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 福岡通信 04/05/25 (火) <前へ次へindexへ>
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 アウェイに取材に行く理由


 文/中倉一志
 ある日突然「44試合全試合を取材しよう」と思い立った。それほど深く考えたわけでもなく、たいした決心がいったわけでもなかった。ごく自然に、そして当たり前にスケジュール表を取り出して試合日程を書き込んだ。今年は福岡にとって勝負の年。そんな年に、のんびりとテレビの前でアウェイの試合を観戦する気になれなかった。どんな結果が待っていようと選手たちの戦い様を見届けたい。それが、偉そうにゲームレポートを書いている者の最低限の義務のような気がしたからだ。

 改めてスケジュール表を確認すると、遠征先はほとんどが関東。飛行場が市街地に隣接している福岡なら、さほど苦労のいる遠征ではない。1時間半ばかり飛行機に乗って、羽田から少しばかり電車を乗り継げばいいだけだ。時刻表とにらめっこしていると、デーゲームなら、ほとんどの会場まで日帰りでいけることも分かった。体育会で過ごした自分は体力には自信がある。問題は金銭面だけだったが、ちまちま貯めた貯金とギャラをつぎ込めば何とかなる。

 しかし、これが大きな勘違いだった(笑)。取材する試合の総数は例年通り。もちろん書くレポートの数も変らない。飛行機に乗っている時間を利用すれば、取材内容を整理することも可能だ。変ったことといえば、福岡と鳥栖を等しく取材していたのが福岡中心の取材活動になるだけに過ぎない。ところが予想もしなかった疲労感に襲われた。遠征してみて初めて分かる経験だった。もう既に1シーズンを終えたような感覚に襲われている。

 地方のチームは遠征するだけでハンデがあると言われるが、これほどまでのものとは思わなかった。もちろん、選手たちは試合当日に出発するわけではない。しかし、それでも帰福は試合当日。後片付けもそこそこに飛行機に飛び乗る。いくら鍛えられているとはいえ、のんびりとバスで帰宅できるチームとの差は歴然としている。こんな環境でリーグ戦を戦っているのか。そう思うと、やはり44試合全てを取材しないわけにはいかなくなった(汗)。選手たちだけを戦わせるわけにはいかない。



試合前の準備をするサポーター。彼らも貴重な時間を使ってやって
来る。
 それでも、疲労感と引き換えに、アウェイに行って見なければ分からない様々なことが経験できる。まず、改めて気がついたのが、サポーターの応援のありがたさだった。福岡からは毎試合、毎試合、サポーターグループが車で乗り込んでくる。さすがに人数は少ないが、博多の森と同じように大きな横断幕をいくつも広げて、精一杯の声援を送る。周りに味方がいない中での「アビスパ福岡!」のコールほど心強いものはない。

 とにかく選手を奮い立たせることだけに集中して応援し続ける。中には「何やってんだ!」と言いたくなるようなプレーもある。私など、何度も記者席で天を仰ぐこともある。しかし、彼らは文句のひとつも言わずに、ブーイングもせずに、ただひたすら選手の背中を押す。アウェイだからこそ、苦しい状況だからこそ、選手たちを支えようという気持ちが痛いほど伝わってくる。大雨の中で行われた13節の大宮戦終了後には、うなだれて引き上げる選手たちを、いつまでも歌を歌って見送っていた。

 また、アウェイの雰囲気を感じさせられるのはスタンドやサポーターの応援だけではない。記者席や記者会見場にも同様の雰囲気がある。ホームチームのチャンスには記者席も活気付き、逆に福岡のチャンスには静まり返る。周りから聞こえてくるのはホームチームを中心にした会話ばかり。なにしろ、某新聞社と私以外に福岡を取材に来ている記者はいないのだ。しかし、そんな中で、福岡のゴールに小さくガッツポーズを作るも楽しいものだ。周りからは冷たくにらまれるが・・・。

 試合の結果にかかわらず、記者会見では、ほとんどの記者が松田監督に質問をしない。口火を切るのは某新聞社の記者。そして私が続く。松田監督は、我々2人と、その記事を読んでくれる読者のために、丁寧に、そして分かりやすく答えてくれる。ホームチームの番記者が興味を示さない中、稚拙な質問にも、答えにくい質問にも、いやな顔ひとつせずに。「きちんとした記事を書かなければ」。改めてそんな気持ちにさせられる。



