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 頑張れ!女子サッカー 04/11/12 (金) <前へ次へindexへ>

 大橋新体制のもと、なでしこジャパン再始動!
 

 取材・文/西森彰
 前夜、L・リーグ初優勝の祝勝会終了後、自ら8人乗りのレンタカーを運転し、なでしこジャパンの合宿所へと送り届けた田口禎則監督(さいたまレイナスFC)も、合宿初日の練習を見学するためにグラウンドに姿を現した。「優勝のご褒美ですよ、ご褒美。ウチからは7人呼ばれたけれど、代表のレベルにはない選手だっているし、年齢的に4年後は厳しい選手だっているんだから」。そう言いながらも、愛弟子たちを見守った田口監督は、こう付け加えた。

「33人での合宿だから7人も呼ばれたんでしょう。でも、逆に言えば33人しかいない。日本中で33人ですからね。日本代表のジャージに袖を通すだけでも、彼女たちにとっては良い経験になりますよ」



 大橋浩司監督率いる新生・なでしこジャパンの練習初日は、つまらないミス、思わず首を捻るシーンが目についた。まず、互いのパーソナリティを理解するために必要な声が出ていない。五輪予選前には喧しいほど互いに要求しあっていたチームが、この日は妙におとなしい。そして、日頃は厳しいゲームの中でもきちんとつなげているパスがなかなか通らない。最初に蹴ったボールが浮いては、その後の流れがギクシャクするのも当たり前だ。低調なスタートになった理由のほとんどは「新チームの合宿初日」という特異なシチュエーションが作用していたように思える。

 前キャプテンの大部由美(YKK AP フラッパーズ)ら、アテネ五輪組の数名は大きな声を出してコミュニケーションをとろうとしていた。彼女たちにしても新しい監督が、どのような人間か、今ひとつ掴めていなかったはずだ。新加入組の選手たちはそれに加えて、初めて(あるいは久しぶり)の代表合宿がどのようなものか、五里霧中の状態だった。新参として譜代のメンバーへの遠慮もあったに違いない。

 また、大橋監督が「彼女たちの中にはオフ明けだった選手もいるはず」と語ったように、5ヶ月に及ぶシーズンを終えて、コンディショニングにもバラツキがあった。全日本女子選手権までの谷間をオフに充てているチームから参加した選手たちは、フィジカルチェックを飛ばしていきなりぶっ続け2時間という、大橋流のハードトレーニングの前に声にならない悲鳴を上げていた。だが、そんな言い訳をひとつも許すことなく、大橋監督からすぐに大きな叱咤の声が飛ぶ。



「緊張感はもっともっと持たなあかん。これからもね。これで当たり前、これがスタンダードだと思っているし、張り詰めた雰囲気の中でトレーニングしないと、張り詰めた雰囲気で試合をすることはできないですからね」(大橋監督)

 男性の指導者が初めて女性の選手を指導する時に、身体能力のギャップを把握するのに苦労することがある。大橋監督は数日前に世界チャンピオン・アメリカのゲームを見てから、この合宿に臨んだ。世界のトップレベルを把握し、そしてそこにどうやって迫れるのかを確認するためだ。ハイプレッシャーで、体格を利したサッカーをするアメリカ。それを目の当たりにして、どういう戦いをするかの青写真を描いた。

 午前練習前にビデオを見せながら、その日のトレーニングの大まかな狙いについては説明しておく。そして、練習時間内ではほとんど給水タイムをとらず、次々に練習パターンを変える。そして、選手たちのミスには容赦なく怒る。「ドイツやアメリカが相手だと思ってやれ!」「インターナショナルな戦いで、そんなプレーが通用するか!」。常に世界のトップクラスを意識させながら、トレーニングをおこなう。

「日本の選手たちはスライディングやヘディングでマイボールにできないプレーが多い。これは体格とかの問題ではなく、そのスキルがないんですよ。ヘディングとスライディングの。だからそれによってボールを失っている。マイボールにできないというのが多いので。案の定、やっぱりできないですよね」(大橋監督)

 競り合いに負けることに対して「フィジカル」を言い訳にし始めると、アメリカやドイツには、10年以上、追いつけない。だから、その差はスキルアップで詰めていく。ヘディングは最高の打点で行えるように。ライン際のスライディングでマイボールにできるように。崩れないボディバランスを保てるように。スローインが確実に攻撃の起点になるように。ひとつひとつのプレーに厳しく注文を飛ばす。「男子よりも合宿期間が長く取れるので、個のレベルアップにとり組める」ことを就任の理由に挙げた大橋監督の真骨頂だ。



 サイドアタックの練習中に、笛を鳴らしてプレーを止めた。最初にパスを出す選手に「ただパスを出すだけじゃダメだ。実戦では右サイドでも敵味方がプレーしている。それなら、右を一度見て、そこから左にパスを出すんだ」。そして中に飛び込む2枚のFWにも「いつもいつもニアにひとり、ファーにひとりじゃダメだ。ひとりがニアに走りこんだら、DFが釣られたことを想定してひとりが残るとか、常に一番シュートを打ちやすい体勢でボールをもらうことを考えろ!」。

