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 頑張れ!女子サッカー 03/08/11 (月) <前へ次へindexへ>
 熱戦を繰り広げた鳳凰(スカイブルー)と常盤木(グリーン)

 ディフェンディングチャンピオンを倒し、鳳凰が初の戴冠。


 取材・文/西森彰
第12回全日本高等学校女子サッカー選手権大会決勝 鳳凰vs.常盤木学園
2003年8月10日(日)10:00キックオフ 越谷市しらこばと運動公園競技場 観衆:260人 天候:晴
試合結果/鳳凰FC1−0常盤木学園(前0−0、後1−0)
得点経過/[鳳凰]長濱(後半29分)


 余程の天候でない限り、サッカーに中止はない。甲子園の高校野球が中止になろうが、女子サッカーは行われる。埼玉県で行われている第12回全日本高等学校女子サッカー選手権大会は、前日に行われた準決勝が台風の影響を受け、翌日の決勝は強烈な日差しの中の決勝戦となった。会場のしらこばと運動公園競技場は昨年11月にオープンしたばかり。かわいらしいスタンドでピッチまで近いのは良かったが、プールを備える水上公園を隣接しているのが、思わぬ災難を招いた。

 前述したように、この日は台風一過の猛暑で絶好のプール日和。越谷市民全員がこの水上公園を目指したかのように、上下一車線の道路はひどい渋滞に陥った。余裕を持って出たはずの私は、バスの中に1時間以上閉じ込められて、キックオフぎりぎりに着いた。しかし、大会の来賓、役員、それにプレスの一部はキックオフに間に合わなかった。なかなか想定できないアクシデント。審判、選手など試合の当事者に影響がなかったのは不幸中の幸いだった。



 さて、今年で12回目を迎える全日本高等学校女子サッカー選手権大会だが、これまで連覇は一度もない。第2回大会を制した本庄第一、第3回、第5回大会を制した埼玉ら、前年の優勝校がのべ5回、翌年の決勝に進んでいるのだが、いずれもこの快挙を阻まれている。第8回大会を山本絵美(田崎ペルーレ)らの活躍で制した湘南女子に至っては、共学化にあわせて湘南学院と校名変更をしてジンクスに挑んだが、その壁は厚かった。

 そして今年の決勝にまた前年の優勝校が戻ってきた。第10回大会を制した聖和学園の連覇を宮城ダービーで阻止し、初優勝を成し遂げた東北第一代表・常盤木学園(宮城)だ。個々のテクニックを生かし、きちんとビルドアップする正攻法の戦いぶりは他校の関係者からももちろん一目置かれる存在。昨年の決勝戦で、貴重な先制点に絡む活躍を見せた渡辺由似ら、優勝を経験しているメンバーも残っている。今大会も激戦のDグループで3戦、準決勝と4戦全勝で連覇にリーチをかけた。

 これに対して「6度目の連覇キラー」を担うのは九州第2代表の鳳凰(鹿児島)。昨年は準決勝で常盤木の前に2対1で敗れ去った。「妻沼カップであたって、その時は常盤木さんの方がケガ人ばかりで、ウチはフルメンバー。3対1で勝っていたんですが全くの参考外。チャレンジャーの気持ちで試合に臨みました」という鳳凰の嶋田正照監督。「昨年と同じ舞台で勝ってこそ」という意識はあったはずだ。こちらもグループリーグ3連勝。準決勝はPK戦で聖和学園を降した。



JFAの女子委員会担当・大仁邦彌理事が、トロフィー
と賞状を授与した
 決勝戦は常盤木のキックオフで開始。3−3−3−1というシステムできちんとボールをつなぎながら、ゴールに迫る。「昨日が風がびゅうびゅう、今日が酷暑。風のほうが良かったね、こっちは東北人だから」と笑った常盤木・阿部由晴監督は、選手たちの行く気にまかせた。自由を与えられてピッチに飛び出した常盤木は積極的に主導権を握った。

 コイントスで風上の陣地をとった鳳凰も立ち上がりは行く気を見せていた。しかし、徐々に常盤木のプレッシャーによって押し込まれていった。4−1−3−2のシステムは、常盤木の5枚のアタッカーに対応するため、トップ下の高橋悠が後ろに引っ張られ、前線と後ろが間延びした。このスペースを常盤木の宮川葉月、齋藤有里が上手く使ってセカンドボールを拾っては2次攻撃につなげる。

 シュートだけでなくポストプレーもこなす長身の天野実咲を中心に攻めたてる。鮫島彩、佐々木エリカの両ウイングが巧みなドリブルでサイドを突き、トップ下の渡辺由似が裏を虎視眈々と狙う。さらにキャプテンの岩澤和がバランス良く顔を出しながら攻撃参加。前半だけで17本のシュートを放ち、幾度も決定機を迎えた。しかしいずれも得点には結びつかなかった。

 シューターがチャンスに力んだことや、運不運の部分があった。しかし、それは鳳凰の選手たちの頑張りによるところが大きかった。中盤から前の選手はサボらずマークに付いて、数的優位を作らせない。ディフェンダーは裏を取られても諦めずに追いかけ、相手が持ち替える瞬間に足を伸ばす。さらにセンターバック・堤晴菜の読みの良いカバーリングが光っていた。鳳凰のイレブンは全員が自分のできることを成し遂げ、前半の35分間を守りきった。



 メダルの色に思わず悔し涙がこぼれる常盤木の選手たち
「高橋悠が、相手の7番(岩澤)にかなり引っ張られていた。そこで前と分断されていたのが、前半やられた原因」と振り返った嶋田監督。後半に入ると、その途切れた中継点に田頭陽子がボールをもらいに下がるようになった。そして、そこから一度、サイドへ叩いて、自分は前へダッシュ。右の藤本優希がボールを持てるようになり、互角の展開を繰り広げるまでになった。

