topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 webnews 03/12/02 (火) <前へ次へindexへ>
「決勝の国立へ」、群馬の夢を背負い前橋育英が全国大会出場


取材・文/砂畑 恵

 読者の方に「現役Jリーガーの1番多い出身地は?」と尋ねたなら、誰もが静岡だと答えるだろう。その通り静岡が断突に多い(J1・59人、J2・31人)。それに次ぐのが東京(J1・45人、J2・23人)。以下、埼玉、神奈川、大阪、千葉、兵庫と続く。前から群馬出身者はどれくらいいるのか考えていて、それなら全部調べてしまえと思ったわけなのだが、群馬はJ1、J2合せ18人で、少なくないが、取り分け多いわけでもなかった。

 群馬は北関東にあって、茨城にはJ1のチームがあり、栃木にはJFL所属のチームがある中、一歩出遅れている感がある。その群馬から小島、山口、松田とW杯戦士を3人も産み出していることを考えれば、群馬のサッカーレベル決して低くはない。むしろその水準は高い方にあると言えるだろう。かって群馬のサッカー好きの友人達と話した折、「静岡みたいにJリーガーが集まって、新春サッカー大会みたいなものが出来たらいい」と言っていた。そういうことでは現役組だけでは少し足りないが、経験者も含めればゲームが組める人数には達している。そうなるとJリーガーのほとんどは前橋商業と前橋育英の出身者((以下、前商と育英と表記)で、前商vs育英のOB戦の様相も呈することになる。




 その前商と育英が、今年の全国サッカー選手権の切符を争うことになった。群馬のサッカーファンにとり、高校サッカーはもっとも身近な楽しみの1つである。県内きっての強豪校同士の黄金カードということもあって、入場者は5000人と会場は熱気に包まれた。

 前商と育英は常にお互いをライバルとして非常に意識している。両校の位置関係は直線距離で1kmほど、利根川を挟んだ川向こうにある隣接校。しかも度々、県大会の決勝で雌雄を決する機会が多いとなれば尚更である。選手権の県決勝で両校が顔を合せたのは、4年振り10回目。過去、前商が4勝に対し、育英は5勝と戦績でも拮抗している。部員数もピッチ外から声援を送る下級生らしきを合せると、両校とも50人近い大所帯だ。

 ところで各々の準決勝での闘い振りだが、前商は高崎経済附属、育英は前橋東と、どちらも近年力を付けている新興勢力校との対戦となったが、その結果は対照的だった。前商はスコアレスのままPK戦にまで縺れる大接戦。前商のキッカー5人全員が決めてどうにか決勝に辿り着いたのに対し、育英は大量5得点を挙げての完封勝ち。併せて決勝トーナメント無失点のまま決勝に駒を進めた。



 決勝は「守りの前商」と「攻めの育英」になると戦前予想。しかも前商は、ゲームメーカーで守備の要となるボランチの野村を出場停止で欠く。育英は爆発的な攻撃力を誇る、準決勝と同じメンバーで万全。より予想が浮き彫りなると思われた。

 それに違わず育英が攻撃の火蓋を切る。開始1分、北村のFKをフォアにいた細貝がヘッドで繋いで反町の頭上へ。反町のファーストシュートはポストを直撃。場内は早くもどよめく。準決勝では、ボールに馴染めず身体が重そうに見えたが、今日の反町は絶好調。その反町を前商DF陣は上手く掴み切れない。反町は自分の間合いで相手を翻弄し先制点を挙げた。13分、スローインから、反町が落としたところを井上が一旦、ボランチの小泉にパスを下げ攻撃を立て直す。武田に入った楔のボールを拾った反町は、DFが固めるペナルティーエリアには侵入せず、ドリブルで横に流れて右ポスト一杯にシュートを沈めた。

 この失点について前商の奈良監督「早かった」と振り返る。奈良監督は後半20分過ぎに勝負所を持っていきたいと考えていた。それまでは焦らず、同点で行こうと選手に伝えてもいる。奈良監督は前育の攻撃力を高く評価し、相手をじらすように粘り強い守備で対抗しようとしたのだ。それが予定よりも早目に仕掛けて、点を挙げる必要に迫られたわけである。

