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 サッカーのある風景 03/07/10 (木) <前へ次へindexへ>

 国立のスタンドに熱狂を、日本女子代表に力を!


 文/西森彰 写真/笹田啓子
 今年の1月26日に行なわれた第24回全日本女子サッカー選手権大会決勝戦のスタンドはちょっと変わっていた。それほど多くない観客の中で、いつもより女性の割合が圧倒的に多い。それも箸も持ったことのないようなお嬢様タイプではなく、多少の傷はへっちゃらという感じのアクティブなタイプ。一見して「ああ、どこかでボールを蹴っている女の子だな」と分かる。顔なじみも多いようで「今どこにいるの?」とか、「しばらく左膝をやっちゃって」とかお互いに近況を報告しあっている。

 そんな中、時折、耳に厳しいセリフも飛び込んでくる。「もういい加減、限界に近いと思うんだけれど、監督もみんなもがんばっているから『私もがんばって続けなくっちゃ』とか思えてね」。女子サッカーをとりまく状況は、決して恵まれたものではない。もっとも世界的にも厳しい条件下で戦っている所は多いようで、シドニー五輪を前に、強化費不足に悩んだオーストラリア代表がヌードカレンダーを売り出したのは記憶に新しい。



 今年の全日本女子サッカー選手権大会を、1回戦から決勝戦まで観戦・レポートした当サイトの中倉一志編集長が、田崎ペルーレFCと日テレ・ベレーザによる熱のこもった決勝戦の取材終了後にポツリと漏らした。

「女子日本一を決める大会のはずなんだけれど、移動費とか宿泊費なんかは全部クラブ負担だから、勝てば勝つほど持ち出しが増える。それに一発勝負のトーナメントだから力量的に勝つはずのクラブが、格下に負けちゃう時もある。両方とも開催地に遠征してきているんだけれど、お互いに予定が狂って困った。負けたほうは勝つつもりできてるんでホテルを押さえちゃっている。勝ったほうは負けると思っていたから、どこもとっていない」

「で、どうしたかというと負けたクラブの監督が『よろしければ、ウチが予約した所に泊まってくれませんか? そうすればキャンセル料を払わずに済みますから』と申し出たんだよ。『人数がふたり多いですけれど、こちらからホテルに連絡しておきますから。食事は全員和食で注文していますが、3人だけ洋食にしていますのですいません』と。そのやり取りを聞いていてかわいそうになっちゃって、涙がこぼれそうだったよ」



 そんな環境下でも大和撫子たちは、果敢に国際舞台で戦ってきた。ワールドカップという世界最高峰での戦いでは男子以上の歴史がある。1991年に行なわれた第1回中国大会でもアジア代表として参戦。優勝したアメリカ、3位に輝いたスウェーデンと同組に入れられたこともあり、3戦して無得点、12失点という参加12ヶ国中12番目の成績に終わった。

 月に向かって石を投げ始めた日本は、続く1995年のスウェーデン大会でドイツ、ブラジル、そして開催国のスウェーデンという2大会連続出場国だけで固められた激戦区に組みこまれた。そして第2戦のブラジル戦では、野田朱美の2ゴールによって2対1と逆転し、初勝利。第1回大会で敗れた相手にリベンジを果たすとともに、得失点差でこれを上回り、決勝トーナメントに進出。準々決勝で強豪アメリカに敗れたものの初得点、初勝利、グループリーグ突破、まるで昨年の男子A代表のような快挙を成し遂げた。

 それまでの12ヶ国から16ヶ国参加と門戸が広がった1999年のアメリカ大会にも3大会連続の出場。直前の韓国との壮行試合2連戦では、男子のベルギー、ペルーが30分でフリーズした酷暑の西京極でしぶとくドローに持ち込み、国立では打ち合いの末3−2と撃破。自信と勢いを得て本大会に臨んだが、カナダとの初戦で1−1と取りこぼしたのが響き、ロシア、ノルウェーに大敗、予選リーグで敗退となった。この大会にはメキシコも初参加。ブラジル、ドイツ、イタリアに1−7、0−6、0−2と3連敗でアメリカを後にしている。



