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 福岡通信 04/03/26 (金) <前へ次へindexへ>
キックオフ前、雄たけびを上げる福岡サポーター

 逞しさを垣間見せた一戦。


 文/中倉一志
「九州ダービーは負けられない試合のひとつ。特別な意識はあった。サポーターが大勢来てくれたのが大きい。まるでホームで戦っているような気にさせてくれた」(松田監督)。

 この日、鳥栖スタジアムに訪れた観衆は8820人。鳥栖との九州ダービーは9試合目になるが、鳥栖スタジアムで行われる試合としては過去最高の観衆を集めた。もちろん、生まれ変わった松本サガンのホーム開幕戦ということもその理由のひとつ。しかし、ゴール裏を埋めたサポーターの数はホームチームを大きく上回った。大観衆は「九州ダービーは何が何でも勝つ」という福岡サポーターの強い気持ちの表われだった。

 ここまでの対戦成績は5勝2分1敗。昨シーズンの成績は福岡の4位に対して鳥栖の最下位。数字の上なら福岡有利は明白だった。しかし、鳥栖は昨シーズンとは全く別のチーム、油断は禁物だ。「試合前から侮れないと思っていた。試合に対するメンタリティが素晴らしく、それが彼らの生命線。だから、そういう部分で負けないように試合に臨んだ」。そう松田監督が語ったように、福岡イレブンは立ち上がりからサガン鳥栖に襲い掛かった。

「ホームの試合でホームチームがすることを相手にやられた」(松本監督)。キックオフ直後の福岡の攻勢に、強気の発言で知られる松本監督も表情が硬い。「相手がひょっとしたら前半は守ってくるんじゃないかと判断してしまった。全く逆のスタートになった」。新しく生まれ変わった鳥栖。福岡が様子を見てくるという展開は確かに予想されただろう。しかし、福岡に相手の様子を見るという考えはない。狙いはあくまでも自分たちの戦い方をすることだけ。それだけのことは積み重ねてきた。

 自らの攻勢で主導権を奪った福岡は10分、米田のミドルシュートで先制する。後半は攻め急ぎすぎず、かといって緩慢にならず。高い位置からきちんとプレッシャーをかけてボールを支配すると、ボールをすばやくつないでサイドから崩すといういつものサッカーで試合をコントロールした。69分、トレーニングキャンプ中から「鍵になる」と言っていたセットプレーから2点目を奪取。さらに1分後にはチームコンセプトであるサイド攻撃から駄目押し点を奪って勝利を挙げた。



ホームゲーム同様、紙マフラーを広げてチームを鼓舞する
 福岡の会心の勝利だった。松本監督指揮の下、様変わりしつつある鳥栖との対戦は簡単な試合にはならないだろうとの思いもあったが、結局、危ない場面はほとんどなく、力の差が感じられた試合だった。もっとも、鳥栖も昨年と同じチームだったわけではない。福岡が先制点を挙げた後の15分間は鳥栖が主導権を握るシーンもあり、その際に見せた攻撃は明らかに昨シーズンの鳥栖ではなかった。しかし、それ以上に福岡が強かったということだろう。

 この試合のポイントはいくつかあるが、最も大きかったのが立ち上がりの攻防だった。前述の通り、鳥栖は福岡のカウンターに注意しながら攻めに出るというゲームプランを立てていたはずだ。しかし、これは明らかに見誤りだった。昨シーズンの福岡の戦い方を見ても分かるように、相手の様子を見ながら戦うということを福岡はあまり選択しない。まずは自分たちの戦い方ありき。積み重ねてきたものを相手にしっかりとぶつける事を第一としている。

 もちろん、それは1年かけて作り上げたチームに、それだけの力があるという自信の裏返しでもある。山形戦後の記者会見でも「うちのサイド攻撃というのは、どんなやり方をされても、ある程度機能すると思っている」(松田監督)と自信を見せていたが、この試合でも立ち上がりの両サイドの攻防で主導権を握り、攻めに出て行くはずだった鳥栖が、思惑とは逆に、まるで5バックのような体制で守りに入らざるを得なくなった。

 前半のもうひとつのポイントは、先制点を奪った後に鳥栖に傾きかけた流れを奪い返した攻防だろう。いやな流れになりかけた15分間を凌ぐと、慌てて反撃に出ずに、高い位置でのプレッシングと、奪ったボールをつないでサイドに展開するということを繰り返した。「自分たちのサッカーが出来れば、とんでもないことにはならないはず」。キャンプ中の松田監督の言葉だが、福岡にはリズムが崩れたときに戻ることが出来る拠り所がある。当たり前のようにペースを取り戻せたのも、ベース戦術の確立によるところが大きい。



