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 福岡通信 01/01/26 (金) <前へ次へindexへ>

 更なる飛躍を目指して。サガン鳥栖始動


 文/中倉一志
 天皇杯、高校サッカー選手権、そして全日本女子サッカー選手権大会。各カテゴリーのトップレベルの大会が終了し、日本のサッカー界はわずかばかりのシーズンオフに突入した。週末になるとスタジアムに出かけ、ひいきのチームのプレーに一喜一憂し、地元でゲームがない時はスケジュール表をにらみながら、いたるところへ出かけていってサッカーを見る。そんな毎日を過ごしていたサッカージャンキーにとっては、心に穴が開いたような1ヶ月半だ。

 しかし、チームは休眠しているわけではない。あるチームは課題を克服するために、そしてあるチームは更なる飛躍を目指して、来るべきシーズンに向けて準備に精を出している。長いシーズンの疲れを取り、新たなシーズンを乗り切る体力を養うこと。大勢の観衆に囲まれたピッチの上でのプレーのような華やかさはないが、こうした地道なトレーニングの上にチームの躍進がかかっている。そして23日、サガン鳥栖がいよいよ始動した。

 この日は、大学生Jリーガーの古川がテストのため、そして石谷が発熱のために欠席した他はスタッフ、選手が勢ぞろい。まずは、新加入選手・スタッフの記者会見が行われた。昨シーズン、レンタル移籍だった矢部が完全移籍した他、今シーズンの新加入選手は11人。昨年在籍した29人のうち10選手がチームを去り、選手の3分の1が変わるというフレッシュな顔ぶれとなった。

 また、昨シーズンは6人だったスタッフは7人に増名。こちらも選手同様、4人を入れ替えて顔ぶれを刷新。2年目を迎える高祖監督カラーが一段と色濃くなった人選になっている。中でも2年目の切り札となるのが、チーム初の外国人コーチとなるマルコス・ロベルト・カルドーゾ(通称:マルコス・ガルサ、ブラジル)コーチ。高祖監督が自らの人脈を生かして獲得したというマルコス・ガルサコーチは、主にGKを指導するほか、チームのフィジカル面での指導もすると見られている。



 記者会見場で配られた登録メンバー表を見て目を引いたのは、とにかく若い選手が多いこと。新加入選手のうち一番の若手は、サガン鳥栖ユースから昇格した赤司の18歳。最年長となる名古屋からのレンタル移籍の富永でさえ24歳という若さだ。常日頃、若い選手を育てたいと言っている高祖監督らしい補強となっている。しかし、決して若いというだけではない。「戦力として使える選手を獲得した」という高祖監督の言葉通り、それぞれの選手の持つ可能性は大きい。

 中でも、補強の目玉になるのが188cmの長身を誇る富永(前名古屋)と森田(前福岡教育大学)の2人。富永はJリーグの出場経験こそ1試合と少ないが、国士舘大時代は、関東大学リーグで得点王を獲得したことのある大器。昨年、レンタル移籍後に、その才能をいかんなく発揮した三原、矢部同様、サガン鳥栖で一気にその才能を開花させる可能性は高い。「試合に出るために来ました」(富永)と、本人の今シーズンにかける意気込みは強い。

 もう1人の森田も点取り屋として九州大学サッカー界では知られた存在。高さ生かしたヘディングやポストプレーだけではなく、長身に似合わない巧みな足さばきとスピードで得点を量産し、3年連続で九州大学リーグの得点王を獲得した。大学時代は点取り屋としての役割を追求するあまり、殆ど守備に参加せず、運動量も多くはなかったが、組織的な攻撃と守備を標榜するサガンサッカーに慣れ、運動量さえ増えれば十分に通用する逸材だ。

 更には、中学卒業後、7年間ブラジルにサッカー留学したという経歴を持つ宮川も注目の1人。昨年は怪我のため1年間のほとんどを棒に振ってしまった石谷とともに、南米の香りのするサッカーを見せてくれるに違いない。「やる気のある若い選手を集めました。特に、大型FWの加入で攻撃のバリエーションが増え、課題の攻撃面の強化が出来たと思う」と高祖監督は満足げ。更なる飛躍に向けて、チーム強化の準備は整ったと言っていい。