 しかし普段の前商の力をして返せないハンデではない。20分過ぎには前商イレブンが反撃に転じた。サイドから山口、戸部と育英を崩しに掛かった。ところが石亀、元木の厳しいマークをかいくぐることが出来ず。準決勝で果敢なオーバーラップを仕掛けたサイドバックの攻撃も影を潜めた。タメを作れる選手がいないために、サイドバックが上がりのタイミングが掴めないといった印象なのだ。野村の不在は前商の攻撃に影響していた。



 得点後の育英も攻めに一息付いてしまう。前商にゴールを許さないものの、ボールをキープされ、押される時間が前半終了まで続いた。だが育英・戸塚監督はハーフタイムに選手をしっかり戒めていた。得点後に間延びした集中力を高め直し、「育英らしいサッカーをしよう」と選手を鼓舞。その言葉通り、選手達は立ち上がりから巻き返す。後半になってプッシュアップした前商の守備に、サイドチェンジを多用し、早目にDF裏を狙い出す。

 46分、相手ボールをカットした小林が左サイドを駆け上り、マイナスに折り返す。そのパスを北村がスルー。小泉のミドルシュートがGK清水を強襲。48分、縦パス1本から反町が抜け出しシュート。ゲームの主導権が完全に育英に傾く中、ついに追加点を奪う。53分、反町からボールを受けた小林が武田へスルーパスを送る。前商の守備は武田に集中。フリーの小林が武田のリターンをゴールに突き刺した。

 この2点目は前商に大きなダメージを与えた。育英の早い攻めと高めに設定したDFラインの狭間で、なんとか微妙なバランスを保っていた前商守備陣だったが、この失点で緊張の糸が切れてしまう。その後は育英は59分、相手クリアーを小林が拾って3点目を押し込み、65分には石亀のFKがネットを揺らした。続く74分には、またも石亀がCKを直接ゴールに放り込んだ。育英はその力を遺憾なく発揮し、大量得点で全国に名乗りを挙げた。



 群馬県勢の全国大会での成績は最高3位。しかも過去に5回あるのだが、どうしても準決勝の壁を破れないでいる。最近では01年大会で、ヴィッセルで活躍する坪内をはじめ、多くのJリーガーとなる選手を擁していた育英でも準決勝で涙を飲んだ。今回の育英は、サイドバックも含めた躍動感豊かな攻めと、CB元木・横山を中心にした堅守が見事に調和したチームである。あの当時のチームと比較しても個人の能力は遜色はなく、攻撃力では上回るものを感じる。

 戸塚監督は「まだまだ課題がある」と控え目に答えていたが、個々が噛み合って、前育らしいサッカーをすることで、県勢初の(全国)優勝を目指したいと、その言葉の響きに静かな闘志を感じた。初戦は強豪校の四日市中央工業と厳しいスタートとはなるが、群馬のサッカーファンは決勝の国立に立つタイガージャージを夢見ている。



第82回全国高校サッカー選手権大会群馬県予選決勝 前橋商業vs.前橋育英
2003年11月16日(日) 12:45キックオフ 群馬県営サッカー場
観衆:5000人 天候:晴
試合結果/前橋商業0−5前橋育英(前0−1、後0−4)
試合経過/[前育]反町(13分)小林(53、58分)石亀(65、74分)
(前橋商業) (前橋育英)
GK: 清水慶記(72分/小林亮平) GK: 常澤聡
DF: 角田太 石上薫 糠谷祐真 中山剛 DF: 井上大輔(73分/青山直晃) 元木数馬 横山智 石亀晃(80分/鈴木泰幸)
MF: 鈴木佑典(72分/秋元寛) 雲井和成(58分/鈴木俊) 戸部貴則 山口翔次 MF: 小泉訓 細貝萌(77分/大束達哉) 北村仁 小林竜樹 
FW: 大塚俊之 岸波大樹(82分/神尾徹) FW: 武田英明 反町一輝(77分/周弘智)
<前へ次へindexへ>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送