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 頑張れ!女子サッカー 04/07/27 (火) <前へ次へindexへ>

 日テレ、天王山を制し、前半戦を締めくくる。
 

 取材・文/西森彰
L・リーグ第7節 日テレ・ベレーザvs.TASAKIペルーレFC
2004年7月25日(日)13:00キックオフ 稲城中央公園総合グラウンド 観衆:2,500人 天候:晴
試合結果/日テレ・ベレーザ1−0田崎ペルーレFC(前0−0、後1−0)
得点経過/[日テレ]荒川(72分)


 稲城中央公園総合グラウンドの座席は約1,000席。そこが満員状態になった正午過ぎから、場内のスピーカーはあふれた観客を芝生席に誘導していた。入場者数は最終的に2,500人に達した。手元に書き留めておいた昨年の同カードの入場者は、さらにアクセスの良い駒沢陸上競技場を使いながら250人。対前年比1,000%だ。

「晴れて良かったです。お客さんも多いし、取材の方も多いんで、運営サイドは大変ですが。音響やら、何やら・・・。西が丘でやれれば何の問題も無かったんですけれどね」

 音飛びするスピーカーに顔をしかめながら、鈴木保L・リーグ事務局長が語る。予算に大幅な制限のあるL・リーグでは、グラウンドの選定も重要だ。今年は女子サッカーアピールのために、リーグ戦の開催地をできるだけアクセスが良く、見やすいスタジアムを選んでいる。さいたまレイナスFCの選手たちは、浦和レッズと同じスタジアムでプレーするし、YKK AP東北女子サッカー部フラッパーズは、この日の最終戦を、仙台スタジアムで戦っている。

「宮城スタジアムでもやりましたよ。ただ、あそこはさすがに大きすぎましたね」

 そういって笑う鈴木事務局長。今回も日テレ・ベレーザ、TASAKIペルーレFCのL2強の対戦に相応しい場所を確保するのに苦労した。音響の設営にも、相当な苦労があったようだ。先にそう聞かされたこちらとしては、途切れ途切れの選手紹介も聞き流すほかはない。帰りに受付で確認したテレビ・スチールのカメラマン、そして記者の数は60人以上。

 なでしこジャパンのメンバー5人とバックアップメンバーの近賀ゆかりを擁する日テレ。同じくなでしこジャパンのメンバー5人とバックアップメンバーの鈴木智子が所属するTASAKI。その全員が先発メンバーとして、カメラの放列の前を横切って入場する。選手たちの列を先導する、この日のレフェリー・鮎貝志保女子国際副審も、アテネ五輪出場が決まっている。役者は揃った。



 昨年は、立ち上がりから物凄い気迫でTASAKIを圧倒した日テレだったが、この日はTASAKIの気迫が上回った。勝ち点16で首位を併走する日テレに対し、勝ち点差3で追いかけるTASAKIは勝利が欲しい。このあたりの差が出たのだろうか。右サイドの土橋優貴、左サイドの柳田美幸がサイドを疾駆し、昨年同様のダイヤモンドで臨んだ日テレは、近賀、小林弥生が酒井與惠と並ぶ位置まで下げられた。

「あれは意識して引いたというよりも、押し込まれただけ。自分たちのやりたいことができなかった。もっとできるかと思っていたが、やっぱり相手のプレッシャーがきつかったんでしょう。TASAKIが長いボールを放り込んでくるチームということで、今週、そのあたり、DFラインの修正・確認をしてきたんですが、逆にそれでナーバスになり過ぎたのかもしれません」(宮村正志監督・日テレ)

 川上直子は、前節の退席処分でベンチ入りできない仲井昇監督から采配を継いだ吉田茂之部長に「必要以上にリスクを犯さないように」と指示されていた。相手のキープレーヤー・澤を視界に置いてバランスを取りながら、TASAKIの選手たちがいつもより良く動けていると感じていた。「今日のゲームへの入り方自体は、決して悪くなかったと思います。今シーズンでも良かったほう」。そしてさらに続けた。「そこで点を取ることができなかったのが、苦しい戦いにしてしまった原因ですね」。

 日テレの各選手は「絶対に先手を取られない」というシーズンテーマを胸に、TASAKIの圧力に対抗する。セカンドボールを鋭い出足で拾っては、2トップにボールを預けるTASAKI。大谷未央、鈴木の2トップは確かに日テレの最終ラインを度々脅かしたが、粘り強い守備の前に、なかなかシュートまでつなげられない。

「こちらもサッカーができなかったけれど、向こうも思い通りのサッカーという訳じゃ無かったと思う。お互いに潰しあった感じでしたね。それでどうにか悪い時間帯を乗り切れた」と宮村監督は、苦しかった前半、スコアが動かなかったことに胸をなで下ろした。シュート数は日テレ2本、TASAKI5本。ゲームの支配率も、その数字にほぼ等しかった。TASAKIにはただゴールだけが足りなかった。



 後半に入ってもTASAKIが主導権を握り続けたが、暑さの中で飛ばした疲れもあって、徐々に運動量が落ちてきた。日テレにも散発的ながら、反撃の芽が出てきた。そして、日テレの粘りが結実する。右サイドをオーバーラップした中地がセンタリング。ファーサイドへ上がったボールをクリアしようとしたDFが、ヘディングでゴール正面の密集地帯に戻してしまった。この混戦の中から荒川恵理子が左足を一閃させた。72分、とうとう均衡が破れた。

