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 福岡通信 03/06/22 (土) <前へ次へindexへ>

 何のために戦うのか


 文/中倉一志
「何でこうなるんだろう」。博多の森からの帰り道、いつも同じ思いが頭の中を駆け巡る。シーズン前、TV局のインタビューに今年のJ1昇格の確率は50%と答えた。チームの目標は2年でJ1。しかし、シーズン前の調整ぶりから見て、上位陣ともそこそこ戦えると感じていた。後は戦いながら、どれだけ積み上げられるかがポイント。昇格争いに絡みながら、力をつけていくはずだと感じていた。まさか、最下位争いをするとは夢にも思わなかった。

 福岡は調整は順調そのものだった。この時期の練習試合の結果など当てになるものではないが、その内容が昨年までのチームとは見違えるようになっていた。下がってくるベンチーニョにボールを当てて両サイドが飛び出すパターンや、開いたスペースに2列目の選手が飛び出していくパターンは、すでにこの時点で実践していたもの。しかし、このパターンを実行に移したのは第13節の新潟戦。実に2ヶ月間もの間、福岡は持っているものを使わなかった。

 その戦いぶりは、あまりにもナイーブだ。第17節の甲府戦は、その典型だった。小倉に同点ゴールを許したとはいえ、その直前までは圧倒的な福岡のペース。ゴールもオフサイドの掛け損ないで失ったもので、甲府が戦術的に福岡を上回っていたわけではない。逆転されたわけでもなく、引き続き同じサッカーをしていれば何の問題もなかったはずだ。しかし、ゴールの瞬間から福岡の足が止まり、福岡は自分たちのサッカーを放棄した。

 自信がないというよりも、彼らの姿は戦うことを恐れているようにさえ見える。現に福岡がいい時間帯を作るのは、相手が静かにしている時間だけ。少しでも抵抗のそぶりを見せられると、たちまち自分たちのサッカーを見失う。後は抵抗することさえも放棄して、ズルズルと相手のペースに飲み込まれていく。自分たちのサッカーをしないのだから、何が通用して、何が通用しないのかさえ分からないまま。そして、同じことを繰り返す。



 今の福岡に必要なものは戦術でも技術でもない。勝負の前提となる「戦う気持ち」だ。それを持てないうちは、何をやっても効果は出ない。多少なりとも見かけは良くなるかもしれないが結果は何も変わることはないだろう。実際に、ここまで試合を積み重ねてきて、多少見栄えは良くなっているものの結果は全く変わらない。敗戦も、引き分けも、全ての試合で勝負どころとなる時間帯で必ずといっていいほど相手の後塵を拝して負けている。

 だが、この「戦う気持ち」というものは厄介なもの。何しろ、口で伝えて教えられるものでもないし、人に言われて生まれてくるものでもないからだ。戦う気持ちの強弱を決めるのは、自らが求めるものに対する思い、それを実現したいと思う強い気持ちだけ。なぜ戦うのか、何を求めているのか、それを自分自身に問いかけ、そして答えを見つけない限り手にすることは出来ない。何を求めていたのか、もう一度見つめなおして欲しい。

 代表経験者や実績のある外国籍選手で戦ってもJ1から降格した。それだけで勝てるほどプロの世界は甘くないということだ。そんな世界でプロとしての実績がほとんどない選手だけで戦うのだから、その厳しさは容易ではない。それを承知でチャレンジしたのではなかったか。夢を追い続けるために福岡の地で再スタートを誓ったのではなかったか。最初から戦う気持ちがなかったなどとは言わせない。もう一度、熱い気持ちを呼び起こして欲しい。

 一昨年のJ2降格。ただひたすら迷走を繰り返した2002年シーズン。閉塞感にさいなまれた2年間を過ごし、サポーターは大きく意識を変えたように見える。以前なら起こっていたであろうブーイングの嵐も、フロントを紛糾する動きもない。つらい時期を過ごし、彼らにとってアビスパ福岡というチームは本当の意味で自分自身と一緒になった。彼らは耐えに耐えて応援を繰り返す。同じ仲間として、今度は選手たちが気持ちを形にする番だ。



