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 第25回全日本女子サッカー選手権大会 <前へindexへ>
激戦110分、そして運命のゴールバーは、今年も田崎に微笑んだ。
第25回全日本女子サッカー選手権大会 決勝 田崎ペルーレFCvs.日テレ・ベレーザ

2004年1月25日(日)13:04キックオフ 国立霞ヶ丘陸上競技場 観衆:1,641人 天候:晴
試合結果/田崎ペルーレFC2−2日テレ・ベレーザ(前半2−1、後半0−1、延長前半0−0、延長後半0−0、PK5−3)
得点経過/[田崎]白鳥(31分)、[日テレ]豊田(37分)、[田崎]山本(44分)、[日テレ]大野(88分)


取材・文/西森彰

 読売時代を含め5回の優勝を誇る日テレ・ベレーザ。そして前大会で3年ぶり2回目の優勝を果たした田崎ペルーレFC。前評判の高かった両チームが取りこぼすことなく、決勝の舞台まで勝ちあがってきた。準決勝の翌日に開催される決勝戦はどちらにとっても強行軍。しかし、1点差ゲームで選手交代ができなかった田崎に対し、日テレは3枚の選手交代を使い切って幾ばくかの余力を残した。私自身は「その紙一重分だけ日テレ有利」の予想だった。

 準決勝の伊賀FCくノ一戦では、決勝リーグ第9節で成功したサイド封じを再現した日テレ。この決勝でも駒沢陸上競技場で田崎を破った一戦と同じ、小林弥生を頂点に伊藤香奈子と近賀ゆかりを左右に据えたダイヤモンド型の中盤でスタートした。しかし、田崎は日テレに負けない強い立ち上がりで、苦い記憶を封じ込める。こちらは極端な右重点シフトでボールを奪うとすぐに土橋優貴に預け、ティーンエイジが揃った日テレの左サイドを蹂躙する。

 1点がモノを言う決勝戦。宮村監督は何時になく浮き足立っていた須藤安紀子を早い段階で諦め、中地舞を投入する。トレードマークの半袖で疾駆する中地は、攻撃一辺倒だった田崎の土橋の後方に進出し、これを引っ張り返す。中央では酒井與恵をフォローするように、小林がポジションを下げて防戦し、浅い時間帯での失点を避けた。

 ゲームが動いたのは31分。右サイドからのフリーキックで「(キレが)どんどんどんどん上がってきていた」(仲井監督)山本が、スピードの乗ったボールを蹴り込むと、待っていた白鳥綾があわせて、田崎が先制に成功する。しかし、日テレも負けていない。37分に右コーナーキックを得ると小林、伊藤、近賀ではなく、今大会ではレギュラーに抜擢されている山口麻美にこれを託す。17歳の山口が蹴ったファーストボールに、同じく17歳の豊田奈夕葉が頭をあわせた。同点。

 追いついた勢いそのままに、前線でポジションチェンジを頻繁に行ない、逆転を狙う日テレ。田崎もこの苦しい時間帯を辛抱し、ロスタイムに入ったところで、逆に相手ゴール正面でフリーキックを奪う。先制アシストを記録した山本が右足でドライブ回転をかけたボールは、日テレの築いた壁の上を越えてゴールに吸い込まれる。田崎が山本のスーパーシュートで再び突き放し、前半は2−1で折り返した。



 ハーフタイムを終えても田崎が主導権を握り続ける展開は変わらない。後半開始早々の土橋のシュート、59分の鈴木智子のシュートは、どちらも完全な決定機だったが、ここは小野寺志保を中心に日テレの守備陣が凌いだ。そして60分を過ぎる頃から、連戦が影響したのか、田崎の足が止まり始めた。それまで田崎の出足良いプレスに苦しんでいた日テレの選手たちは、スペースを与えられて息を吹き返した。

 同点アシストの山口に変わって、後半から投入された荒川恵理子がケガの影響など微塵も見せずに、前線で活発に動き、田崎のディフェンスを引っ張る。「ケガをしていたんで。どのくらいできるのかなと思っていたんですけれども、荒川のスピードとキープ力に期待をしようかなと。それがすごく良く出て」(宮村監督)。

 GKの小野寺も前半から「細かいパスがすごく多くて、近くを見てミスになっていたんで、なるべくひとつ前まで飛ばすように」指示を送っていた。前方にボールの預け所ができた日テレは、後ろの選手が一旦荒川に当てて、リターンパスを信じて飛び出す。さらに、大野忍が荒川の空けたスペースに飛び込み、サイドから切り込む中地も攻撃力を増した。完全に日テレのサイクルに嵌った。

 完全に受身に立たされた田崎は懸命のディフェンスを行ない、残り2分まで漕ぎ着けた。しかし、ここで大野が右サイドから送り込んだクロスが田崎DFの体に当たり、GK大西めぐみの頭上を越えてゴールマウスに飛び込む。「いつもだと負けている状態から追いついてというのができなかったんですけれども、そこでちゃんと粘りを見せてくれて」(宮村監督)。若さゆえの脆さを孕んでいたチームは、一年間を通して得た逞しさをこの大一番で発揮した。



 10分ハーフ、ゴールデン・ゴール方式の延長も双方無得点で終了。勝負はPK戦に持ち越された。昨年、勝者と敗者の境界線を引いたゴールバーは、この日、レギュラータイムの中で2回に渡って田崎のシュートを防いでいた。しかし、日テレに甘い顔を見せていたのはそこまでだった。この最後の最後まで決着を引っ張ったゴールバーは、日テレの3人目・小林の蹴ったボールを無常にも弾き返したのだ。

