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 福岡通信 01/01/12 (金) <前へ次へindexへ>

 ミスジャッジもサッカーのうち。しかし・・・


 文/中倉一志
 サッカー選手にとって「元旦の国立」は特別なもの。サッカープレーヤーとしての成功を夢見る者なら、誰でも1度は元旦の国立競技場のピッチの上でボールを追ってみたいと思うものだ。また、サッカーを愛する者にとっても、その思いは同じ。澄み切った青い空と新年らしく気を引き締めてくれる冷たい空気。新しい年の幕開けを感じさせてくれる中でのサッカー観戦は何物にも代え難い。この試合を見なければ、年が明けることはない。

 さて、今年の天皇杯はJリーグ初の3冠を狙う鹿島アントラーズと、1昨年の敗戦の雪辱を目指す清水エスパルスが対戦した。鹿島は1st stageこそ不本意な成績に甘んじたが、2nd stage以降、無類の強さを発揮。90分間では1度も負けないと言う憎らしいほどの勝負強さを見せて2冠を獲得した。決勝戦は相馬と柳沢を欠き、他にも多くの選手が怪我を押して出場しているが、3冠達成へ向けてのモチベーションは高い。

 一方、今シーズンの優勝候補の一角に数えられていた清水は1st stageこそ3位で終えたものの、2nd stageは13位に低迷。ナビスコカップもベスト8で敗退した。必勝を期して臨んだアジアスーパーカップ2000でも、後一歩のところで優勝を逃している。そんな清水の天皇杯にかける意気込みは特別のものがある。新しく指揮をとるゼムノヴィッチ監督のもと、攻撃的なサッカーを志向。高目の位置でプレーする伊東が、その才能をいかんなく発揮している。

 そんな両チームの戦いは予想に違わぬ激しい戦いになった。少しでも気を抜けばやられてしまう。そんな緊張感あふれる中で両者は真正面からぶつかり合い、持てる力の全てを発揮。鹿島が先制すれば清水が追いつき、鹿島が突き放しにかかると、猛反撃を見せる清水が再び追いつく。ともに譲らぬ戦いはとうとう延長戦に突入する。そして、延長開始直後の91分、この試合で攻守の要として大活躍した小笠原が、豪快な一発を決めて試合に終止符を打った。



 1921年に第1回大会が開催されてから80年。その歴史と伝統を誇る天皇杯の中で、間違いなくベストゲームの一つに数えられる好ゲームだった。しかし、ただひとつ残念なことがあるとすれば、それは主審のジャッジ。問題のシーンは、鹿島の先制点の場面と、2点目の得点シーンで生まれた。誤解を招かぬために敢えて言えば、この2つのゴールは間違いなくインプレー中のものであり、ゴールそのものが疑惑だったわけではない。

 問題は、それに至るまでの過程で生まれた。まず1点目。鹿島はゴールまで約20mの位置でFKのチャンスを得た。ボールをセットする小笠原。そして、清水は、真田が右ポストに手をかけながら壁の位置を指示していた。この時、レフェリーは小笠原とビスマルクのすぐそばに立ち、なにやら言葉を交わしていた。そして、レフェリーがゴールに向けて後ずさり始めた瞬間、小笠原がFKをゴールに沈めた。まだ清水は壁を作っている最中だった。

 このゴールがどれほど意外なゴールだったか、それはゴール直後のスタジアムの雰囲気が良く表している。清水イレブンはもちろん、鹿島の選手でさえ、ゴールに背を向けたままの選手が大勢いた。清水サポーターは静まり返り、鹿島サポーターからさえ歓喜の声はあがらない。数多くの試合を見てきた記者たちも何事が起こったのかと言う顔でピッチを見つめていた。そして何故か、審判は少しの間を置いてからゴールを告げる笛を吹いた。

 確かにプレーを止める笛は吹かれていなかった。小笠原は、このプレーを振り返って、「(主審が)自分の方を見て、笛を口の近くまで持ってきながら、『止める?』っていう感じだったんで、自分から止めなくていいですよって言った」と語っている。しかし、スタジアムのいた殆どの人間がプレーが止まっているかのように勘違いした態度。そして、小笠原との間だけでのやり取り。果たして、それが主審の取るべき態度だったのだろうか。