 TASAKIの吉田部長に「ちょっとアンラッキーな形での失点でしたが」と尋ねると「いやいや、結局、あれもウチのミスですよ。あの状況でクリアボールを中に返してはいけない。前節でも試合終了間際に1点貰って、きっちりボールをキープしなきゃいけない時に、相手にカットされて同点にされている。試合状況とか、ゲームプランを理解できていないんです」と人災を強調する言葉が返ってきた。

 コーナーフラッグ目指してドリブルする近賀、酒井。そして左右に大きくボールを振ってサイドを変えるDFライン。日テレは心憎いまでのゲームコントロールで、時計の針を進めていった。TASAKIは80分、土橋に代えて大石沙弥香、87分には鈴木に代えて渡辺千尋と、フレッシュなFWをつぎ込んで反撃を図るが、日テレのゴールライン寸前に迫りながら、その向こう側にはどうしても辿り着けない。

 ロスタイム。新加入の大石が右のスペースに開いた川上にパスをつなげた。最後のガソリンを使って右サイドを突破し、中央へ折り返す川上。このボールを山本が強烈に叩いたが、懸命に戻った日テレのDFが体で弾き返し、同点ゴールはならなかった。そして、ボールがデッドするのを確かめた鮎貝主審が笛を鳴らす。日テレには大きな勝利が、TASAKIには重い敗北がもたらされた。



「澤は、途中から使おうかと思っていました。本人に聞いたら『90分行きたい』ということだったので、最初から使ったんですが・・・。ちょっと失敗しましたね。後半、相手が疲れてきた時間帯に投入したほうが、相手も嫌だったと思います」

 宮村監督の言葉にこそ、勝敗のカギが隠されている。日テレのベンチには、なでしこジャパン候補だった永里優季をはじめ、ギリギリの試合で起用された選手たちが控え「澤をスーパーサブで起用する」という選択肢さえ残されていた。一方、TASAKIは、主力が疲れていることを承知の上で、なお送り出さなければならなかった。

「本当はコンディション不良で出したくない選手もいる。ただ、そういう選手を使わなければやっていけないチームの台所事情があるんで…。やっぱり、選手層の差ですね」(吉田部長・TASAKI)

 これまでは、企業チーム・TASAKIの少数精鋭の練習量が、他のクラブを圧倒してきた。だが、豊富な練習時間の確保というアドバンテージが、今期に限ってはほとんど無い。さらにチーム人数と比べてアンバランスなほど多い、なでしこジャパン所属選手の疲労は極に達していた。昨年から若手中心にチームを作り直し、澤の復帰でさらに厚みを増した日テレ。リーグ戦の醍醐味である総力戦の勝利だった。



「今は代表のことよりも、チームがこういう状態で折り返すのが心配ですね。順位は関係なく、今日勝って良い状態で、代表に行きたかったんですけれどね。ただ、今日の試合を女子サッカー全体で考えた場合、これだけのお客さんの前でプレーできたことは、ひとつの成功だったと言えます」

 壮行セレモニー終了後、大一番での敗戦に涙を流すチームメイトを先に引き上げさせ、一人残った川上は、次々に現れる報道陣の似たような質問を捌き続けた。御殿場合宿で「勝てれば、すごく充実した状態で代表の方に乗り換えられると思うんで、このあと2試合はチームで集中したい」と語っていた彼女が、悔しくないはずがない。

 吉田部長も「勝って差を詰めたかった。せめて、引き分けだったら…」と声を絞り出した。オリンピックを挟んだ後半戦で、どれだけチームを立て直せるか。勝ち点6差は確かに厳しいが、まだ7試合を残している。苦しい戦いが続くディフェンディング・チャンピオンだが、白旗を掲げるには早すぎる。



 TASAKIの逆サイドでは、喜びを顔に溢れさせた選手・スタッフと、それを迎える緑の集団の姿がある。なでしこジャパンの選手たちは、声を弾ませてインタビューを終えると、またファンやチームメイトと喜びを分かち合う。半年前の国立霞ヶ丘陸上競技場で悲しみに打ちひしがれていた彼女たちは、一転、スポットライトの当たる側に這い上がってきた。これで6勝1分け。首位のさいたまレイナスFCと併走する。後半戦は自力強化が著しい隣県の新勢力とマッチレースになるのだろうか。

「さいたまとの試合も内容的には圧倒していたし、力の差はあると思う。今日の勝利でTASAKIと(勝ち点差が)6ついたことに安心せずに、まずは確実に勝ち点3を積む事です。勝ち星を積み重ねれば、得失点差は自動的についてきますからね」

 総得点の差で暫定2位となってはいるものの、好位置で理想的な折り返しができたことに、宮村監督の頬も緩んだ。完全に勝負強さを取り戻した日テレ。2年ぶりのリーグ優勝に向かって、視界がはっきりと開けてきた。


(日テレ・ベレーザ) (田崎ペルーレFC)
GK: 小野寺志保 GK: 大西めぐみ
DF: 中地舞、四方菜穂、須藤安紀子、豊田奈夕葉 DF: 磯ア浩美、白鳥綾、佐野弘子
MF: 酒井與恵、小林弥生(89分/宇津木瑠美)、近賀ゆかり、澤穂希 MF: 土橋優貴(80分/大石沙弥香)、川上直子、新甫まどか、柳田美幸 、山本絵美
FW: 大野忍、荒川恵理子 FW: 大谷未央、鈴木智子(87分/渡辺千尋)
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