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 サッカーのある風景 03/05/18 (日) <次へindexへ>

 ボール蹴りのススメ


 文/中倉一志
 先月のこと。「中倉さん、今月は22日ですよ」、友人から一通のメールが届いた。仲間内でやっているフットサルのお誘いだ。やれ、体調が悪いだの、やれ原稿の締め切りで忙しいだの、いろんな理由をつけて断り続ける私に、毎月のようにしつこく送られてくるメール。さすがに断りきれなくなって出かけていった。ボールを蹴るのは1年ぶり。さらに、その前に蹴ったのは2年前。我ながら無謀な挑戦と思いつつ体育館へと向かう。かばんの中には、栄養補給用のバナナとスポーツドリンク、そして酸素吸入器も欠かせない。

 仲間内と言っても、それぞれが、それぞれの友人を誘ってくるので、互いに知らない顔ばかりが並ぶ。実力も様々。と言うよりも私よりキャリアの短い人はいない。しかも、私なんぞよりはるかに若い。この年になって若いものの前で恥をかくのは、正直に言って抵抗がある。体力が持たないのは仕方がないにしても、手玉に取られるのは悔しいし、ボールを蹴ることもままならないのは情けない。来なけりゃ良かったなと後悔の念が募る。

 しかし、そんなものはボールを蹴るまでのことだった。いやいや、ボールなどまともに蹴れないのだから、正確に言えばホイッスルが鳴るまでのことだった。ボールが動くのを見ると血が騒ぐ。猛スピードで(本人だけがそう思っているだけだが・・・)ボールを追いかけて右に走り、軽くいなされては、今度はまたボールを追いかけて左へ走る。7分ハーフの試合だが、ボールに触れるのなんてほんの一瞬。触ったと思ったら、すぐに取られる。でも面白い。

 いつの間にか、ボールに触れもしないのに掛け声ばかりは人一倍大きく、人が決めたゴールには、まるで自分が決めたかのように大騒ぎ。格好悪いなんて気持ちはどこかに吹き飛んだ。実際問題、相当格好悪かったと思う。ドリブルしようとしては5メートル走って転倒。ボールは自分の思いとはまったく別の方向へ飛ぶ。自分より40歳近くも若い小学生にさえ軽くあしらわれる。しかし、そんなことは問題じゃない。とにかく楽しい。

 何が楽しいかは自分にも分らないが、何故、世界中の人たちが、ただのボール蹴りに夢中になるかが分ったような気がした。そして、小学生がシュートしたボールがこぼれたところを押し込んで、34年ぶりのゴールを決めておおはしゃぎ。別に触らなくてもゴールマウスに吸い込まれていたボールだっだが、そんなことはかまっていられない。大人気なく他人のゴールを盗み取って、ガッツポーズを決めた。

 締め切りに追われながら流す油汗と、全身の穴が開ききってしまったかのように流れ出す滝のような汗。成分的には同じなのだろうが、爽快感がまるで違う。達成感がまるで違う(ただ走っただけで、何も達成はしていないのだが・・・)。それに大声を上げて走り回るなんで何年ぶりのことだろう。バナナをかじり、スポーツドリンクをぐいぐい飲み干しながら仲間に尋ねた。「今度のフットサルはいつやるの?」
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