 続く問題のシーンは49分に起こった。ゴール前のルーズボールの競り合いで、市川が後頭部を打ってペナルティエア内に倒れこんだ。清水はこのシーンでボールをクリア。一度は鹿島の最終ラインまでボールが戻された。その時、主審はボールを持った根本を指差し、そして両手を前に大きく伸ばした。それはサイドラインを指しているようでもあり、またプレーオンを指示しているようにも見えた。しかし、根本はサイドラインに蹴りださず、左サイドに開いた小笠原にボールを回す。

 小笠原にボールが渡ると、主審は何事もなかったかのように身体の向きを清水ゴールに向け、小笠原がボールを放り込むと、それに合わせてゴール方向へ向けて走り出した。そして、このボールが起点になって鹿島がゴールを奪ったのだ。倒れていた市川は、ルール上オフサイドライン。したがって副審は市川の倒れた延長線上にいた。しかし、主審同様、副審は何事もなかったかのように、フラッグを下げたままゲームを見守っていた。

 試合後、清水のある選手は、「鹿島がプレーを止めるとは思わなかった。だから、主審にアピールした」と語ったが、そのアピールは主審には届かなかった。プレーヤーの頭部の怪我の場合、主審はプレーを止めることができる。しかし1点目同様、主審はプレーを止める笛を吹かなかった。ゲームはインプレー中。鹿島の選手がプレーを続けたのも当然のことだった。試合を見ていた限り、主審が笛を吹く余裕はあるように見えた。

 ゲームを止めなかった鹿島の態度に疑問を感じる方もいらっしゃるだろう。この2つのプレーを「マリーシア」と呼ぶ方もいらっしゃるかもしれない。しかし、この2つのプレーは、「マリーシア」でもなければ、卑怯なプレーでもない。主審がインプレーと認めた中での出来事であって、その原因や責任を鹿島に転嫁するのはあってはならないことだ。確かに好き嫌いはあるだろう。だが、問題の本質から目をそらしては、何度でも同じシーンが繰り返されるだけだ。



 ピッチの広さは105m×68m。これをたった1人の主審と2人の副審、そして第4の審判だけで裁く。誰が考えても、全てのプレーを一つの間違いもなくジャッジすることは不可能だということは明らかだ。ミスジャッジを肯定する気はさらさらないが、それもサッカーのうち。そういうことも含めて戦うことが、サッカーと言うスポーツを成立させている。しかし、決してやってはいけないミスジャッジというものもあるのではないか。

 2000年シーズンは、ジャッジを巡っての問題が過去になく多かったように思う。そして、その殆どが不安定な判断基準や、どちらかに偏った判定に関するものが圧倒的に多い。また、どう説明しても不可解な判定が多いことも事実だ。なぜ判定基準が一つの試合でぶれるのか。なぜ、説明のつかないジャッジがあるのか。こればかりは、いくらミスジャッジが付き物だと言っても、それだけで済まされる問題ではないはずだ。そして問題は、こうしたジャッジが一向に減らないことだ。

 私は決して天皇杯の主審を務めた方を個人的に批判するつもりは全くない。問題にしたいのは、こうしたジャッジが見逃されてしまい、いつのまにか他の問題にすり替えられ、本当の問題が議論されることなく終わってしまうことだ。あってはならないこととはいえ、誰にでも間違いはある。大切なことは、その間違いを繰り返さないよう原因を追求し、その問題を改善すべく方策を立てることだ。アマチュアだからということは問題ではない。アマであれ、プロであれ、プロの試合を裁くという責任に変わりはない。

 来シーズンから、Jリーグはビデオシステムを導入して、ジャッジメントの反省会に使い、その中で互いの討論を徹底させて向上させる計画があるという。是非この計画を実りのあるものにしてもらいたいと切に思う。そして、せめて不可解なジャッジと不安定な判断基準だけは無くしてもらいたいものだと思う。審判の技術向上を願うとともに、この試合が原因となって、鹿島vs.清水という好ゲームが、今後、遺恨試合と呼ばれることがないように祈る元旦だった。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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