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 黄金週間のリスタート 04/05/08 (土) <次へindexへ>
ファンとの記念撮影に応じる上田監督。
黄金週間のリスタート(1)


取材・文/西森彰

 5月3日(月)、第1回SAITAMAフェスティバル2日目。埼玉県東松山にある埼玉リコー研修センターグラウンドに足を運んだ。このSAITAMAフェスティバルは、さいたまレイナスFCの主催によって行なわれるL・リーグ開幕前のカップ戦である。東日本を中心に12の女子サッカーチームが顔を揃えて、5月2日(日)から、4日間に渡ってリコーグラウンドと武蔵丘短期大学グラウンドの2会場を使用して開催された。

「第1回」とあるように今年から始まったトーナメントである。予選グループリーグが4チームずつ3つに分かれて、その成績上位チームから順番に組分けされた3グループで順位決定トーナメントが行なわれる。前半2日間でグループリーグ3試合、後半2日間でトーナメント2試合。4日間で5試合の公式戦をトップクラスのチーム同士で戦える意義は大きい。

 FIFAのオフィシャルサイトで各国のAマッチ戦績を見ても、ホーム、アウェーよりニュートラルとなっている試合が圧倒的に多い。先日のアテネ五輪予選もそうだが、移動・滞在経費の問題から、短期間集中のセントラル方式になる場合が多い。広島で五輪出場権に関係なく決勝戦、3位決定戦が行なわれたのも、できる限りAマッチの機会を増やすための一策だ。

「今年からL・リーグが2部制になって、経費の削減が図られました。だけど、単純に試合を減らすだけでは、女子サッカーの強化には繋がらないんですよ」

 鈴木保L・リーグ事務局長はこのトーナメントの開催意義をそう語ってくれた。



「監督、どうもありがとうございました」
「上田さん、お疲れ様でした」
「オリンピック出場決定、おめでとうございます」

 朝一番、リコーグラウンドに姿を現した上田栄治・日本女子代表監督へ、女子サッカーのコアファンから次々と感謝の声があがる。上田監督はその一人一人に挨拶しながら、関係者エリアへと入る。一般エリアに出てくるたびに、記念撮影をねだるファンとコメントを求める番記者が取り囲んだが、上田監督はひとつひとつに快く応じる。アテネ行きのチケットを手にした国立霞ヶ丘陸上競技場で「サポーターの皆さん、メディアの皆さん、本当にありがとうございました!」と挨拶した指揮官の、感謝の気持ちの表れなのだろう。



 4月24日(土)の準決勝当日、国立に集まったファンの数は3万1千人。北朝鮮のファン6千人を差し引いても2万5千人の計算だ。昨年の女子ワールドカップ・プレーオフが入場者数1万2千人だから、約2倍にあたるファンが、日本女子代表を後押ししたことになる。引いて守ってくると予想した相手が、キックオフからいきなり突っかかってきた。受身に立たされた北朝鮮のパニックを数倍に増幅させたのは紛れもなく、2万5千人の声だった。

 ほとんど観客のいないL・リーグのスタジアムから、数千数万単位が入場した予選会場へ。L・リーグのコアファンにも応援方法の違いに戸惑ったこともあったはずだ。その中で彼らは「ひとりでも多くのファンに応援してもらうこと」を最優先した。選手名を知らない人たちのために、聞きなれたA代表の応援を取り込んだ。自分たちで作り上げた選手へのコールは封印し、女子代表のアテネ行きに全てを賭けた。

 そんな彼らが来ている。時ならぬ女子代表ブームの高まりに、選手たちの安全と混乱を避けるため(運営人数から考えて当然の配慮だが)、ピッチサイドには立ち入れず、鳴り物を使っての応援等も禁止されていたが、横断幕を張り出し、静かに試合を観戦する。そして、あの試合を国立のスタンドで見て、初めてL・リーグの選手たちのプレーを見にやってきた観客もいた。金網の外側、そしてゴール裏のネット越しに選手たちのプレーを見守る。国立で蒔かれた種は、芽を出し始めたのだ。



チームとマスコミは最後まで良好な関係を保ち続けた。
 この日、上田監督から「いろいろとありがとうございました。記事を読ませていただきましたけれども、記者の皆さんも大変ですね」と声をかけられた。「合宿まで取材にいらした記者の皆さんは、こちらが『書かないでくれ』と頼んだことは、どなたも書きませんでしたから。あれは本当に助かりました。感謝しています」。非常に嬉しい言葉だが、それは密着取材を行なったテレビ朝日や日刊スポーツを始めとする、マスコミ各社に向けられるべきものだろう。この際だから、メディアの果たした役割についても少しだけ記しておこう。

 4月11日、J-STEPで行なわれた直前合宿の練習で、ビブスをつけた紅白戦が行なわれた。サブ組のメンバーがつけた赤いビブスには、北朝鮮の予想メンバーが着用予定の背番号がプリントされている。ビブスの入った袋には「VS北朝鮮」の文字。「北朝鮮対策はバッチリ!」とでも見出しを打って、記事にまとめれば「一丁あがり」だった。だが「具体的に対策を立てていることを知られたくない」という上田監督の言葉を受けて、報道各社は翌日の記事からこの部分を削った。ビブスの件は、あくまで一例だ。

 長期間の取材を通じて「一緒に戦おう!」というムードが醸成されていた。戦術面・選手の体調面など、対戦相手が手に入れたい情報については、ほとんど外に漏らさなかった。試合直前に使うモチベーションアップ音楽素材の編集や提供など、一般のファンには見えない部分でも、彼らは絶え間なくチームのバックアップをした。メディアの支援体制は、危うい均衡を保った天秤を日本サイドに傾ける分銅のひとつだった。
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