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 黄金週間のリスタート 04/05/26 (水) <前へ次へindexへ>
黄金週間のリスタート(5)


取材・文/西森彰

 忍びの里レディーストーナメントの優勝決定戦は、同大会3連覇中の地元・伊賀FCくノ一と、女王・TASAKIペルーレFCの対戦となった。西日本をリードする両チームの対決は、大会を締めくくるに相応しい。

 1年前の西日本リーグの試合では悪天候もあってか、視察に訪れていた上田栄治・日本女子代表監督を含めても、観衆は僅かに100人だった。それがどうだ。プレシーズンマッチにも関わらず、この日の観衆は800人。上野市運動公園競技場のメインスタンドは、北朝鮮を破ったヒロインたちのプレーを見ようと訪れたファンで一杯になった。「いや、なんだかんだ言ってもテレビの力は大きいわ」と仲井昇監督(TASAKIペルーレFC)が嘆息した。確かに、これもアテネ五輪予選放映の賜物だろう。



 昨年はTASAKIに4タテを食った伊賀だが、上位リーグでは0対1、2対3と紙一重の勝負を演じていた。この日は、馬場典子、山岸靖代、宮崎有香と代表経験者を揃えた3バックで守備を固め、藤村智美が柳田美幸を、井坂美都が土橋優貴を抑えて、TASAKIのサイドアタックを封じる。そして新人の村岡夏希と原歩の2トップを、堤早希がフォローする形で相手の最終ラインに脅威を与えた。前半は伊賀が優勢のうちに終了。

 後半に入っても伊賀の勢いは衰えない。地元の声援に乗って押し込む。そして43分、キャプテン山岸の風に乗せたロングボールを、村岡がコントロール。相手DFを一発で交わして放ったミドルシュートが、風にも乗ってTASAKIのゴールネットを揺らした。「良いフォワードが入りましたね。これから脅威になってくると思います」(仲井監督)。敵将も称える好素材が、女王との初顔合わせでいきなり結果を出した。

 そこからのしぶとさがTASAKIのTASAKIたる所以だろう。失点から僅かに1分後、すぐに同点に追いつく。柳田が左サイドからクロスを上げて、ニアサイドの鈴木智子が体に当てて落とす。そのこぼれ球をエースの大谷未央が確実にゲット。伊賀の江川重光監督が「TASAKIさんは本当にツキを生かすのが上手い」と唇を噛み締めた、大谷のバースデーゴールだった。

 同点に追いつかれた伊賀だったが、集中を切らしてしまう昨年までの悪癖を出さず、その後もTASAKIと互角以上に渡り合った。堤に変わって新人FWの小野鈴香を前線に投入。原のポジションを1段下げる。これによって、TASAKIのボランチ・川上直子は原のマークに追われ、なかなか攻撃に参加できない。江川監督が「いっぺん、横を使え。角度をつけないと入らないぞ」と指示を送る。ゲームの流れは完全に伊賀に戻ったかに見えた。

 しかし、これが勝ちなれたチームの嗅覚なのだろうか。68分、たった一瞬の隙を突いて川上が右サイドのスペースをドリブルで駆け上がった。フリーで中央に戻したグラウンダーのボールをニアで待ち受けた大谷がスルー。ファーでフリーになっていた鈴木智子がきっちり流し込んで、TASAKIが逆転に成功した。結局このゴールが決勝点になった。6、7割方ゲームを支配されながらも、TASAKIはまたひとつ新たなトロフィーを獲得した。



 惜しくも大会4連覇を逃した伊賀だが、TASAKIとの差は縮まってきている。前線の補強が上手くいったことで、山岸をDFに再コンバートした最終ラインも固さを増した。4−4−2から、3−5−2へのシステム変更もスムーズに浸透している。「今日は監督の采配で負けました」と謙遜する江川監督だが「今年はやれるぞ」という感触が全身に残っているはずだ。日テレ・ベレーザとTASAKIの2強に水を開けられていた感のある伊賀だが、今シーズンは期待できそうだ。

 勝ったTASAKIの仲井監督は「米(3位までの副賞は伊賀米)を持って帰るのを目標にしてきたから」とニッコリ笑った。「代表組の取材申し込みが凄くて…。(五輪予選の後)少し休ませようと思ったんですけれど『練習しているところを撮りたい』と言われて、十分、休ませることもできない。みんな一度に取材に来てくれるなら良いんですが」と代表選手の疲れを心配する。今シーズン、新人を多数獲得したのは、ハードなスケジュールを踏まえてのものだろう。

「勝ち癖をつけておかなければいけませんから、優勝は嬉しいです。視野ですか? 徐々に戻っているところです。はい、回転中です」と笑った山本絵美は、代表での左サイドからトップ下へ意識転換を行なっている最中だ。「休みは取れなかったけれども、チームでもコンビネーションを合わせていかなければいけませんから。その点では(取材攻勢も)良かったと思います」。山本は休み無しの日常もポジティブに捉えている。



 試合後、第3位になった宝塚バニーズレディースSCを加えて、表彰を受けた選手たちは、1年前の観客と同数以上の「追っかけ」に捕まった。伊賀の選手たちは帰り際を囲まれ、TASAKIの選手たちのロッカールーム前は写真とサインを求めるファンが列を成している。世間に全く注目されていなかった一頃を思えば、これも嬉しい悲鳴と言えるかもしれない。もちろん、ファンやメディアも、彼女たちがアスリートである認識を持ち、これまで以上に気を遣い、マナーを守る必要がある。

 しかし、ここまでのところ、世間の寄せる関心は、選手たちに大きなモチベーションを与え、良い影響をもたらしている。この大会でも、プレシーズンマッチとは思えないほど、気持ちの入ったプレーが随所で見られていた。即席のサイン&撮影会をこなした後、川上がもらした。「やっぱり、下手なプレーはできないですよね。これだけ注目されちゃうと…」。五輪予選が終わっても、なお責任感を背負って彼女たちはプレーを続けている。

 これまでとは比べようも無いほど注目を集めたゴールデンウィーク、彼女たちはアテネの本大会、そしてその先にあるものへ向けて、再び走り出した。


(完)
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