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 サッカーのある風景 03/10/17 (金) <前へ次へindexへ>

 できることを


 文/竹井義彦
 まず、近況報告を。
 横浜市では、10月に入ると第35回横浜国際チビッ子サッカー大会がはじまり、各クラスとも予選リーグがおこなわれている。私がコーチをしている駒林サッカークラブの3年生たちも LL クラスに参加。グラウンド提供をしている関係で、いつも練習に使っている駒林小学校のグラウンドで試合をしている。10月5日が予選第1日目、12日が2日目、26日が最終日の予定だったが、12日は雨のためグラウンド不良により、延期。まだ第1日目を終えただけとなっている。ホームチームということもあってか、スタートはまずまず。一日目は無失点で二勝することができた。

 以前にも説明したことがあったと思うが、LL というのは小学3、4年生の子どもたちのクラスだ。秋の市大会、国際チビッ子は、春に行われた市大会、木村和司杯の結果を受けて1部と2部に別れて戦うことになる。春の大会で成績のよかったチームは1部、それ以外のチームは2部ということになる。私たちのチームは、春の大会も参加したが、4年生相手に苦戦を強いられ、秋は2部での参加ということになった。とはいっても、対戦相手のほとんどは4年生が主力のチームで、3年生も混ざっているチームもあるが、3年生単独のチームは、私たちが予選で戦う相手にはいない。

 8月末に行われた辻堂杯に優勝した勢いのまま9月に入り、江戸川河川敷で行われたキッカーズ杯でも優勝、チームとしてはいい状態で市大会に臨むことができた。もちろん、このまま簡単に勝ち進むことはできないだろう。予選1日目の試合を見ているとどこの実力も拮抗していて、あまり大きな差はない。油断でもしようものなら、いや、自分たちは強いんだなどという気持ちがどこかに少しでもあれば簡単に足元をすくわれるに違いない。
 それでも以前に比べたら精神的にもたくましさが見えるようになり、もしかしたらと私は予選突破の期待を抱いている。



 去年、2年生のときにも春・秋の市大会には参加している。春の市大会では、まだ私がコーチになってから日が浅く、また2年生になったばかりということもあり、惜しいところまではいったのだが、勝ち点「1」の差で決勝に進むことができなかった。強豪チーム相手に1点リードしていたにもかかわらず、あと30秒で試合終了というところで同点に追いつかれてしまい、この試合の結果がそのまま響いた形になった。

 秋の横浜国際チビッ子サッカー大会ではなんとか予選を勝ち抜きたいと考えて臨んだが、この大会でも予選を突破することはできなかった。実力的に劣っていたとは決して思っていない。どちらかというと精神的な部分での問題が大きかった。1チーム、ちょっと力的に抜けていたチームがあり、この対戦でどこまで踏ん張れるかが大きなポイントだったがプレッシャーを必要以上に感じてしまう子がいて、リードされた途端、普段通りのプレイができなくなり、チームはいつも通りのサッカーができなくなってしまった。この大会、その次の日の試合でも実力的に勝っているはずのチームとの対戦で簡単なミスから失点、負けてしまい予選敗退してしまった。

 実は、春の区大会でも活動地域が重なっているチームとの対戦で前半をリードされた途端、何人もの子が涙を目に浮かべてしまい、いつものようなプレイができなくなってしまったことがあった。この秋の市大会でのプレイぶりを見て、それまでは子どものことだからとあまり気にしていなかったが、メンタルの部分を少しでもケアしてあげた方がいいかもしれないと思うようになった。



 そういえば、うちのチームは先制した試合には勝てても、先制された試合で追いつき、逆転したケースは希だった。もしかしたら、私がコーチになる前はそんなことはなかったのかも知れない。が、私が知る限り、先制しなければ安心して試合を見ていることができなかった。とはいえ、メンタルトレーニングなどということをやっていい歳なのかどうなのか、あるいはどんなトレーニングをすればいいのか、私には解らなかった。実は、もっともっと勉強して、学年が進んでからやろうと思っていたのだ。が、そんなこともいっていられなくなってしまった。