 5人目土橋のキックが成功すると同時に、フィールドの中で喜びを爆発させた田崎の選手たち。その横で小林は顔を覆って泣き崩れた。「あそこまで行って、誰が外してもチームのみんなでやってきたこと。負けても『誰々のせい』っていうわけじゃない。チームを代表していってくれる5人なんだから」。勝者の側に回った川上直子の言葉は、この日、スタジアムを訪れた1,641人を代表した、小林へのメッセージだ。

 PK戦では敗れた日テレの方がしっかりとコースを狙っていた。4人目の近賀が決めたキックのように、GKが反応しても止めきれない左右の隅に蹴り分けていたのだ。もっとも田崎は「PKを全然練習していなくて、(試合中も)全然考えていなかった」(川上)のだから仕方ない。このPKに限って言えば運・不運の問題であって、勝敗のポイントは別にあったと思う。



 それは日テレに2点目が刻まれてからの十数分である。このあたりでは「日テレがいつ決勝点を奪うのか」が焦点になっていた。連戦でガソリンが切れかけていた田崎の選手たちを見ても、仲井監督は動かなかった。「前のふたりの足が止まってしまったんで、代えるタイミングもいろいろあったんですけれど。それよりもあのふたりに期待して引っ張ったような感じです」。

 日テレのプレッシャーに若手が潰されて、苦杯を喫した駒沢陸上競技場の記憶が脳裏にはあったのだろう。水の中に顔を突っ込んだ息詰まる我慢比べの中で、指揮官は運動量を補充したい誘惑に負けず、これまで幾多の修羅場を切り抜けてきた主力選手のメンタルを信じた。そして2トップをはじめ、田崎の選手たちは日テレの攻勢が止まるまでの危険な時間帯を守り抜き、その期待に応えた。

「(『一気に決めてしまうのではないかと思いました』との問いかけに)あそこで決めさせない田崎の強さもあると思うんですよ。ベンチから見ていても後半から延長にかけてはかなり『行けるんじゃないかな』というふうな感じだったんでねえ…」。宮村監督が嘆息したように、2日間レギュラータイムをフルに戦い抜いた11人とは思えない、田崎の驚異的な粘りだった。ここでピリオドを打たせなかったことが、幸運への扉を開くカギだった。



 リーグ戦とのダブルクラウンを達成した田崎は、宝塚バニーズレディースサッカークラブとの選抜チームで参加した国体にも優勝しており、このシーズンに取れるタイトルは全部取ったと言える。来年は追われる立場として、より一層のプレッシャーがかかる。キャプテンの川上も「追われる立場ってのは厳しいと思うんですけれども『常にチャンピオンに挑戦していく』ということで、もう1回頑張りたいと思います」と、それは承知している。

 一方、仲井監督は「まだベレーザさんには勝っていないんで。やっぱりそこでちゃんと90分で勝つということができないと。ベレーザさんはあれだけ若い選手が多くても、あれだけのプレーができるんだから」と日テレを称え、「我々としてはもっと個人の技術を高めないといけないと思うし、チャレンジャーのつもりで取り組んでいきたいと思っております」と今後の課題を口にした。ライバル同士が高い次元で切磋琢磨して、一層のレベルアップが為されれば、これは日本女子サッカー界の大きな勝利につながるはずだ。



 一方、敗れた日テレは逃したタイトルと同じくらい、手にした収穫も大きい。「今年すごく若いメンバーが入ってきて、チームづくりの方にたくさん時間が取られて、完成したチームで戦えなかった。選手権が終わって今こうしてひとりひとりに自覚が芽生えてきて、これからはチームとして成長していく体験時期だと思う」とキャプテンの小野寺が振り返ったように、今シーズンはチーム作りの年。リーグ、選手権の両方で2位は素晴らしい成績であり、来シーズン以降に向けて上積みは計り知れない。

「昨年があのゴールで、今年はPK。皮一枚まで迫っているんですが」とのフリに「なかなか優勝させてもらえないですね。それだけ田崎が大きい存在かなという気はしている。『強い相手を倒すぞ』と(目標は)すごくはっきりしてるんで。お互いに成長していって来年の選手権は…」。笑顔でそう言って一呼吸置いた宮村監督は、最後に「勝ちたいですね」と付け加えた。


宮村正志監督(日テレ・ベレーザ)試合後の談話
仲井昇監督(田崎ペルーレ)試合後の談話
小野寺志保選手(日テレ・ベレーザ)試合後のコメント
川上直子選手(田崎ペルーレ)試合後のコメント
(田崎ペルーレFC) (日テレ・ベレーザ)
GK: 大西めぐみ GK: 小野寺志保
DF: 磯ア浩美、白鳥綾、佐野弘子 DF: 戸崎有紀、四方菜穂、豊田奈夕葉、須藤安紀子(20分/中地舞)
MF: 土橋優貴、川上直子、新甫まどか、柳田美幸 、山本絵美 MF: 酒井與恵、小林弥生、近賀ゆかり、伊藤香菜子
FW: 鈴木智子、大谷未央(101分/渡辺千尋) FW: 山口麻美(45分/荒川恵理子)、大野忍
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