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 サッカーのある風景 03/11/14 (金) <前へ次へindexへ>

 気がついたらガラガラ声になっているけど


 文/竹井義彦
 FIFA World Youth Championship では素晴らしい戦いが繰り広げられた。ライブ放送を見ることはなかなかできなかったが、再放送を繰り返してくれるので日本戦は結果的にすべて見たことになる。凄いなぁと思わず唸ってしまったのは、セミファイナルのブラジル vs.アルゼンチンの試合だった。南米チームらしい個人技、と書いてしまうとありきたりのように聞こえるかもしれないが、目を見張るような素晴らしいボールコントロール・テクニックの応酬に、わたしはただ黙って見ているしかなかった。

 日本は結局ベストエイト止まりということになってしまったが、得るものも多かった大会になったんじゃないだろうか。リーグ戦を勝ち抜き、ライバル韓国戦にも勝ち、この世代の力をきちんと知らしめたともいえる。もっともトップネーションとの力の差は歴然とあることも判った。しかし、差を埋めるためには、まずその差の大きさを知るところからはじめなければいけない。そういう意味でも収穫は多かったはずだ。
 このチームを率いた大熊監督の手腕も改めて評価されるだろう。選手起用や試合中の交代のタイミングなど、なかなか適切な手を打っていたと思う。




 そんな大熊監督だが、テレビを通じて一番伝わってきたのは、その熱さはもちろんだが、声の大きさでもあった。国際映像を通じてピッチに語りかける、いや叫ぶ声が遠慮なく聞こえてくる。あんなに大きな声を出して、のどは大丈夫なんだろうかと人ごとながら心配にすらなってしまった。

 というのも、わたしも試合中にはかなり大きな声を出すからだ。12月最初の土日は試合が続いた。6日の土曜日は横浜市港北区の区民サッカー大会、予選リーグが2試合。その後、フレンドリーということで練習試合が2試合。日曜日は招待試合に呼ばれていたので、海老名のコカコーラグラウンドまで遠征し、予選リーグを3試合、順位決定戦1試合。2日間で都合8試合。実は、土曜日の4試合目にはすでにのどは枯れかけていて、ときおり指示する声がかすれていたのだ。一夜明けた日曜日。さすがに最初の試合からいつもの声が出ず、ガラガラ声になっていたはず。すべての試合が終わった後は、のどに違和感を覚えるどころではなく普通にしゃべる声もずいぶんいつもの声とは違っていた。

 コーチになりたての頃は、こんなではなかった。ベンチに座ってはいたものの、ピッチの中で走り回っている子どもたちのプレイを黙ってみていた。いいたいことはあっても、それを大きな声で伝えていいものかどうか、よくわからなかったからである。
 実際、子どもたちの試合の時には、コーチはただ黙って試合を見ているだけで、ハーフタイムの時や、試合が終わったときだけ、指示を出しているチームもある。中には、大きな声で指示を出しているチームもある。もちろん、そういう言い方はないだろうという内容のことを大きな声で叫んでいるチームもあった。
 いろいろなチームと対戦していて、さて、どんなカタチで試合に臨んだものなのか、正直判らなかったといえばいいだろうか。照れくささもあったかもしれない。
 そんなわたしが、試合中の声の大切を知ったのはひょんなことからだった。



 大きな大会だとか、強豪チームとの試合などではない。ただの練習試合だった。しかも、同じチームの練習試合だ。長男がまだチームにいた頃、同じ駒林の1学年上のチームと練習試合を何度かさせてもらったことがあった。人数の関係で、長男たち5年生チームに、1学年上の6年チームからセンターバックの子を借りて試合をさせてもらった時のことだ。

 この時の6年チームは本当に強いチームで、練習もしっかりしていたし、きちんとした指導も受けていた。6年生最後の県大会では優勝したチームでもある。そんなチームとの練習試合だから結果は二の次で、どんなプレイができるか、それが確認できればいい。そんなつもりで練習試合をさせてもらっていた。

 それは、いつもディフェンスをやる子が左サイドでボールを受けたときのことだった。その子の前にはちょっとしたスペースが空いていた。パスをしようかどうしようか、一瞬その子は迷った。そのとき「あがれ」と声をかけたのが、6年生の子だった。センターバックにポジションしたその子は、サイドへと少し寄り、バックアップできる位置につくと、コーチングしていた。