 後半に入って動きが良くなった鳳凰とは対照的に、前半飛ばした常盤木の足が止まってきた。後半の15分、大畠千枝主審がこの試合2度目の給水タイムを告げる頃には、両チームの勢いは完全に逆転していた。しかし、鳳凰だけでなく、常盤木も全国大会に入ってからここまで無失点できている堅守のチーム。前半とは逆にチャンスが多い鳳凰もなかなかゴールを奪えない。

 こう着状態の時には、しばしばセットプレーが勝敗を分ける。この日も明暗を分けたのは、ひとつのセットプレーだった。後半29分、ハーフウェイ付近で得た鳳凰のフリーキック。堤が蹴ったボールは逆風を突いて大きく伸び、常盤木の最終ラインの後ろ、ニアサイドに走ったフォワードの裏で抜けてくるボールを狙った長濱伊代の前に落ちてくる。

「準決勝までで(栗原美怜が)相当傷んでいたので、この試合も動きが良くなければ代えようと思っていた」。鳳凰の嶋田監督は前半33分、キャプテンの栗原に代えて、長濱を入れた。前半の残り2分をプレーさせ、ハーフタイムで修正することで、上手くゲームに入らせようとしていた。それでも「何も考えられなかった」(鳳凰・長濱伊代)という交代選手の右足が、このボールを上手く捕らえた。

 リードを奪われた常盤木の阿部監督は運動量を補充するため、高橋絵里を投入したが、フレッシュな選手は彼女だけ。他の選手たちは疲労と先制点を奪われたダメージで、完全に足が止まってしまった。タイムアップの笛とともに、鳳凰は第12代の高校女王として、常盤木学園は最後の一戦で連覇の夢を打ち砕かれた6番目のチームとして、その名前を記した。



「勝つことだけを考えれば、タテにシンプルに放り込むほうが良いかもしれない。でもそういうサッカーでは、例えばアメリカとかノルウェー、ナイジェリア、ドイツなんかを相手にすると何もできなくなっちゃうんですよ。高校生は勝つだけじゃ、ね」

「世界に通用するしっかりしたサッカーができる選手を育てたい」という阿部監督のポリシーが「常盤木のサッカー」を作り上げている。阿部監督は女子サッカーの現況に対しても、強い危機感を持っている。

「トップリーグがプロ化されなきゃ。この間、ワールドカップのプレーオフで盛り上がっていたけれど、あの選手たちのほとんどは試合の度に会社の上司から『君はサッカーと会社とどちらが大事なの?』って聞かれているんですよ。そんな状況で『ワールドカップで勝て!』というのは…。お金がないならNPO化の方向を探るとか。これ、本当に書いといてくださいよ(笑)」



 鳳凰高校、優勝おめでとう!
「ウチは毎年、高校に入ってからサッカーを始める子がいます。今回のチームにも代表候補になるような子と、ロクにボールを蹴れない子がいます。決してきれいなサッカーじゃないけれども、みんなで頑張れば強いチームにも勝てる。だから、ウチは永遠にチャレンジャーなんですよ」

 勝った鳳凰の嶋田監督は自分のチームを、そう語ってくれた。日本一の決勝点を奪った長濱は、そんな鳳凰女子サッカー部員の象徴かもしれない。小学校時代に少し蹴った経験があるだけで、中学校ではバレーボール部で3年を過ごし、鳳凰に入学後サッカーを再開した女の子。そんな彼女が「いっぱいいっぱいでほとんど何も考えられなかったけど、出してもらったんで『1点取らなきゃ』とだけ。それだけを考えて」(鳳凰・長濱)値千金のゴールを蹴りこんだのだ。一部のエリートたちだけで競われるスポーツの未来は暗い。門戸が広いに越したことはない。



 常盤木が女子サッカーレベルアップの旗手ならば、鳳凰は女子サッカー普及のモデルケースだ。目指すところは違っても、女子サッカーの発展には欠かせない二つの要素を、それぞれ十分に発散させた両チーム。好勝負の余韻をバス停で噛み締めていたのだが、渋滞の影響でいつまで経ってもバスは来ない。日射病にかかりそうになっている私の目の前を、阿部監督がハンドルを握る常盤木のバスが、そしてはしゃぎ疲れただろう選手たちを乗せた鳳凰のバスが通り過ぎていく。

 さらに路線バスを待つこと1時間、日射病で倒れそうになっている私の前を、サッカーボールを持った女の子たちが歩きながら通り過ぎた。「北越谷の駅までなら歩いて20分ほどですよ。歩いたほうが早いです」と道を教えてくれた彼女たちはグループリーグで敗退した埼玉栄の選手だった。

「明日から、また合宿なんです。その時に常盤木とやるみたいなんで、今日は来ました。あ、その前に(試合に)出してもらえるかな?」


(鳳凰) (常盤木学園)
GK: 福田友恵 GK: 鈴木理紗
DF: 安田邦子、柳村彩乃、堤晴菜、大谷弥生 DF: 後藤史、西村理央、高橋愛
MF: 三輪由衣、藤本優希、高橋悠、栗原美怜(前半33分/長濱伊代) MF: 宮川葉月、岩澤和、齋藤有里、佐々木エリカ(後半29分/高橋絵里)、渡辺由似、鮫島彩
FW: 田頭陽子、徳留華織子 FW: 天野実咲
※本大会は前後半35分ハーフで行われた。
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