 練習が流れ作業になるのを絶対に許さない。口を酸っぱくして、実戦を想定したプレーを要求する。個々のプレーについてもどう考えているか、選手たちに質問し、そのうえで優先順位を伝える。スローインでは宮間あや(岡山湯郷Belle)、ポジショニングでは丸山桂里奈(日本体育大学)、ヘディングでは川上直子(TASAKIペルーレFC)…。新指揮官は次々に尋問をおこない、全員の前で答えさせる。

「僕は早口だから、言っていることが通じているのかな? 通じているのかどうか、その都度確認しているんです。『オマエ、俺が言っていることが分かるか?』って。喋らないでやったら(2時間の練習が)1時間半くらいには詰まると思いますけれど」。大橋監督の説明は、休憩がほとんどないトレーニングの中で、選手たちが息をつけるインターバルにもなっている。「ケガをさせないように、その点は気を遣っています」。



 あっという間に夕闇がグラウンドを包んだ午後6時半、大橋ジャパン、初日の練習が終了した。監督のインタビューを取り巻く報道陣から、一刻も早く逃れようと、選手たちが次々にバスへ乗り込んでいく。どの選手の顔もかなり疲れている。

「(今回のキャンプは)攻撃・守備において、本当に基本的な選手の個人戦術・スキルを、世界を意識しながら高めていこうと取り組んでいます。イメージしていたトレーニングはできた。今日の課題については、ある程度選手たちは理解してくれたかな。まあ、今日すぐに改善するとかではなく、選手たちが吸収して身につけていってくれれば良い。長い目で見ていきたい」

「(なでしこジャパンの印象は?)非常に前向きにトレーニングできるし、これから楽しみだなという印象はあります。まだ初日ですから、これからいろいろなモノが見えてくると思いますよ。僕が選手たちを知らないように、選手たちも僕のことを知らない。まあ、そのあたりは駆け引きですから(笑)」

 高みから戦略を練る将軍というより、自ら部下を引っ張る野戦指揮官に近い大橋新監督。白いキャップの下からは、常に熱い視線と早口の関西弁が発せられていた。個人戦術中心の指導は、チームが変わっても生かせるもの。なでしこジャパンだけでなく、日本の女子サッカー全体のレベルアップにも寄与していくことだろう。



なでしこジャパン(日本女子代表)11月合宿(11月8日〜10日)参加メンバー
【スタッフ】
監督  大橋浩司  (財)日本サッカー協会 ナショナルコーチングスタッフ
コーチ  今泉守正  (財)日本サッカー協会 ナショナルコーチングスタッフ
GKコーチ  澤村公康  (財)日本サッカー協会 ナショナルコーチングスタッフ
【選  手】
GK  小野寺志保  1973.11.18  163cm 52kg  日テレ・ベレーザ
 山郷のぞみ  1975.01.16  164cm 60kg  さいたまレイナスFC
 福元美穂  1983.10.02  164cm 65kg  岡山湯郷Belle
DF  大部由美  1975.02.15  167cm 62kg  YKK AP フラッパーズ
 磯崎浩美  1975.12.22  163cm 52kg  TASAKIペルーレFC
 四方菜穂  1979.11.05  165cm 56kg  日テレ・ベレーザ
 山岸靖代  1979.11.28  163cm 62kg  伊賀FCくノ一
 田代久美子  1980.11.13  165cm 55kg  さいたまレイナスFC
 下小鶴綾  1982.06.07  167cm 53kg  スペランツァFC高槻
 宮崎有香  1983.10.13  164cm 58kg  伊賀FCくノ一
 須藤安紀子  1984.04.07  165cm 57kg  日テレ・ベレーザ
 矢野喬子  1984.06.03  164cm 55kg  神奈川大学
 豊田奈夕葉  1986.09.15  164cm 58kg  日テレ・ベレーザ
MF  高橋彩子  1976.04.11  155cm 55kg  さいたまレイナスFC
 川上直子  1977.11.16  156cm 50kg  TASAKIペルーレFC
 酒井與惠  1978.05.27  158cm 48kg  日テレ・ベレーザ
 佐藤舞  1980.08.14  160cm 50kg  ASエルフェン狭山
 柳田美幸  1981.04.11  158cm 54kg  TASAKIペルーレFC
 小林弥生  1981.09.18  156cm 50kg  日テレ・ベレーザ
 山本絵美  1982.03.09  158cm 53kg  TASAKIペルーレFC
 安藤梢  1982.07.09  164cm 55kg  さいたまレイナスFC
 近賀ゆかり  1984.05.02  161cm 53kg  日テレ・ベレーザ
 岩倉三恵  1984.08.18  154cm 44kg  さいたまレイナスFC
 宮間あや  1985.01.28  157cm 49kg  岡山湯郷Belle
FW  澤穂希  1978.09.06  163cm 57kg  日テレ・ベレーザ
 大谷未央  1979.05.05  160cm 49kg  TASAKIペルーレFC
 荒川恵理子  1979.10.30  166cm 55kg  日テレ・ベレーザ
 村岡夏希  1981.06.08  158cm 54kg  伊賀FCくノ一
 鈴木智子  1982.01.26  166cm 54kg  TASAKIペルーレFC
 丸山桂里奈  1983.03.26  162cm 56kg  日本体育大学
 北本綾子  1983.06.22  164cm 58kg さいたまレイナスFC
 大野忍  1984.01.23  154cm 50kg  日テレ・ベレーザ
 若林エリ  1985.2.24  155cm 54kg  さいたまレイナスFC
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