メディアもアウェイ状態。記者会見で福岡に質問する記者はほとんど
いない。
 また、スタジアム事情についてもアウェイに行かなければ分からないことも多い。博多の森、鳥栖スタジアム、大分スタジアム等、日本でも有数のスタジアムでサッカーを見ることに慣れてしまっている我々には、田畑を越え、さらに果樹園と林を越えた先にあるスタジアムなど想像もつかないだろう。芝は管理されているとは言いがたく、主だった交通手段はシャトルバス以外にはない。選手が使用するロッカールームは、とてもプロが使うものとは思えない。しかし、選手たちはそういうスタジアムで試合をすることもある。

「プロの試合なのに」。あるスタジアムへ取材に出かけた際、私は思わず呟いた。全てのサッカー選手の夢。サッカーを愛する人たちにとっての最高の場所。より高いレベルを目指してプレーする選手たちが集まる場所。それこそがプロリーグのスタジアムだと思っていたが、これもJ2の現実のひとつだ。「1日でも早く、プロチームの名にふさわしいスタジアムで試合をさせたい」。そのときは率直にそう思った。J1昇格を果たせば、それも叶う。

 逆に言えば、博多の森球技場の素晴らしさも改めて知らされた。ゆったりとした座席。適度に傾斜がついて見やすいスタンド。それにフットボール専用の競技場。交通アクセスも最寄り駅である地下鉄「福岡空港駅」からバス利用なら10分もかからない。福岡市の中心部である天神からでも30分もあればスタジアムに着ける。おそらく、これほどのスタジアムは日本中を捜しても見つけることは難しいだろう。

 ホームスタジアムの環境はJ1を含めても上位に入る。こんな素晴らしいスタジアムで21試合も戦える福岡が、いつまでもJ2に甘んじているわけにはいかない。福岡に関わる全ての人たちの力を結集して、スタジアムにふさわしいチームにする必要がある。それぞれの人たちが、それぞれの立場でJ1昇格を果たすための努力をしなければならない。これも、林を抜けた先にあるスタジアムに取材に行ったときに真っ先に思ったことだった。



選手たちを奮い立たせるサポーターの声。アウェイでは最も頼りに
なる存在だ。
 実は私が全試合を取材することを決心したのには、もうひとつ大きな理由がある。福岡サポーターなら忘れることの出来ない2001年シーズン。シーズンを終えたとき、もっと自分なりにやれることがあったのではないかと悔いが残った。ピッチの外にいる自分に、大きな力があるわけがないことは分かっていたが、それでも何か自分なりに出来ることがあるように思えた。あれから3シーズン目。その答えを見つけるために、全44試合を取材することにした。

 福岡のJ1昇格への挑戦はアビスパ福岡というクラブの挑戦だ。しかし、監督だけが頑張っても、選手だけが頑張っても、その挑戦の結果は見えている。フロント、職員、サポーター、福岡市民、そしてメディア。それぞれの人たちの思いがひとつにならなければ昇格などはありえない。いつも口にすることだが、チームの力が試されているのと同時に、チームに関わる全ての人たちの願いの強さも試されている。

 福岡のここまでの成績は5勝6分3敗。J2の混戦模様の原因を作り、自らがその混戦の中に飲み込まれている。力があるにもかかわらず、それを発揮できないままに14試合を過ごした。しかし、今は辛抱のときだ。自分たちの力を信じ、勝利を強く願って、そして冷静に戦うことでしか事態を変える方法はない。そして我々も、一喜一憂することなく、チームを信じて力の限りの声援を送るしかない。もちろん、ホームでも、アウェイでも。

 これから梅雨が始まり、その後には暑い夏がやってくる。選手たちでさえ疲労が蓄積してくる季節。既に1シーズンを過ごしたほど疲れてしまった私の体力が持つのか不安だが、選手たちが挑戦し続ける限り、最後まで戦いぶりを見届けようと思う。そして、チームを含めて、福岡に関わる全ての人たちが一体感を持てるような活動が出来ないものか模索したい。しかし、44試合の取材は今年限り。来年は34試合の取材で勘弁して欲しいものだ。
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