目についた。勝利しか許されない日本は、後半10分過ぎに山口を投入。再び攻撃のリズムを取り戻す。しかし、前半からの気負いは消えず、ゴール前まで迫るものの、今度は課題の決定力不足が目立ちはじめチャンスが作れない。特に、日本の攻撃の生命線である両サイドバックの攻撃参加がなく、攻撃は中央に偏りがちだ。たまに上げるセンタリングも、不正確でFWまで届かない。

 単調なリズムと、何の工夫もない攻撃。これでは、守りを固めたUAEの壁を崩すことは不可能だ。後半の30分には城を投入して3トップに変更して勝越点を狙いにいくが、FWの3人のバランスが悪く効果がない。必死でゴールを目指す日本。フランスへ向けて、大声を張り上げるサポーター。しかし、時間は刻々と過ぎ去っていく。そして、ついにタイムアップ。W杯への道は再び遠のいた。



「秘密の岡ちゃん」こと岡田監督の必死の修正も、代表イレブンの必死の想いも、そしてサポーターの必死の応援も、勝利には結びつかなかった。インタビューを受ける代表の面々の顔からは完全に自信が失われているのが見て取れた。良識的と評判であった2002japanの掲示板である「落書町一丁目」にも、殺伐とした雰囲気が流れていた。

 しかし、少しずつ明るい兆しが見えているのも確か。可能性は残されているのだ。ここでへこたれてしまっては、何も掴むことは出来ない。まだ持てる力をフルに発揮はしていない。どんな結果になろうとも、自分たちのすべてを見せて欲しい。そしてサポーター諸君。今こそ12番目の選手としての力の見せ所。フランスの灯は、まだ見えている。がんばれ日本。


※このレポートは、筆者がアマチュア時代に「online magazine 2002japan サポーター観戦記」に掲載されたものを加筆・修正したものです。
(日本代表) (UAE代表)
GK: 川口能活 GK: ムフシン・ムサバハー
DF: 名良橋晃、秋田豊、斉藤俊秀、相馬直樹(76分/城彰二) DF: ハッサン・サハイル、モハメド・オバイド、イスマイル・ラシド
MF: 本田泰人(56分/山口素弘)、中田英寿、名波浩、北沢豪 MF: モハメド・ラビー、アリ・ハッサン(72分/アーメド・イブラヒム)、アブドルサラム・ジュマ、アデル・モハメド、モハメド・アリ(50分/ハッサン・サイード)
FW: 呂比須ワグナー、三浦知義 FW: ズハイル・バヒート(781分/モハメド・オマール)、アドナン・アルタルヤ二
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