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 頑張れ!女子サッカー 04/07/31 (土) <前へ次へindexへ>

 昨年の借りは返した。さあ、胸を張って西へ行こう!


 取材・文/西森彰
キリンチャレンジカップ2004 日本女子代表(なでしこジャパン)vs.カナダ女子代表
2004年7月30日(金)16:30キックオフ 国立霞ヶ丘陸上競技場 観衆:27,262人
天候:晴
試合結果/日本女子代表3−0カナダ女子代表(前2−0、後1−0)
得点経過/[日本]大谷(8分、11分)、オウンゴール(77分)


「本当に良い試合をしてくれました。まあ、カナダはU-19中心の若いチームですからね。それにしてもこれだけのお客さんが入ってくれて、その目の前で、非常に良い形で壮行試合をできた。成功ですね」

 鈴木保L・リーグ事務局長は喜びを抑えながら、なでしこジャパン壮行試合の感想を語った。まるで「舞い上がるなよ」と自分に言い聞かせるように。誰もが有頂天になってもおかしくない、素晴らしい勝利だった。



 鈴木事務局長が言うように、シャーメイン・フーパーを除けば全て80年代生まれの選手たち。それは昨日のプレビュー原稿でも記した。それでも、今日の先発11人中6人が昨年の女子ワールドカップ・日本戦に出場している。新チーム結成から日が浅いとは言え、世代交代を果たした新生カナダ女子代表のベストメンバーだった。

 しかし、気合の入った円陣を組んだなでしこジャパンは、立ち上がりからカナダを圧倒する。上田栄治監督は、北朝鮮戦と同じく、右サイドを開けた変則の4−4−2システムを敷いた。リーグ戦、そして練習時のケガで澤穂希らが出場を見合わせ、山岸靖代、小林弥生、安藤梢の3人がアピールチャンスを得て活躍した

 安藤がゴールのきっかけを掴む。ペナルティボックス左の位置で、カナダのDF2人に勝負を挑み、相手のファールを誘ったのだ。このPKを大谷未央が決めて日本が8分に早くも先制。その3分後には酒井與惠がドンピシャリの強さで右スペースにボールを送り、川上直子がダイレクトで上げたボールを再び大谷が頭であわせて2点目を奪う。

 その後も、大谷と荒川恵理子が前線でカナダDFの網を縫うようにゴールを狙う。日本のFWに裏を取られることを恐れて、カナダの最終ラインは大きく下げられた。その4バックとボランチの間で安藤が躍動し、右サイドでは川上がウイングバックのように高い位置を保って、波状攻撃の起点となった。45分間を通じて、なでしこジャパンがゴールを脅かされたプレーは2つだけ。ピッチ上を完全に支配し、2点のリードで折り返した。



 後半は、左サイドの小林からのゲームメークも増え、左右が良いバランスで機能し始める。安藤を荒川と2トップで並べ、トップ下で小林を起用するなど、オプションを探る余裕も見られた(上田監督は、記者会見では「足の止まった小林を中央に回すため」と説明していたようだが、それが本音とは思えない)。

 そして77分、左に流れて小林のパスを受けた荒川が、北朝鮮戦と同じように鋭いクロスで相手のオウンゴールを誘う。3点目を加えた日本は、ガツンガツンと当たってくるカナダのハードコンタクトに苦しんだものの、最後までDF陣が高いラインをキープし、失点を許さなかった。

 3対0。来日後、時間が経たない中での試合で、カナダのコンディションは今ひとつだった。だが日本も澤、山本絵美、矢野喬子の3人をケガで欠いていたのだ。しかも、新たなセットプレーは封印し、柳田美幸の左SHなど計算の立っているオプションも使わなかった。言わば手の内を隠しての完勝には、ほとんどケチをつけるところが無い。



 最大の勝因はボール回しの進歩だ。女子ワールドカップの時にはコンディション不良もあって、DFラインでのボールキープに危なっかしいものがあった。相手FWはそれを狙ってプレッシャーをかけ、苦し紛れのクリアボールを拾われては、ピンチを招いていたのだ。フィジカルの差をパスワークで詰めるためには、この部分を捨て置くわけにはいかなかった。

