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 第82回天皇杯全日本サッカー選手権大会 <前へ次へindexへ>
京都、初優勝!激しい闘志で鹿島をねじ伏せる。
第82回天皇杯全日本サッカー選手権大会 決勝 鹿島アントラーズvs.京都パープルサンガ

2003年1月1日(元旦)13:32キックオフ 国立霞ヶ丘競技場 観衆:50,526人 天候:晴時々曇
試合結果/鹿島アントラーズ1−2京都パープルサンガ(前1−0、後0−2)
得点経過/[鹿島]エウレル(15分)、[京都]朴智星(50分)、黒部(80分)


取材・文/中倉一志

 試合終了を告げるホイッスルが元旦の国立競技場に響きわたる。その瞬間、京都の選手、スタッフ全員がピッチの上に飛び出して、だれかれともなく抱き合って喜びを爆発させた。1人、2人と選手、スタッフの姿が宙に舞う。そしてウイニングラン。京都サポーターの前にやってくると誇らしげに天皇杯を高々とかがけ、選手とともに戦ったサポーターと喜びを分かち合った。かつてはJリーグワーストの17連敗を記録。「Jリーグのお荷物」とさえ言われた。しかし、地道な努力を積み重ねてチームは成長を遂げ、王者鹿島を破って見事に日本一の座に輝いた。

 この日、先発に名を連ねた選手の平均年齢は23.5歳。その若いチームを率いるのはゲルト・エンゲルス監督。時には厳しく、そして時にはやさしく見守りながら選手を育て上げた。「私が京都に来てから3年、監督になってから2年半、その間、大きな交代もなく、我々は非常に近い関係になり家族と同じ状態になった」と語るエンゲルス監督。選手たちから少し離れて、選手とサポーターが喜ぶ姿を見つめる瞳は、子供の成長を喜ぶ父親の瞳そのものだった。



 立ち上がりから局面で激しくぶつかり合う両チームは気合十分。特に京都はJリーグ屈指の実力を誇る鹿島相手に一歩も引かず、激しく鹿島陣内に攻め込んだ。早目にボールを前線に預け、黒部、朴智星、松井が変幻自在なポジションチェンジから攻撃を組み立てる。しかし、百戦錬磨の鹿島は少しも慌てない。攻められているようで最終ラインは崩れず、勝負どころでは激しいプレスをかけて京都にチャンスを与えない。そして15分、京都からボールを奪うと小笠原が前線へロングフィード、この1本で裏へ抜け出した柳沢がシュートを放つ。ボールはクロスバーに当たって跳ね返ったが、走りこんできたエウレルがダイビングヘッドでゴールに押し込んだ。

 攻めさせておいて決して崩れず、そして一瞬の隙を突いてゴールをものにする。鹿島のしたたかさを見せつけたゴールだった。1点を追う京都は、その後も前へ出つづけたが、鹿島の守備は磐石。やがて鹿島は中盤の主導権を奪うと、いつものようにゲームをコントロールし始めた。攻め続けていたはずの京都は、いつのまにか鹿島の術中にはまり攻め手を失っていく。「我々の選手たちは全員が決勝を戦うという経験がない。1−0のビハインドは我々にとって非常に難しい状況だった」(エンゲルス監督・京都)。試合は鹿島のペースで進んでいた。



 「全員が前半の勢いで集中を切らさず後半45分を戦うこと」。ハーフタイムでトニーニョ・セレーゾ監督は、そう指示を与えた。天皇杯はここまで4試合を戦って無失点。「前半は非常に良かった」と振り返る指揮官は、このままのペースで十分、あとは試合をコントロールして、相手の隙を見つけて追加点を挙げるだけ、そう確信していたに違いない。それが鹿島の戦い方であるし、また、そうして数々の難敵を下してきたのだ。しかし、同じ時、京都はロッカールームの中で後半に向けて激しく闘志を燃やしていた。

 「どうしても勝負がしたかった。選手も、我々スタッフも、全員の気持ちは、このまま終わりたくないというもの。勝負にいこうと」というエンゲルス監督は、「相手がびっくりするくらい前に出よう、最初から最後まで相手にプレッシャーをかけていこう」と指示を送る。そして、冨田と鈴木(慎)の両WBをほとんど最前線にまで上げ、朴智星を中央へ置くフォーメーションにシフトチェンジ。リスクを犯して勝利を目指すことを選択する。鹿島に試合をコントロールされた悔しさ、もっとできるというプライド、京都イレブンは、全ての思いを残りの45分にぶつけるためピッチに戻った。