「ドリブルであがれ」

 その声に促されるように、その子はドリブルで上がっていった。

「もっといけるよ、そのまま、そのまま」

 その子の前に敵が立ちはだかっても、その声はさらに持って上がるように指示していた。その声につられるように、彼はドリブルで敵を抜くとハーフウェイラインを突破して、さらに前に進んでから、中へとパスをした。
 この光景をサイドラインで見ていたわたしは驚いてしまった。まるで、6年生の声がその子の背中を後押しするように、しかも好プレイを引き出したからだった。
 そうか、声でいいプレイを引き出してあげることができるんだな。

 そんなことを経験してからだ。わたしがベンチで少しずつ声を出すようになったのは。恥ずかしいのは最初の一声だけだった。今まで試合をサイドラインで見てきたり、ベンチで見ていて黙っていたけれど、本当に最初の一声だけ。一回、声をかけてしまうと、ベンチとピッチにいる子どもたちの間でしっかりとコミュニケーションが取れることが判った。
 それからは、サイドラインのテクニカルエリアの真ん前に立って、逆サイドにいる一番遠いポジションにいる子にも聞こえるような大声を試合中に出している。



 しかし、この声出しにもタイミングがある。プレイをしている最中に声をかけてしまうと、逆に戸惑ってしまうことがあるのだ。わたしも失敗したことがあるんだが、それはゴールキーパーへの声だった。ベンチから見ていると、GK が一番ボールの近くにいるように見えてしまう時がある。このとき、うっかり「キーパー」と大声を出して、点を獲られたことがあった。この声を聞き、ディフェンダーは立ち止まり、キーパーも一瞬動きが止まってしまい、その瞬間に相手にボールをかっさらわれてそのままゴールへ蹴り込まれてしまったのだ。その他にも、GK がジャンボキックをする瞬間に声を出し、キックミスを誘発してしまうこともあった。

 判断を迷っていたり、背中をそっと押して上げられるような声なら大丈夫だ。しかし、判断をして動いている最中に声をかけてはいけないということだ。それでも、声を出して伝えたいことがあるときはどうするかというと、プレイが終わった後に、いまのプレイはどうだったのか、と声を出すようにしている。

 声を出すタイミングの他に、気をつけていることとして、ミスを責めないということがある。サッカーにミスはつきもの。むしろ、ミスを前提としたスポーツだぐらいに考えているので、試合中のミスについては声を出さないようにしている。ただ、繰り返してはいけないミスをしたときには、今度はこうしようと、とミスを責めるのではなく、次にどうしたらいいのかを伝えるようにしている。

 そのかわりといってはなんだが、いいプレイをしたときは、たとえそれが成功しなくても誉めてあげるようにしている。1対1に果敢にチャレンジしたときは、そのチャレンジしたことをきちん誉めてあげるようにしているし、シュートを打てば、外れたとしても、シュートを打ったことを誉めてあげるといった具合だ。



 いま一番多い声の指示はポジショニングだろうか? このところディフェンスラインをボールの位置によって上げ下げすることをやらせている最中なので、ディフェンダーの足が止まっていると「ライン」と大声を出すことが多い。その他には、ボールに寄りすぎたり、あるいは味方とかぶったり、足が止まっていたりしていると、ベンチからすかさず声がかかる。もちろん、声を出すのはわたしひとりではない。代表コーチはもちろん、ベンチに座っているお父さんコーチたちも、気がついたことがあればドンドン声を出していく。

 だから、今、わたしがコーチをしているチームのベンチはかなり五月蠅い。そして、子どもたちもそんな声の指示に従ったり、頷いたりして、コミュニケーションを取りながら試合を進めている。

 たぶん、わたしの指示とワールドユースを戦った大熊監督の指示の内容は大きく違うだろうが、しかし、声を出している意味は一緒なんじゃないか、と思いながら試合を見ていた。中には、ただ黙ってベンチに座っている方がいい、という考えをしている人もいるだろう。本当はどっちが正しいのかよくわからない。

 けれど、わたしの声が子どもたちにとって役に立つのが、このチームに在籍していてたった一度だけだったとしても、それでいいと思っている。きっとこれからも、ガラガラ声を出しながら試合をしていくだろう。
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