 試合中に失点をして、あるいはリードされて精神的にパニックになってしまう最大の理由は、結果をおそれてしまうからだ。まだ、どうなるのか分からない試合途中にもかかわらず、このままだと負けてしまう、と勝手に結果を想像して、その結果に恐れおののいてしまうからだ。これは子どもたちに限らないことかもしれない。結果を恐れるあまり、プレイが萎縮し、萎縮することでミスを犯し、さらに結果を恐れてしまう。こういう悪循環に陥ってしまうのだろう。

 まず、最初に話をするようにしたことは、勝ち負けを考えるなということだった。とはいっても、そんなに簡単なことではない。
 「勝ったらどうするのか、負けたからどうするのか、そういうことを考えるのはコーチの仕事だから、キミたちはそんなことを考えないようにしよう」と話すことにした。たとえば試合の前に、あるいは、試合の最中に、試合が終わった後や試合の合間などに話すことにした。

 つぎに、話したのは試合中にはどうすればいいのか、ということだった。
「コーチはキミたちに、ベッカムのようなプレイをしろとは絶対にいわないよ。キミたちができることを、一生懸命やればいい」
 そう言い聞かせるようにした。
「ひとりひとりが、できることを精一杯やる」それが試合前の合い言葉のようになった。



 どんな状況でもそう話をすることで、子どもたちなりに理解してくれたようだった。今年のはじめのこと、8人制の大会だったが大逆転を演じてくれた。0−2から得点を重ね、前半のうちになんとか追いつくことができた。このまま前半を終えることができたらとベンチから指示を出したんだが、子どもたちは追いついた勢いのまま攻めにいってしまい、カウンターからまたもや失点。同点に追いついたのも束の間、またもやリードされてしまった。いままでなら、このまま試合が終わってしまうところだったが、後半、再び追いつくと、さらに追加点を奪い、逆転したのだ。これは、私にとってとても嬉しい試合になった。

 もちろん「できることを精一杯やる」という話だけで、メンタル的なものが改善されたわけではないだろう。実は、春の大会では、レポートを書かせたりもした。自分がいまできること、したいプレイはどんなものなのか、試合ではどんなプレイができたか、次の試合ではどんなプレイがしたいのか、そんなことを書かせるようにした。

 書くということで、できることが少しでも意識できればという意図だった。このレポートは、以前は書いてもらいたいときに私が用紙を渡していたのだが、いまではノートになっている。ノートに試合のたびにレポートを書かせている。もっとも、このノートに書くということは子どもたちとって大変なことらしく、みんながみんな、きちんと実行しているわけではない。それでも、小学校を卒業するころまでには、ちゃんと習慣になってくれればと思っている。



 こんなことがあってか、子どもたちは多少のことでは慌てなくなったようだ。ところが、先週の日曜日、市大会の合間だったが練習試合をすることになり、その3試合目のこと、前半、いつものように2点リードして安心していたところ、後半、単純なミスもあり、瞬く間に追いつかれると逆転されてしまった。もちろん、こどもたちに慌てる様子はなく、いつものようにプレイをしてくれた。けれど、ベンチでしっかり指示を出さなければいけない私が、例の悪循環に陥ってしまったようにベンチに座り込んだまま、なにもできないうちに試合は終わってしまった。
 慌てずに、いまできることをきちんと指示する。私も、これを自分自身に言い聞かせなければいけないようだ。きっと、まだまだコーチとしては未熟ということなんだろう。

 秋の市大会では、「できることを精一杯やる」という合い言葉にあるフレーズが加わっている。
「チームのために、できることを精一杯やる」。
 さて、秋の市大会は子どもたちにとってどんな大会になるんだろう。
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