 そして、今まさに第4回アメリカ大会の出場権、それも最後の16番目のイスをかけてプレーオフが行なわれている。先週の7月5日、マラドーナが高々と金色のワールドカップを掲げたアステカスタジアムで、7万5千人を超える(一説には10万人ともいわれる)大観衆の中で行なわれたアウェー戦を戦った日本女子代表は、これを2−2のドローで凌ぎきった。4大会連続の出場がかかる日本代表は、いよいよ今週の土曜日・7月12日の午後3時から、国立霞ヶ丘陸上競技場でメキシコ代表とプレーオフ第2戦を戦う。

 プレーオフの登録メンバーを見渡すと、日本は前回大会を経験しているメンバーがGKの山郷のぞみ、小野寺志保、DFの磯崎浩美、中盤には酒井與惠、小林弥生、中地舞、宮本ともみ(前回大会は旧姓:三井)、そしてアトランタ・ビートで活躍するエースの澤穂希。合計8人が揃っている。澤とDFの大部由美はブラジルに歴史的勝利を飾った時の出場メンバーでもある。相手のメキシコにもDFのスサーナ・モラ、MFのパトリシア・ペレス、ファティマ・レイバ、そしてFWのマリベル・ドミンゲス、イリス・アドリアナ・モラと前回大会経験者が5人。経験値という点ではやや上回っているが予断は許さない。

 後はいつも主張しているように日本とメキシコの「サッカー力」の問題だろう。J1リーグが行なわれる日にプレーオフの開催がかぶったことをとやかくいっても仕方がない。日本の猛暑の下、開催時間を午後3時に設定したのは、この悪条件が日本に利すると考えてのことだろうか。それとも、さいたまスタジアム、味の素スタジアム、横浜国際陸上競技場、市原臨海競技場と首都圏開催の4場に向かうファンに、2時間のインターバルをおくことでその前に国立へ足を運んでほしいというメッセージなのか。

 一部では「勝てばジョホールバル、負ければドーハ」といわれたりしている。これまで世間ではその存在すら認識されていなかった女子サッカー。そのプレーオフという大一番が、聖地・国立のピッチで開催されるのだ。7万5千を超す敵対感情を凌いで日本に戻ってきた女子代表をガラガラのスタジアムに送り出したくはない。ひとりでも多くのファンに駆けつけてほしい。



 何事においても「はじまり」がある。6年前の秋、国立で行なわれたワールドカップフランス大会の最終予選初戦のウズベキスタン戦。あの一戦が引き鉄になって、日本中を駆け巡る今の代表ブームを作り上げた。今ほどスタンドは青くなかったが、現場にいた人間の想いは確かにひとつだった。

「フランスに連れて行ってくれ! いや、一緒にフランスに行こう!」

 あの時と同じようにバラバラの格好で訪れたファンが心をひとつにして日本女子代表をサポートすることを、そして彼女たちが必ず4大会連続で本大会への切符を勝ち取ることを、私は信じている。 


■2003FIFA女子ワールドカップ・アメリカ大会 出場国一覧
・アジア代表
北朝鮮(2大会連続2回目) 韓国(初出場)
・アフリカ代表
ナイジェリア(4大会連続4回目) ガーナ(2大会連続2回目)
・北中米代表
アメリカ(4大会連続4回目) カナダ(3大会連続3回目)
・南米代表
ブラジル(4大会連続4回目) アルゼンチン(初出場)
・オセアニア代表
オーストラリア(3大会連続3回目)
・ヨーロッパ代表
ドイツ(4大会連続4回目) ノルウェー(4大会連続4回目)
ロシア(2大会連続2回目) スウェーデン(4大会連続4回目) フランス(初出場)
・予選免除(開催予定国)
中国 ※SARSの影響によって、開催地はアメリカに変更されている。
・プレーオフ
日本(4大会連続4回目)orメキシコ(2大会連続2回目)
 ※第1戦 7月5日 メキシコ2−2日本
 ※第2戦 7月12日 国立霞ヶ丘陸上競技場 午後3時キックオフ
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