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ビッグスワン、再燃
2004Jリーグ ディビジョン1 2ndステージ 第13節 アルビレックス新潟vs.FC東京


文/石毛大介

 私たちは「あたりまえ」というものに対し、少し冷たいような気がします。それは常に「そこにあるから」。でもこの「あたりまえ」が自分の前から無くなった瞬間に、その大きさに気付きます。10月23日、新潟県中越地方に大地震が襲いました。日常の「あたりまえ」を一瞬にして奪いました。亡くなった方々。負傷した方々。身体に傷はなくても心に傷を負った方々。帰る家を失った方々。家は無事でも、そこへ帰れず避難所生活をする方々。様々な被災者の方たち。

 その翌日には磐田でのジュビロ戦。TVで観戦していましたが、頻繁にテロップで流れる余震の速報。そしてその後、私たちのホーム、ビッグスワンでのJリーグさえも開催を見合わせざるを得ない状況になり、対レイソル戦を国立で、対ベルマーレ戦(天皇杯)を平塚で、それぞれ代替開催することになりました。Jリーグ開幕後初のことでした。私たちの「あたりまえ」の日常が奪われました。週末、ビッグスワンでJリーグが開催すれば、一家連れ立っての観戦。僕が一番好きな光景が消え、被災者たちのために、駐車場は陸自の車両で埋め尽くされ、ビッグスワン内の施設も使用されていたとのことです。さながら戦場のようだと。「あたりまえ」の光景が一日にして変わりました。

 また震災後、アルビは連敗。その試合内容は、ジュビロ戦とガンバ戦はTVで、レイソル戦とベルマーレ戦はスタジアムで観戦しましたが、ホーム3連勝と波に乗っていたアルビとは、程遠いといっても過言ではない内容でした。もちろんひたむきにプレーはしていると思います。「がんばろう 新潟」を合言葉に選手たちが、いつも以上に勝ちへの欲求を高めているのは伝わってきています。でも結果につながらない、どこか空回り。「こういった時でも勝てるのがチームの強さ」と反町監督も言っていましたが、やはり震災の影響は選手たち現場の人間も含めアルビには多大な影響を及ぼしていました。


 そして1ヶ月ぶりに、ここビッグスワンにJリーグが帰ってきました。非常に嬉しいです。しかし、先日の国立と平塚での開催。新潟入りするのに、いつもなら新幹線ですが、往復日帰りでの飛行機入り。これらの裏側には震災という事実があるということを実感しました。そしてこの試合の入場者数は約3万3千人。相手は今年のナビスコカップ王者FC東京。普通なら4万人を超える大観衆になるはずです。しかし空席も目立ちました。震災の影響を目の当たりにした気がしました。

 でも数はいつもより少なくても、ビッグスワンでの熱いうねりはいつもと変わらない気がします。スタジアムに集う人たち、また全てのアルビを支える人たちの中には、震災で亡くなった方。負傷された方。避難所生活でどうしてもビッグスワンへ行けない方。震災の影響で何らかの事情でビッグスワンでの観戦が叶わなかった方たちがたくさんいると思います。しかしアルビを想う気持ちが、大きな塊となってこのビッグスワンに集まってきているような気がします。

 約1ヶ月ぶりのビッグスワンでのJリーグ。非常に長い間待った気がします。しかし、まだまだ新潟は復興の途中です。そういった中、この日のビッグスワンでのJリーグ再開は、復興への一つの足掛かりになるかもしれません。彼らの戦いぶりが、試合に招待された山古志の子供たちをはじめ、被災者たちを元気づけると。

 信じています。オレンジのユニフォームを身にまとったあなたたちを信じています。復興のために勝利を捧げようと必死に戦い、勝つことに必死であることを私たちは知っています。信じています。いつものように、あらん限りの力で常に前へ、そして決して諦めないあなたたちを信じています。

 私たちを少しでも元気づけようと、自分のことのように心底想ってくれていることを私たちは知っています。信じています。この御百度を超える想いが大きな塊となって今再燃しようとしています。そしてこれだけは決して変わりません。いついかなる状況下におかれようとも、私たちは心の中で、アルビの選手たちと同じオレンジのユニフォームを着て、共に戦います。


 あらゆる想いが集まるビッグスワン。久しぶりに耳にする、ビッグスワンでのキックオフのホイッスルです。「TV観戦したナビスコ決勝。前半早い時間に退場者出したけど、あの浦和相手にあのサッカー・・・。アルビにはモチベーションをこれ以上高めるのに十二分なバックボーンはあるけど・・・」と試合早々ネガティブなことを考えていました。そりゃあのナビスコ決勝を見れば・・・。しかしこの予想は完全に裏切られました。

 序盤から。ピッチはアルビのフルコートアグレッシブエナジーに満ち溢れます。まずアルビによくある球際の弱さ。これはほとんどありません。たとえボール奪取ができなくても、良い状態で東京の選手にボールを持たせません。もちろん数々のボール奪取シーンがありました。1人、2人と東京の選手を取り囲み、間合いを詰め、ボール奪取アクションを起こす。この一連のプレー、当たり前のプレーですが、気持ちのこもったプレーです。記者会見で反町監督が語った「気持ちの入ったところ、相手よりも早く走る、一歩出る、アクティブなところを見せてほしい」まさにこれを体現したプレーです。