 後半の開始を告げるホイッスルと同時に、朴智星が激しい闘志で右サイドを突破、クロスボールを上げる。京都の気持ちを表す激しいプレーだ。そしてこれを合図に京都の猛攻が始まる。少しもひるまず、ただゴールだけを目指して前へ、前へと攻め立てた。そんな闘志が磐石に見えた鹿島の守備網を切り裂いた。時間は50分、右サイドの深い位置でFKを得ると、鈴木(慎)がゴール前に絶妙なボールを入れる。ゴール前で鹿島DFと競り合う朴智星が頭で合せたボールがゴールネットを揺らしたのだ。京都は遂に反撃ののろしを上げた。

 同点にされた鹿島は、高いポジションを取る京都の両サイドの裏をついて激しく攻撃に出る。京都も危ないシーンを作られながらも、更に激しく前に出る。両チームの激しい攻め合いが続く。しかし、京都の激しい気迫が鹿島のバランスを崩していく。得点を焦るあまりに前がかりになる鹿島の前線。京都の攻撃の前にラインを上げきれない鹿島のDFライン。鹿島の中盤は間延びし小笠原が機能しなくなる。そして京都は、最終ラインとボランチの間に出来たスペースを使ってゲームを展開、試合の主導権を握った。

 最前線でボールを引き出す黒部。2列目で起点を作る松井と朴智星。そして両サイドを駆け抜ける冨田と鈴木(慎)。やがて鹿島の足は止まり、京都の攻撃をファールで止めるのが精一杯になっていく。そして迎えた80分、柳沢のパスミスを奪った松井が前線へフィード、京都がカウンターを仕掛ける。そして、最後はゴール前にこぼれたボールに黒部が左足を一閃。次の瞬間、鹿島のゴールネットが揺れた。「あんなシュートはありえない。自分でもびっくり」(黒部・京都)。文句のつけようのない素晴らしいシュートだった。



 「同点にされてドタバタしてしまった」。本田(鹿島)は試合をそう振り返った。「普通だったら、うちはボランチを中心にまた散らしていくんですけれど、それができず、次の点を取りに行くという意識が強くてバランスを崩した」とトニーニョ・セレーゾ監督は反省点を口にする。それがセカンドボールを支配され、黒部に前線でボールをキープされた原因になった。しかし、前半は思い通りに試合を進めていた鹿島のバランスを崩させたのは京都の闘志に他ならない。「こういうフォーメーションは気持ちがついてこないと出来ない」とエンゲルス監督は試合を振り返った。

 関西のチームが天皇杯を獲得するのは1990年度の松下電器以来12年ぶり、Jリーグが開幕してからは初めてのことだ。そして、この日の京都は天皇杯チャンピオンに値する素晴らしいプレーを50,526人の観衆の前で披露した。朴智星のPSV(オランダ1部リーグ)への移籍が決まっており、来シーズンは新たなチーム作りが必要とされている京都だが、クラブとエンゲルス監督が作り上げた若いチームは、まだまだ伸びしろがある。Jリーグ開幕以来、東高西低が続いたJリーグに新たな流れが生まれる予感がした試合だった。


トニーニョ・セレーゾ監督(鹿島アントラーズ)記者会見
ゲルト・エンゲルス監督(京都パープルサンガ)記者会見
(鹿島アントラーズ) (京都パープルサンガ)
GK: 曽ケ端準(85分/退場) GK: 平井直人
DF: 名良橋晃 秋田豊 ファビアーノ 内田潤(75分/青木剛→87分/高嵜理貴) DF: 鈴木和裕 手島和希 角田誠
MF: 本田泰人(83分/長谷川祥之) 中田浩二 小笠原満男 アウグスト MF: 冨田晋矢 斎藤大介 石丸清隆 鈴木慎吾
FW: 柳沢敦 エウレル FW: 朴智星(87分/熱田眞) 黒部光昭 松井大輔
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