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 続・スペインからの風 04/11/08 (月) <前へ次へindexへ>

 負けないバルセロナ


 文/神藤恵史(ムルシア在住)
 
 今年のバルサは違う。第10節を終えて未だ負けなし。開幕から勝ち点26ポイントの獲得は96・97年、つまりボビー・ロブソン監督の時代に並ぶ勝ち点を記録している(この時のエースはロナウド、ちなみにサブコーチはチェルシーのモウリーニョ監督)。ライバル、レアル・マドリードに一時は9ポイント差をつけた(95・96シーズン以来の記録)。また、欧州規模の大会(チャンピオンズリーグ、UEFAカップ)では4年間に渡ってホームで負け試合を経験していないグラスゴー・セルティックをチャンピオンズリーグで一蹴し、先週も強敵ミランをロナウディーニョのスーパーゴールで片付けてしまった。

 決して全てが順調なわけではない。ジュリー、ジェラルドがやっと怪我から回復したものの、モッタ、エジミルソン、シルビーニョ、ホルケア、ガブリと主力選手の名前が常に療養中リストに並び、ベレッティも今節のデポルティーボ戦から離脱集団に加わった。「勝ち試合で終わったことはもちろん嬉しいが、それ以上に怪我人が出なくて安心した」と本音を何度か漏らしたライカールト監督。クラブ本部も一時はカンプナウのグラウンドの芝生検査まで実施したほどだ。

 しかし、ライカールト監督を悩ませるチーム事情があっても、今年のバルサは過酷な問題を難なく上回る総合力を見せている。2つ、3つのポジションをこなす選手は数人いるし、またメッシ、ダミーアなどと、頼もしい若手も活躍している。得点ランキングを独走しているエトー、バロンドール候補の話題が絶えないロナウディーニョ、スペイン代表のゲームメーカーに呼び戻されたシャビ、最終ラインのキャプテン・プジョール、いずれも健在だ。



 グラウンドの芝生の長さを7cmまで伸ばして、なんとかバルセロナのパス回しを阻止しようとした、マジョルカのベニート・フローロ監督(2週間前に解任されてしまったが・・・)の必死のアイデアも、彼らの前には歯が立たなかった。今では守備ボランチにマルケスがいることも、後半途中にイニエスタが出場しスペクタクルなプレーを披露するのも見慣れてしまった。

 バルサの素晴らしいところは、勝ち続けているということだけではない。試合終了のホイッスルが鳴るまで手を抜かずにプロフェッショナルなサッカーを見せてくれるのが最大の魅力。昨年は、屋台を開いたり、ポップアーチストを呼んだり、時には試合時間を遅くしたりして、お客さんの足を何とか引き止めようとしたラポルタ会長だが、今ではカンプナウ・スタジアムに7、8万の観客が集まるようになり、ひとまず若手会長(42歳)の肩の荷も下りたようだ。

 バーやレストランにも、バルサの試合を観にやってくる常連客が増えた。そのスペクタクルなサッカーに、観客が途中で帰る姿はスタジアムでも、テレビ観戦をしている飲食店でも皆無に近く、バーテンダーもサッカー観戦に夢中になってしまって仕事が手につかないほどだ。



 そんなバルサの強さの決定的な要因は、シーズン前に行われた大型補強だ。ラーション、ベレッティ、デコ、シルビーニョ、エジミルソン、そして最後にエトーが加わった。このメンバー全員に共通することは、いずれも既婚者であること。選手たちの夜間活動に以前から悩まされていたライカールト監督の要望だったようだ。

 その記事を僕が手にとって読んだのは、まだ8月中旬(エトーのバルセロナ入りはまだ決まってなかった)。新メンバーの多くが、移籍記者会見に親族を連れてきたりする姿を見て、彼らは内気、またはマイホーム的で、外社会に対して苦手意識を感じているのではないかと疑ったが、そんなサッカー業を勤める一家の主(あるじ)たちは、ピッチの上でありったけの力を振り絞って仕事に専念し、画期的な結果を出している。

「そんな秩序の整ったチームも、暴れん坊のエトーが来れば崩れていくのも時間の問題だろう」と辛口なコメントを漏らしていたマドリード側メディアだが、今では、チャンスを確実にものにしてチームに貢献しているエトーを絶賛している。



 そして、ピッチ内外で団結力を発揮しているのも、もうひとつのバルサの強さの要因だ。読者にもその雰囲気が伝わるように幾つかの例を挙げよう。

 ライカールト監督の誕生日(ラポルタ会長と同年代)にはチーム全員が家に招待されたし、決定的なチャンスを何度も逃したラーションに対して地元メディアは、彼1人を非難することなく、むしろ、最前線からの守備での貢献度、また味方選手に対する態度、フェアープレー、妥協をせずに走り続けること、そのようなところについて高評価を与えている。スタジアムで彼のプレーを直接見ている地元ファンも、途中出場する度に拍手で迎えている。

 第5節のマジョルカ戦。その時点では、まだゴールを記録していなかったロナウディーニョがPKを獲得。当然、ロナウディーニョがPKを蹴るものと誰もが思ったが、ペナルティスポットに向かったのはエトー。昨シーズンまだマジョルカでキャプテンを務めていたエトーが、お世話になった古巣チームとの試合ではゴールを決めて返すことを願って、ロナウディーニョがキッカーを譲ってのことだった。

 またスタメン選手のユニフォームの上には「チャイゴ(モッタ選手)、がんばれ!」「アミーゴ、エジミルソン!」と書かれたTシャツを着て、長期離脱のためにブラウン管の向こうで試合を見守っている仲間を鼓舞する。メンバー写真を撮った後に、多くの選手がピッチの上にTシャツを置いてウォーミングアップする中、腰を下ろして一つ一つTシャツを拾うロナウディーニョの姿に、何か心温まるものを感じた。



 さて、ロナウディーニョについて最後に一つ。 
 怪我が完治していないものの、慣れない左サイド、またはCFのポジションでプレーしながらも、見ている人を魅了させるサッカーを毎試合見せくれる。

 ミラン戦との試合予想では相手側のブラジル人メンバー(カカ、ディダ、セルジーニョ、カフー)の方が、バルセロナ側(ロナウディーニョ、ベレッティ、デコ)よりも優勢とブラジルの地元メディアに評価され、特にロナウディーニョの不調が促されていた。

「アウェーでバルサに引き分けならば十分な結果」と試合前に漏らしていたアンチェロッティ監督のコメントの通り、伝統的カデナッチョで守りを固めたミラン。試合終了まで残り2分、ラストチャンスをもらったロナウディーニョは左足で決勝点を生み出した。

 一瞬、時間が止まり、次には歓呼の嵐が九万人のスタジアム中から湧いた。無意識のうちにユニフォームを脱ぎながら、雷神の如く凄まじい形相を装った背番号10は、野獣の如く夜空に向かって叫んでいた。「あの時はスペイン語、フランス語、ポルトガル語が勝手に出てきて・・・。」と記憶を辿りながらロナウディーニョの顔は赤くなっていた。
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