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 第26回全日本女子サッカー選手権大会 <前へ次へindexへ>
晴れやかな笑顔で喜びを表す日テレ・ベレーザの面々
日テレ・ベレーザ、大観衆の前で女王へ復権!
第26回全日本女子サッカー選手権大会決勝 日テレ・ベレーザvs.さいたまレイナスFC

2005年1月1日(土)10:04キックオフ 国立霞ヶ丘陸上競技場 観衆:14,499人 天候:晴 
日テレ・ベレーザ3−1さいたまレイナスFC(前半3−0、後半0−1)
得点経過/[日テレ]荒川(2分)、大野(16分、23分)、[さいたま]木原(51分)


取材・文/西森彰

 初日が強風、翌日が雨。準々決勝と準決勝は雪と、呪われたような天気が続いた今大会だが、元旦は今年も晴れてくれた。 今年の全日本女子サッカー選手権決勝は、天皇杯決勝の前座として元日のダブル開催。青空の下、1月の冷気とともに、コクリツならではの雰囲気が両チームの選手を包んだ。

 ホーム扱いになったのは日テレ・ベレーザ。グリーンのカラーに身を包んだファンが、ゲートフラッグをかざして選手たちを出迎える。アウェーサイドではさいたまレイナスFCのファンが集団になっていた。その大多数は、浦和の準決勝敗退後もチケットを手放すことなく、同じ埼玉県下にある、さいたまレイナスFCのサポートに駆けつけた人たち。「レイナスのサポーターの人が一杯いてびっくりしました。グラウンドに出てびっくりして、その人たちのためにも絶対に勝ちたいと思いました」と安藤梢(さいたまレイナスFC)。



 L・リーグのプレーヤーが、1万人を超えるファンを前にすることなど、滅多にない。選手たちも気合を入れながら、同時に気負いも生まれた。

 日テレには、東京ヴェルディ1969との元日兄妹優勝というプレッシャーがかかっていた。「豊田(奈夕葉)あたりはやっぱり若い選手なんで、顔がひきつっているというか、いつもと雰囲気が違ったんで、いつものように声をかけました。『大丈夫だから』と」(小林弥生・日テレ)。日テレは大舞台を前にして、若手の表情にまで気を配ってやれる経験豊富なプレーヤーが存在した。

 さいたまレイナスFCの田口禎則監督は選手たちの仕草に違和感を感じていた。「ロッカールームではいつもと同じだったんですけれどね。普段どおり集中を高めさせて良いイメージを持たすように準備をして臨んだんですけれども」。その危惧があたってしまう。



みんなの思いをフラッグに託して最後の戦いに臨むレイナス
 前半2分、さいたまが最初のビッグチャンスを得た。高橋彩子のシュートがコース上の敵味方に当たり、ラインの裏に抜けた安藤の足元にこぼれる。だが、安藤はシュートを小野寺志保にぶつけてしまう。さらにリバウンドへの競争でも、高橋唯を酒井與惠が制する。さいたまは千載一遇のチャンスを逸した。

 逆に、日テレはここから速攻で反撃する。小野寺のキックしたボールを澤が頭で前線につなぎ、田代久美子の鼻先でさらった荒川恵理子がそのままさいたまDFの寄せを振り切って独走。飛び出した山郷のぞみの動きを見ながら、冷静にゴールを陥れる。勝負はここで決まった。

 ここからしばらく、さいたまが押しているように見える時間帯もあったが、「いや、今日の出足を見ていて『いつものレイナスじゃない』とベンチの前に出て、口うるさく言ったんですけれどね。やはり、彼女たちが今日の重圧に負けてしまって」(田口監督)、指揮官にもどうすることにもできないほどのパニックに陥っていた。

 さいたまの選手たちのプレーがいつもと違うということを、日テレの選手たちも気づいていた。「もう最初から感じていました。特に前半は味方を見ることなく、ただ前に蹴ってくるだけだったんで『これは絶対にいける』と」(酒井)。どちらかというと遅攻のイメージがある日テレだが「少し早めに相手のDFラインの裏を突ければ良いかなと思っていた」(宮村正志監督・日テレ)。前々からFWがプレッシャーをかけて、ミスを誘った。

 そして16分、チャイニーズ・タイペイ戦でハットトリックを達成した大野忍のスーパーシュートが生まれる。中盤でボールを拾った酒井が、飛び出す大野の動きに呼応する。「もう少し前へのイメージだった」というパスは大野の足元へ入り込んだ。しかし、フェイントで一瞬のうちにシュートコースを作り上げた大野が、思い切り右足を振りぬくと、男子並みの弾道がさいたまのゴールネットを揺らした。

 傷ついた獲物に襲い掛かるように、さらに日テレは牙を剥く。縦のボールを入れて、ブラインドプレーに入ったDF・田代の後方から大野が迫り、プレッシャーをかける。クリアにいった山郷の蹴ったボールは、何と田代を直撃し、空っぽのゴール前にいた大野へ向かって転がる。難なく流し込んで決定的な3点目が入った。



日テレ・ベレーザは女王にふさわしい戦いを見せた
「ウチがいつものボールに向かう強い気持ち、チャレンジャー精神を忘れてしまったがために、半回転か、一回転相手のほうに転がしてしまった。自分たちのほうに転がせなかった。それがサッカーだと思います。ハーフタイムで、もう一度、活を入れ直して、選手たちを送り出したんですけれども。やっぱりあれをスタートからやらないとベレーザさんだとか、TASAKIさんだとか女子のトップレベルのチームには勝てないのが僕たちなんです」(田口監督)

