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 福岡通信 04/05/09 (日) <前へ次へindexへ>

 決戦は日曜日


 文/中倉一志
「フロンターレに対して勝ちで終わるということは、非常に自信にもなるし、勢いもつくと思うので、決戦のつもりで戦いたいと思っています」。第10節、湘南戦での記者会見で川崎戦への意気込みを聞かれた松田監督は答えた。どんなときでも「相手に関係なく、目の前の試合を戦うだけ。自分たちのサッカーをやるだけです」と答え続けてきた松田監督。一瞬、意外な感じがしたが、それだけ川崎戦にかける意気込みが強いということだろう。

 昨年の対戦成績は0勝4敗。驚異的なペースで勝ち星を量産した昨年の第3クール以降ですら4得点8失点。後半戦の1試合平均失点が1点だったことを考えると、いかに苦手にしていたのかが分かる。しかし、J2で優勝してJ1に昇格するためには勝たなければいけない相手。「去年、勝っていないんで、今年は一発目というのはすごく大きいと思う」(松田監督)。この1戦で最大のライバルに対して優位な立場に立ちたいと思うのは当然のことだ。

 さて、川崎はここまで8勝2敗。混戦模様が続くJ2の中で、唯一、順調に勝ち点を積み重ねて2位以下を引き離しにかかっている。仙台に敗れたのはともかく、試合内容に拘わらず、下位チームに対してしっかりと勝ち星を積み重ねているのは地力がある証拠。我那覇が7得点、ジュニーニョが8得点と2トップもきちんと結果を残している。対戦の地は等々力陸上競技場。福岡にとっては厳しい戦いになるだろう。しかし、だからこそ、この1戦で叩いておきたい。

 両チームの特徴を考えれば、両サイドの攻防でどちらが主導権を握るかということにポイントになる。川崎のサイドアタックをどうやって止め、そして、どうやって両サイドのスペースを破るか。だがおそらく、福岡は特別なことはしないはずだ。「チーム状態自体は悪くはない。そこのところをきちっとした形でぶつけていけるようにやりたい」。目指すはいつもの自分たちのサッカー。それをやり続けることが出来れば勝利を掴むことが出来る。



 開幕当初こそ、相手を攻めきれずに引き分けを重ねた福岡だが、山形の台頭で得点力不足という課題は解消したといっていい。分かっていても止められない、古賀とアレックスの左サイドに加え、山形が右サイドの攻撃を受け持つことで攻撃の幅が広がっている。平島とのコンビネーションも抜群だ。ベンチーニョが調子を上げてきていることも好材料。中盤でポイントが出来るときの福岡の攻撃なら、川崎相手にでも十分通用するだろう。

 高い位置からのプレッシングも良く機能している。2トップのチェイシングから始まり、中盤で囲い込むようにして相手の自由を奪い去る。そして、奪ったボールをシンプルに繋いで素早く攻撃を展開するのは福岡ファンにとっては、すっかりお馴染みのスタイル。篠田と米田のダブルボランチのバランスも試合を重ねるごとに改善されており、中盤での攻防でも川崎と互角以上の戦いをすることは十分に可能だろう。恐れることはない。

 もちろん、いいところばかりではない。ここ数試合にわたって問題となっているのが、攻めあがったときのバランスの悪さ。とにかくボールの取られ方が悪い。軽いプレーで不用意にボールを奪われ、そのままスピードに乗ったカウンター攻撃を仕掛けられてピンチを招くことが多すぎる。ここまでは相手の攻撃力不足に助けられている感もあったが、さすがに川崎は見逃してはくれないだろう。ひとつの緩慢なプレーは命取りになる。

 他にもクロスボールに対する守備の不安定さや、1点を失った途端にリズムを崩してしまうなど課題はある。しかし、これらは不用意にボールを奪われて相手のスピードに乗ったカウンター攻撃にさらされることから派生してくる問題。攻守のバランスのズレが全体のプレーにジワジワと影響を与えリズムを失うことにつながっている。攻めているようで駄目押し点を奪えない遠因にもなっている。この部分の修正がどこまで出来ているか。川崎戦での最大のポイントになるかもしれない。



 福岡は昨年からの継続性を武器にJ2屈指の実力を身につけたが、その一方で、90分間を同じリズムで戦えず、どたばたした感も拭い去れない。強さと危うさが混在しているのがいまの福岡だ。おそらく、10節を終えて2位という結果には満足していても、どこか安心感を持つことが出来ないサポーターも多いはずだ。実際、札幌戦後の記者会見で松田監督は、プレーの精度を高めていかないと波に乗り切れない旨の発言をしている。

 しかし、成果と課題が混在すること自体は問題ではない。ひとつの課題が消え、新たな課題が生まれる。そしてまた課題を解消する。44試合という長丁場のリーグ戦の戦いは、この繰り返しだ。一喜一憂せずにこの繰り返しを確実に実行したチームが44試合目で笑うことになる。どこかに転がっている「きっかけ」という武器を確実に拾い集めること。それが出来ればチームは大きく飛躍する。それだけの素材は厳しいトレーニングで鍛え上げているはずだ。

 そういう意味では、強さと危うさを混在させる福岡にとって、川崎戦は大きな、大きなターニングポイントになりうる試合だ。サポーターが運営するサイトに「どうやら今度の試合が昇格への第1ラウンド」と記されているが、まさにその通り。ここでの勝利は波に乗れそうで乗り切れない福岡に大きな力を与え、J1昇格というゴールに向かって大きな一歩を踏み出すことにつながる。たかが44分の1ではない試合であることに異論はないだろう。

 奢ることなく、そして気負うことなく、いつもの戦い方で臨めばいい。そして、謙虚に、相手を尊重して、しかし自信を持って戦えばいい。ただし、いつもより、ほんの少しばかりの慎重さを持って。「全力でぶち当たっていくしかない。チャレンジャーの気持ちで。去年勝っていないし、是非、首位を倒してJ2のリーグを楽しくするようにしたい」(千代反田)。選手はもちろんそのつもりだ。きっと勝利を手土産に福岡に戻ってきてくれるはずだ。



 等々力陸上競技場には、第9節の京都戦以上のサポーターが集まってくることだろう。サックスプルーのユニフォームがスタジアムのほとんどを埋め尽くすに違いない。完全なアウェイ状態の中での戦いは容易ではない。しかも、両チームの勝ち点差を考えれば、川崎は引き分けでもOKのシチュエーション。だが、そんな状況を跳ね返す力になろうと、福岡からも多くのサポーターが等々力に乗り込むようだ。

 アウェイゲームには取材に来ることがほとんどない福岡のメディアも取材に行くと聞いている。もちろん、私も等々力の地で福岡の戦いを見守るつもりだ。そして、等々力に駆けつけることが出来ないサポーターは、TVの中でボールを追う福岡イレブンに熱い気持ちを送ってくれるだろう。勝負を決めるのは、もちろん選手たち自身。しかし、サッカー力とは、そのチームに関わる全ての人たちの思いの和だ。どこにいても、彼らに熱い思いを送りたい。

 決戦のキックオフまで、あと数時間。そして、その90分後には昇格に向けた第1ラウンドの決着がつく。軍配は福岡か、川崎か。いずれにせよ、サッカーの神様は勝ちたいという強い意志を示したチームに微笑むことになるだろう。厳しく、激しい試合になることだけは間違いないが、その厳しさに打ち勝ってこそJ1のゴールがある。サックスブルーの波を跳ね返す試合を期待したい。そして、川崎の番記者に囲まれる中で、ガッツポーズを決めさせてもらいたいものだ。

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