 これほどまでに球際に強いアルビを見るのは久しぶりです。見ているこちらもテンションが上がりまくります。またボール奪取後のプレーを気持ちがいい。「前へ」の展開が速い。速いというのは、単にボールを前線に放り込むのではなく(もちろんそういうプレーもありますが)、パスの受け手が前線に猛烈なダッシュでパスを呼び込みつつ、前線に向かっていきます。パスの出し手のプレーを決める、受け手側の主体的なアグレッシブプレー、とでもいいましょうか・・・(分かり辛くてスイマセン)。

 特に左のファビーニョと鈴木慎吾。これに鈴木健太郎が加わると、何でも起こりそうで、何でも出来そうな雰囲気を放出します(ちょっと言いすぎでしょうか・・・)。特に今日は慎吾は圧巻でした。自ら仕掛けたり、シュートを打ったりと、最終勝負に主体的に絡んでいきます。途中で退場するまでこれは続けられました。反町監督は後半足が止まったと評しましたが、今日は出場時間通して気持ちの入ったプレーを見せてくれたと思います。


 しかし、東京に先制されてしまいます。左サイドの阿部からのサイドチェンジ。右のスピードスター石川に通ります。健太郎が対処しますが、鋭利な刃物の如く切れ味鋭く切り替えし、PE外のオープンスペースへ。そこへ三浦文丈が走りこみシュート。短い時間での展開から生まれた素晴らしいゴールでした。「またか・・・」。「今日もか・・・」。スタジアム全体、いや僕自身もそう思いました。どうしても序盤に先制されてしまうアルビ。悪いサイクルに陥りそうな予感がしてしまいます。

 しかし今日は違いました。失点後すぐに東京陣内で左からエジがドリブルで切り込みます。そして中央へ。そこに走り込むのは上野優作。しっかりと足元に、というわけではありませんでしたが、体制を崩しながらもシュート。日本代表の土肥の守る東京のゴールネットを揺らします。それ以上にビッグスワンが揺れます。先制されてからのすぐの同点。「もう少しアルビの選手たちを信じてもいいな・・・」そう自責した瞬間でした。

 その後もアルビの怒涛のサッカーは続きます。「サッカー」と表現したのは攻めだけではなく、守りもだからです。球際に強い身を挺したディフェンス。攻撃を仕掛けようと試みたがボール奪取されるも、チームメイトがそして自らもがディフェンスに入る。アルビが攻撃に転じれば、前線の優作、エジ、そして先述のとおりファビと慎吾、と止まることを知らない身体の内から発散されるアタッキングエナジー。この日のビッグスワンでのピッチ上には気持ちに満ち満ち溢れたパワーが充満して、再燃するには十分過ぎるほどです。


 一方の東京ですが、球際の弱い東京らしからぬプレー。もちろん、時折東京らしさはありますが、それでも個人的には東京らしさが影を潜めていると感じました。誰かがボールを持つと湧いてでてくるような攻撃陣。フィニッシュまでの工程が高いレベルでシンクロしていると感じる東京の気持ちのよい展開が見られません。アルビの左サイドがアグレッシブですから、右の加地、石川も抑えられてしまい、健太郎もよく石川を抑えたと思います。また中盤でのケリーも完全封鎖されてしまい、東京のポイントを完全封鎖されていました。今回初披露の「4−1−4−1」フォーメーション。これが当りだったのかも知れませんが、これが味スタでしたら、こうはいかなかったかと・・・。やはり久方ぶりのビッグスワンでの開催が、アルビの選手たちの能力を100%以上出させたと思います。

 そして追加点。土肥のパンチングのこぼれ球を慎吾が拾いリターンパス。そこへ残っていたDF松尾へ。後半はエジの2得点。左サイド慎吾からのクロス、いやシュート性の低い弾道から描かれた弧はエジへ。身を投げ出して右足でのゴール。そしてCKからのエジのヘッド。もう言うことなしです。ビッグスワンのボルテージは最高潮に達しました。この日招待された山古志の子供たちも大満足したのでは。陸自のヘリで山古志を上空から見た時のショックを隠しきれない眼差しは、今日は興奮に満ち溢れ、身体は無事でも心には深い傷を負い辛い状況が続きますが、被災した辛い現状から少し開放されたのではないでしょうか?

 次は1stステージ覇者、マリノス。前回対戦した時は、これ以上ない格の違いを見せつけられました。ケガ人が多いとはいえ、マリノスですからね・・・。しかし、この日の勝利によってそう簡単にはマリノスのサッカーはさせない、という気持ちにはさせたと思います。

 それと最後に。交通事情が悪いにも関わらずFC東京のゴール裏にはたくさんのサポーターが詰めかけていました。市長の挨拶にもありましが、本当によく来てくれたと思います。またバスツアーの方々から山古志の子供たちへの贈り物。そして新潟へ対する激励の横断幕。そして新潟コールや新潟へ対する励ましのコール等々、県外の僕も嬉しくなりました。久しぶりに試合前良い雰囲気に包まれたと思います。アルビを応援する一人として大変感謝いたします。
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