 ハーフタイムに檄を飛ばして体勢を立て直したさいたまは、51分、西口柄早と北本綾子のパス交換で左サイドを崩し、相手選手との接触で小野寺が補給体勢に入り遅れたところを、木原梢が正確なシュートを放って1点を返す。応援に駆けつけた多くのファンへ、最低限の義理を果たすゴールだ。

 この1点で自分たちのサッカーを取り戻したさいたま。そのプレッシャーを受けて、今度は日テレの選手たちが苦しみだした。63分、悪化する戦況を見かねた宮村監督は、満を持して小林をピッチに入れる。

「(『昨年のPK失敗などは?』)いや、全くどうこう考えませんでした。ポンポンと蹴ってばかりだったので、そこを落ち着かせようとそれだけを考えて、去年のこととか考えもしませんでした。もう少し自分がボールに触れれば、きちんと落ち着かせることができたと思いますが、周りがそのままのペースで焦っていたので、まずはDFに声をかけました。ゲームを落ち着かせることだけを考えていました」(小林)

 徐々に落ち着きを取り戻した日テレは、終盤、上手く時間を使って、3対1のスコアを守り、久しぶりのタイトルを手に入れた。



 さいたまの田口監督は泣き腫らした顔で報道陣の前に出てきた「選手たちは自分たちの力の無さを、私自身も指導者としての力の無さを感じています。後半立ち上がりの勢いを、最初のキックオフから引き出せなかったのは、指導者としての私の力の無さだと思います」。2004年シーズンの当日を飾るこの試合まで無敗で来たさいたま。最後のゲームで実力を出し切れなかったことに悔いが残るのだろう。

 だが、僅か5年足らずでリーグ優勝、国体優勝と二冠を果たし、この全日本女子でもファイナリストになったさいたまの実力は疑いようもない。もちろん、監督の手腕、選手の技量、そしてクラブのバックアップ体制など、全ての要素がパワーアップしたことが、この結果につながった。

「やってきた分だけ結果を残せた年。さらに重ねてすごい経験をできた。今年は『負けスタート』になってしまったけれども、これが修正していくうえですごく良いスタートになったと思います」(山郷)

 さいたまには、まだまだ伸びシロが残っている。 



サポーターに優勝プレートを掲げて喜びを分かち合う大野選手
「やっぱり、(日テレとさいたまの)力差はありますよね。個々の差、技術の差。それが上手くチームとして機能していました。リーグ戦を全部見たわけじゃないですけれども、リーグ戦の時はそれが上手く出ていなかったんだと思います。やっぱり、個の力というのは重要だと思います。それをチームの力としてどう持っていくかというのが重要だと思います。今回のゲームはそれが現れていました」(大橋浩司・なでしこジャパン監督)

 大橋監督が挙げた「個の強さ」以外にも、「ゲームプランの的中」「経験の差」など、日テレの勝因はいくつも挙げられる。またそれらを合わせて「各員がベストを尽くした結果」とも言い換えられる。

 相手の混乱を読み取り、それを拡大した酒井はゲームプランを理解し、自分を飛ばしたパスが飛び交う中、相手のスペースを奪うことに徹した。「(『頭の上を越えていくボールが増えていたので、やり辛かったと思うんですけれども』)そうですね。ただ勝つことが一番なんで、そこは割り切りました」。

 若手の動揺を取り去った小林も「プレーの部分と声をかける部分。みんながどう感じているかは分かりませんけれども、私はこの決勝戦で自分の役割を果たせたと思っています」と胸を張った。スタッフにスパッツの恩返しをした荒川や、2得点の大野、そしてコンディションをピークに持ってきた澤…。やはり、女王の座に返り咲くにふさわしいチームである。

 宮村監督と小林は、表彰台に昇った時の気持ちを「ようやく」と、同じ言葉で表した。「2年連続で最初にメダルをもらいに上がっていました。今日は相手チームが表彰台に上がっている時間を、仲間たちと一緒に楽しむことができました」。この日も半袖で右サイドを縦横無尽に駆け回った中地舞の言葉が、このタイトルへの想い、そして手に入れた喜びを見事に言い表していた。



「5年連続であそこにいたんで、ここでこうしている(スタンドで観戦)のは何か変な感じですね」

 メインスタンド上段から、大橋浩司・なでしこジャパン監督らと試合を観戦した川上直子は、表彰セレモニーを眺めながら呟いた。この日の観衆は公式発表で14,499人。その数字は、川上のTASAKIペルーレFCが戦った過去5年の決勝戦における観客数の総和をも上回る。ただし、まだこれが終着点ではない。

「これ、本当に埋まるんですかね?」

 スタンドに残っていたあまたの空席を見ながら川上が尋ねた。しかし、天皇杯のキックオフが近づくにつれて、そのスペースは徐々に埋まっていった。入手困難なはずの元日チケットは、不要な人から必要な人へ、サッカーファンの間で流通していた。天皇杯決勝戦の観客数は50,233人(公式発表)。

 全日本女子選手権と天皇杯の観客数35,000人の差は、見せかけのブームへの警鐘であり、残された可能性の大きさでもある。


監督・選手の試合後のコメントにつきましてはこちらをご覧ください >>>
(日テレ・ベレーザ) (さいたまレイナスFC)
GK: 小野寺志保 GK: 山郷のぞみ
DF: 中地舞、四方菜穂、須藤亜紀子、豊田奈夕葉 DF: 永留かおる(83分/法師人美佳)、田代久美子、笠嶋由恵、西口柄早
MF: 酒井與惠、近賀ゆかり、伊藤香菜子(63分/小林弥生)、澤穂希 MF: 高橋彩子、木原梢、岩倉三恵、安藤梢
FW: 荒川恵理子、大野忍 FW: 高橋唯、北本綾子(67分/若林エリ)
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