 就任以来、「決してあきらめないアグレッシブなサッカー」を目指して戦かってきた高祖監督。チームを愛すること、全ての力をチームのためにささげること、チームとして団結すること、そしてプロとして一流になることを強く選手に求めてきた。そして、その成果は確実に実を結んでいる。リーグ最終戦の浦和戦、天皇杯での鹿島戦は、その集大成と言っていいし、その戦い振りは、BS放送を見た全国のサッカーファンにも強くアピールしたはずだ。

 そんな高祖監督は、今のサガン鳥栖にとって一番大切なことは未来を見つめることだと言う。「経営を安定させること。選手を育成して、ここから巣立たせること。若手を育成することによってチームの評価が上がり、いずれは、いろんなところから若い選手が集まってくる。そして、スポンサーがつく、観客が増える、設備も整う。その時がJ1昇格を目指す時。今は身の丈を見つつも、未来を目指してチームを作る時期」。監督続投会見の際、そう語っていたが、将来のある若い選手を集めた狙いはここにある。

 サガン鳥栖設立当時からチームを支えてきたベテラン選手がチームを去ることになったのも、そういった事情からだった。どんなチームにも世代交代の時期はやってくる。昨シーズンからチームが新しいステージに向けて歩み始めたサガン鳥栖にとって、今が世代交代すべき時期となったのだ。だからこそ、ここまでチームを支えてくれたベテラン選手の労に報いるためにも、来るべきシーズンは更なる飛躍を遂げることが必要になる。

 「新しく入ってくる若い選手たちと現在の選手たちを融合させることで、より良いチームにする」ことを目標とする高祖監督は、全ての選手を横一線にしてチームをスタートさせる。目指すは、選手と監督、選手同士、それぞれがお互いに尊敬しあうようなチーム。そして、どんな時でも100%の力を出し切れるチームだ。そんな思いを胸に秘めて、選手たちは記者会見後、鳥栖スタジアムのピッチの上で初の合同練習に汗を流した。



 しかし、変わりつつあるといっても、まだまだよちよち歩きであることにも変わりはない。サポーターの手から生まれ、サポーターの力で支えられてきたサガン鳥栖は、引き続き多くのサポーターの力も必要としている。なにしろ、昨シーズンの年間予算は約3億。選手・スタッフだけでも29名。その他にもフロントの職員もいる。人件費のほか、試合の運営費、維持管理費を考慮すれば、どれだけ苦しい台所事情かは分かろうというものだ。

 そんなサガン鳥栖を、地元企業をはじめ、様々な人たちが家庭的な支援でサガン鳥栖を支えている。試合も、各種イベントも、その大部分はボランティアの手による運営だ。そして、そんな支援は、経済的な面のみならず、精神的な面でも選手たちを支えている。その証拠に、サガン鳥栖のいいところはと言う質問に対し、監督・スタッフ・選手たちは異口同音にサポーターの支援を口にする。

 チームの実力だけでなく、あらゆる側面においてチームの基盤を固めなければならないことははっきりしている。昨シーズン、大きく飛躍したとは言え、まだまだ目指す位置との距離は遠い。その目標に向けて、一歩ずつ確実に歩みつづけるためには、やはり、サポーターの支援は欠かせない。そんなチームを今年もサポーターたちはいつもと同じように支援してくれるはずだ。顔ぶれは大幅に変わったが、「俺が町のチーム」を愛する気持ちは変わらない。

 サガン鳥栖は、今後市内でトレーニングを重ねた後、2月1日から沖縄で一次キャンプを実施。その後、2月21日からは熊本に場所を移してシーズン開幕へ向けての最終調整を行う予定だ。目指すはJ2で優勝争いをすること。そして昨シーズン果たせなかったAクラス入りだ。顔に似合わず(失礼)頑固で厳しい高祖監督。全員で力を合わせてアグレッシブに戦う選手たち。それを縁の下で支えるサガンティーノ。三位一体となって戦うサガン鳥栖の今シーズンに期待したい。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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