ホームチームのサポーターをも上回る大声援を送る
 この日の前半の攻防から見て、試合の行方はほぼ決まったも同然だった。あとは試合をどうコントロールするかだけだった。福岡が取った戦術は、前半同様、高い位置からプレッシングをかけて奪ったボールをサイドへ。そしてクロスを挙げてゴールを目指すというもの。無理に攻め急がない。しかし、たとえ相手が誰であろうと、自分たちのスタイルを徹底して繰り返す。それが守備の安定を生み、そしてひいては得点チャンスにつながる。

 64分にベンチーニョを交代させたのも高い位置からのプレスを実行するためのもの。「ある程度しっかり守って1−0でもいいということで、前線からプレスをかけて試合を進めたほうがいいかなということです。0−0だったら点を取るために、そのままだったかもしれません」。松田監督は交代の理由を語る。その結果、鳥栖は自陣から抜け出すことも叶わず、そして福岡は自分たちのスタイルをやり通すことで2得点を追加した。

 その2ゴールを挙げた太田もこの試合の立役者だった。中盤のパス回しでスペースを作り、そこへ両アタッカーが飛び出していくことで福岡のサイド攻撃は威力を発揮する。そのために高い位置でボールをキープすることが生命線になるのだが、太田はその役割を見事にこなした。福岡は多くの縦パスを太田に預け、そのため鳥栖は最終ラインを上げきれず中盤にスペースを作ってしまった。高さで決めた太田の2ゴールだが、それは太田の働きで自由にクロスボールを上げられるシチュエーションを作ったからでもある。

 ユニバーシアード代表のエースFWとして金メダルを獲得したこともある太田は学生時代からポストプレーに非凡なものを見せていたが、大きな身体をもてあますことが多く、過去、激しいプロの当たりに苦労することが多かった。しかし、2年間の努力で見事に克服。プロの当たりにもびくともしないフィジカルを作り上げた。相手のファールまがいのプレーに動ずることなく起点を作ったプレーがあったからこそ、福岡のサッカーが出来たといえる。開幕戦に比較して右サイドの攻撃が機能したのは太田の働きと無縁ではない。



チームとともに戦いJ1を目指す。戦いはこれからだ。
 また、米田とホベルトのダブルボランチの動きにも新しい発見があった。この日は米田がいつもより高い位置でプレー。ホベルトも局面によっては高めの位置に出ることもあった。「米田とホベルトというコンビの中で、どちらかというと、もう少しオフェンシブにもやれるんじゃないかということで、今週は練習の中で、そのバランスを探っていこうということでやってきました」(松田監督)。米田のJリーグ初ゴールは、そういう中で生まれた。

「米田選手のゴールは、去年の戦術を継続して、さらに磨き上げるという点が出たと言っていいですか」との記者陣からの質問に対し、「そんな簡単なことではないですよ(笑)」と答えた松田監督。しかし、手応えは掴んだ様子だった。米田のプレーの幅が広がりつつあること。前節にも増して光ったホベルトの守備力。福岡の心臓部を支える2人の活躍には、これからも眼が離せそうにない。

 そして最後にサポーターの後押しも忘れることは出来ない。「(鳥栖スタジアムは)本当にホームのような気がする。これもサポーターのおかげ。本当に大きいですね、サポーターの人がたくさん来てくれたということは」(松田監督)。松田監督が指揮を執るようになってから、福岡は鳥栖スタジアムでは5連勝中。松田監督が福岡の監督として挙げた初勝利も鳥栖スタジアムだった。これからも、サポーターの後押しはチームを支えていくことだろう。

 まだ2試合が終わったばかり。福岡には越えなければならない壁がまだまだたくさん待っている。しかし、同一チームと4試合ずつ、計44試合ものリーグ戦を戦わなければならないJ2では、いかに自分たちの戦い方を固められるかが大きな鍵になるのは、過去のシーズンから見ても明らかなこと。そういう意味では、確固たる戦い方を築きつつある福岡は他のチームに対してアドバンテージを持っていることは確かだ。鳥栖との戦いの中に逞しさを感じ取ったのは私だけではないだろう。
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