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ウディネ紀行 (1/2)


文/茶美

 宿を取ったヴェネチアから汽車に揺られること2時間。遠くに雪を戴いている山々が見えてくると、そこがウディネでした。日本で言えば鹿嶋よりちょっと小さめでしょうか、町全体が淡い黄土色に統一されており(古い石造りの建物が多いため)、15−16世紀のゴシック様式の建物があちこちに散在していました。周囲は雪を被った低い山々に囲まれて、空気が冷たい。町の中心部にたった一つあるデパートでは、聞き慣れないロシア語に似たリズムの言葉が行き交い、帽子を被った人々が大量の買い物をしていました。そう、ここは国境近くの町なのです。
 
 日曜日だったため、多くの商店は休みで、街全体がとても静かな印象でした。私が通りかかった時、ドォーモ(町で一番大きい教会)の中はミサの真っ最中で、大勢の人が祈りを捧げていました。主祭壇の脇に並ぶ小礼拝堂には、それぞれ諸聖人の絵や彫像が奉られていて、年配の方々が思い思いに座っておられました。イタリア各地でも有名な教会は多々ありますが、鑑賞するものと思って見ていた教会がこのときは生き生きと人々を包み込み、私もおもわず皆に加わって、メロディーだけ賛美歌を唱い、祈りました。私の祈りの内容は秘密ですが、最後に「ついでに、ヤナギもお願いします。彼らしいプレーができますように、できればゴールも」と。この欲張りがまずかったかなー。
 
 教会を出て石畳の坂道を上り、カステッロ(1500年代の優美な城)の丘から町を一望し、丘の頂上のBarで、休みを持て余して(?)酒を飲み始めてしまった男どもを一瞥し、教会の日曜学校のちょっとした遠足といった風情の小学生ぐらいの集団や、観光客とおぼしき中年夫婦と挨拶を交わして丘を下り、バスに乗っていよいよフリウリ競技場へ向かいました。


 スタジアムは試合開始1時間前だというのに人影もまばら。ヒューっと冷たい風が吹く感じでした。設備はお世辞にもきれいとは言えませんでした。
 
 私がバックスタンド中央の観客席(ウディネーゼサポのシーズンシートのど真ん中)に入っていくと、人が少ないだけ目立つみたいで、ヤポーネ、ヤポーネ、ヤナギサーワというささやきがあちこちから聞こえてきました。古株の純ウディネーゼサポみたいな60才位のおじさんが近づいてきて、片言の英語で、ヤナギサワを見に来たのか?と尋ねるので、私は用意していた返事「ハイ、ヤナギサワを見に来ましたが、ここはウディネなので今日はウディネーゼを応援します」と答えました。切符を手配して下さった方から、ウディネーゼのホームなので、決して派手にヤナギを応援しないようにと釘を刺されていたのです。おじさんは満足したような表情で、よしよし、と頷き、ヤナギサワ、ストロング!!とお世辞まで言ってくれました。

 つぎは、70−80歳位の年配の婦人が近づいてきて、yanagi-sa-wa?ときくので、yesと答えると、身振りで出て行けというように両手を大きく振り上げ、恐い顔で私を睨みつけるので、no,no,today, Udinese!!!と大げさに万歳してみせると、とたんに優しい顔になって、にっこりとなんども頷いてご自分の席へ去っていかれました。そういった質問を立て続けに5−6組の人から受けるとようやく周りの人達は安心したらしく、私を放っておいてくれるようになりました。ヤナギのことをみんな知っているんだ、と妙に安心して、周囲の山々をバックにスケッチをしていると、まもなく選手が出てきてアップを始めました。が、ヤナギの姿がない!うそ、いないのかしら? でも、両チームとも11人しかピッチにいないのです。あれっ、イタリアはスタメンしか出てこないのかな? 


 それにしてもまだ客が全然いない。一瞬だけ、こんな寂しい場所で、ポジション争いを続けるヤナギに切なさを感じてしまいした。寒い。少し自分を落ち着かせてじっと待つこと30分。びっくりしたのは、試合開始5分前頃、あっという間に人があふれてまわりの客席が埋まってしまったことです。メッシーナのサポ席からもいつの間にか発煙筒が焚かれ、テレビで見たセリエAの雰囲気に突然変わりました。何のことはない、寒いので、みんなどこかで暖をとっていたのでしょう。周りはみな知り合いで、お互いにうれしそうに挨拶を交わし、私はいつの間にか人混みに紛れてしまいました。

 そして、選手入場。じっと眼を凝らすと、ベンチも次々選手で埋まり、夢にまでみたヤナギのシルエットが最後に登場しました。体は一回り大きくなった印象を受けました。でも、ほかの選手とは離れて、一人でポツンと腰掛けていたのが気になりました。私の頭の上はウディネーゼの巨大フラッグが広げられて、みんなで応援歌を合唱し、スタジアム全体で声を合わせる感動を久しぶりに味わいました。


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