「どういうボールをもらいたいのか。どちらの足に欲しいのか。どのくらい離れた位置に落としたら良いのか。そして、どこにフォローに来てもらいたいのか。それらをきちんと相手に伝えなさい」

 今春に行なわれた代表合宿で、上田監督と吉田弘ヘッドコーチは選手たちにコミュニケーションの重要性を繰り返して伝えた。練習開始時の対人パスで互いの特徴を掴み、ほとんど毎日繰り返された鳥かごでそれを実践する。これの積み重ねで、受け手はボールの出るタイミングを、出し手はもらいたいボールの質を、理解することができた。

 2点目の場面で生まれた、川上が追いつける速さで、かつDFの裏を完全に取れる酒井のパス。そして、タンクレディ、シンクレアとカナダのトップを右往左往させ、最前線の拠点を潰したDFラインのパスリレーは、体に刷り込まれた連携の賜物だった。



 もちろん、課題が全く無いわけではない。

 まずは相手の寄せと強さに対する認識を改めること。世界の舞台ではアジアを遥かに上回るレベルで、相手が寄せてくる。失点にこそつながらなかったが、前半33分、下小鶴綾がボールに対してルーズな追走をして、ボールを奪われるようなシーンがあった。周りのコーチング不足もあったのかもしれないが「相手は詰めてくるもの」と認識して、集中を保ってもらいたい。

 そしてもうひとつがスタミナ配分だ。確かにフィジカルトレーニングで、個々のガソリン蓄積量は飛躍的に増えた。だが、彼女たちはその増量分をも試合開始からフルに出し切ってしまうのだ。この日も、前半はハーフコートゲームに持ち込みながら、気持ち良く走りすぎた結果、試合終了間際に次々に足を攣り、ピッチには無事な選手のほうが少なくなっていた。

 もちろん、彼女たちが見せるそのひたむきさが、我々ファンの胸を打つわけだが、中2日のスケジュールを考えると、そう褒めてもいられない。「スウェーデン戦で力を出し切ったは良いが、ナイジェリア戦では燃え尽きていた」ということが無いとは限らない。より積極的になったラインの押し上げによって、上下動する回数、距離が増えていることも勘案し、それぞれが妥協点を見出すべきだろう。



 なでしこジャパンは、このゲームで洗い出された新たな課題、そして収穫を携え、オランダ経由でアテネに向かう。「もっと強い相手とやって、課題を洗い出したかった」のが本音だが、それも贅沢な悩みだろう。この日2得点を挙げた大谷は御殿場合宿で「外国のチームは、親善試合と公式戦では本気度が全く違う」と語っていたし、試合後の選手たちのコメントからも、今日のカナダを子ども扱いしたことによる勘違いは生じそうにない。恐れず、奢らず、頂点を目指して進んで欲しい。

 U-23日本男子五輪代表の試合終了後、合同壮行会で上田監督は胸を張って宣言した。

「皆さん、大きなご声援をありがとうございました。我々は皆さんの声援、激励を胸に刻んで、明後日、ヨーロッパへ向かいます。アテネの地で『なでしこの花』をしっかり咲かせたいと思います。行ってきます!」





(日本女子代表) (カナダ女子代表)
GK: 山郷のぞみ(78分/小野寺志保) GK: スウィアテク
DF: 川上直子、磯崎浩美(H.T/大部由美)、下小鶴綾、山岸靖代(66分/柳田美幸) DF: ラバー、ズーラー、フーパー、マシソン
MF: 酒井與惠、宮本ともみ、小林弥生、安藤梢 MF: マランダ(59分/ロビンソン)、ソーラクソン(82分/ウィルキンソン)、ラング(59分/ベランジェ)、ティムコ、シンクレア
FW: 大谷未央(55分/丸山桂里奈)、荒川恵理子 FW: タンクレディ(70分/ジャマニ)
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