 まずは、もう一度目標を明確にすることだ。福岡は目の前の1勝のために戦っているわけではない。順位をひとつ上げるために戦っているのでもない。2年間かけてJ1で戦うにふさわしいクラブを作り上げることが最低限の目標のはず。そのためにフロントを刷新し、指導陣を代え、選手構成も一新したはずだ。1人、1人に与えらた明確な目標を、もう一度確認し徹底すること。窮地に陥ったときに特効薬はない。まずは原点に戻ることだ。

 一方、自分たちの置かれた現実をきちんと把握することも必要だ。福岡はJ2で8位のチーム。どう言い訳をしたところで、実力的にはプロの中で下から数えて4番目のチームであることから目をそむけてはいけない。そのチームが2年でJ1昇格を目指す。当然だが、ハードルは高く、並大抵の努力で届くものではない。どういう形で力をつければいいのか。実力と目標を明確に捉えることでおのずと行動が決まる。当然だが、サッカー以外のことに目を奪われているような時間は一瞬たりともない。

 そして自分たちの行動を厳しく律すること。全てがサッカーを中心に回っているか。決められたことをきちんと実行しているか。試合の中での役割を果たせているか等々、当たり前のことを当たり前にこなせるよう、あらゆる行動を律することだ。出来ていないときは、互いに厳しく追及しあうこと、そして次に同じ誤りを繰り返さないこと。自己管理などという言葉でごまかしてはいけない。チームは組織。誰かの甘えはチームを崩壊させることにつながる。

 試合を見ている限り、福岡はこのあたりの厳しさに欠けている。試合中、選手間でコーチングをする姿など見られることは稀で、明らかに集中を切らしている選手がいても、誰も声をかけるわけではない。そして、ミスに対しても誰も何も言わない。個人攻撃をする必要はないが、1人のミスはチーム全体のミス。放っておけば同じことが繰り返され、それは敗戦につながる。選手のミスを指摘しないことは、自分に対する甘えにつながっていることを知る必要がある。



 これらのことは、プロサッカー選手として生活していく上で当然のこと。J1昇格のために必要な行動なのではなく、まずJ1昇格を口にするためにやらなければならない最低限のことでしかない。情けないことではあるが、それが出来ていない現状にあっては、まず基本動作の確認をするしかない。それを選手だけではなく、フロントを含めたクラブ全体で取り組むこと。それが出来ないようなら、過去の過ちをまた繰り返すことになるだけだ。

 過去J1を経験したチームが、J1在籍中と同じ運営組織で戦って、ここまで低迷した姿を私は知らない。現状は言い訳できるような範囲をはるかに通り越して、ありえない状況にまで落ち込んでいる。しかも、それはとどまる様子はなく、さらに悪化していく傾向すら見える。もう頭を抱えている時期は過ぎた。具体的に行動を改革し、強い気持ちで戦うことでしか事態は改善できない。戦う気持ちのない者は、フロントであれ、職員であれ、現場スタッフであれ、そして選手であれ、クラブを去るしかない。

 サポーターや、クラブを周りで支えている人たちは必死だ。抗議行動が起こらないのは、何も現状を許しているからではない。過去の出来事を踏まえ、自分たちが出来ることは何かを考え、その結果として必死になって応援を続けているに過ぎない。文句を言うことよりも、自分たちで出来るあらゆる行動を探り、それを実行に移すことが最大限の支援になると信じて行動している。クラブ関係者が理解する以上に、サポーターはひたすら耐え、そして自分たちの方法で必死に戦っている。

 そんな気持ちに応えられないようなクラブなら、J1昇格など果たせるはずはない。それどころか、今の現状を脱することさえも不可能だろう。現状に甘んじて、J2で戦うことに満足するクラブになるのか、J1で戦うにふさわしいクラブになるのか、それは今シーズンの戦い方で決まることになる。もうギリギリのところまでチームは来てしまっている。1人、1人が強い意志と、強い行動力を持たない限り、福岡の明日はない。
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