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 サッカーのある風景 05/06/17 (金) <前へ次へindexへ>

 サッカーしねま! 第2回 「ロルカ、暗殺の丘」


 文/砂畑 恵
 毎年、ほころぶ紫陽花を見ていると思い出すことがあります。この出来事に会った本当の時期は今よりもっと後のことなのですが、その時にバスの車窓から眺めた雨に濡れた紫陽花がその記憶を呼び起こすのでしょうね。

 それはまだレッズがJのお荷物と言われていた頃の話で、多分、今はなくなってしまったフリエ戦の帰り道。その日もご多分に漏れず負け試合で、スタジアムから北浦和駅に向かうバスの中にいる人々は物静かで、エンジンと雨が叩く音だけ。丁度、通路に立つ私の前の2人掛けシートには小学生の男の子とお父さんが黙って座っていました。

 気まずい雰囲気の車内。きっとお父さんはしょげ返っている息子と会話をしようと言葉を紡ぎ出したのでしょう。「今日も負けちゃったね」と。すると男の子は「でもね、ボク、田口は頑張っていたと思うんだ」とぽつり。そんな息子にお父さんは「そっか、お前、DFだもんなぁ。福田みたいにゴールを決める華麗なプレーもいいけど、地味だけど田口みたいなプレーもチームには必要だよなぁ」と、二人は顔を見合わせ微笑んでいました。

 さて、今回お届けするのはスペイン・アメリカ合作映画「ロルカ、暗殺者の丘」です。 しかしこの映画の話に移る前に、まず表題にある「ロルカ」について述べましょう。私はこの映画を見て初めて知ったのですが、ロルカは実在した人物でありまして、1898年グラナダ生まれの20世紀スペインを代表する詩人、且つ劇作家です。その影響力は絶大で、彼の代表戯曲の「血の婚礼」を基に、同タイトルでカルロス・サウラ監督がスペイン舞踏家のアントニオ・ガデスを捉えたドキュメンタリータッチの映画もあります。

 皆さんにお伝えする手前、この機にロルカの「ジプシー歌集」<平凡社ライブラリー>を読んでみました。古典的な叙情詩で、現代詩とは違ってちょっと難解な比喩や暗喩が多く使われた詩を詠んでいます。スペイン語を理解出来ない私に想像はつかないのですが、原語ならば韻を踏み、リズミカルで美しい響きがあるようですよ。

 ところでロルカはジプシーらとも親交を持ち、当時とすれば斬新な考えの持ち主であったことから、カソリックに彩られた伝統主義者からは非難を受けるような人でもありました(映画でもそういったシーンがあります)。また活躍した時代が、共和党とフランコ将軍率いる反乱軍との対立が激化を辿る混乱していたスペインの歴史とも重なっていて、共和国に対する理解とリベラルでファシストを批判する政治的な発言は新聞で取り上げられるほど世間に反響を呼び、ドイツやイタリアの支援を受ける右翼勢力のフランコ派から見れば大変に危険な存在。結局、1936年の7月17日にスペイン領だったモロッコでフランコの反革命の内乱がグラナダへも飛び火すると、ロルカはファランへ党(スペインのファシズム政党で後にフランコ政権に吸収)の党員に連行され、8月19日、グラナダ近郊のビスナール丘で銃殺により38歳という短い生涯を閉じました。

 但し、ロルカの死に関しては謎の部分も多く、この映画では歴史的事実と虚構の部分を
織り交ぜながら、ロルカの生涯と死の真相をドラマティックに追い求めています。

・ストーリー
 1934年、不穏な空気が流れる内乱寸前のスペイン。グラナダで生まれ育った少年リカルド(ナイム・トーマス)は親友のホルヘを誘って、家族とマドリッドへ観劇に訪れていた。しかも故郷が産んだ憧れの詩人・戯曲家であるロルカ(アンディ・ガルシア)の最新舞台「イェルマ」で興奮を隠せない。芝居を見終わったリカルドは舞台裏に潜り込み、ロルカと間近に出会う。手持ちの「ジプシー歌集」に差し出すと気軽にサインに応じたロルカは「僕を忘れないで」という言葉を囁き去っていった。
 あの日から2年、リカルドはロルカが帰郷していることを知り、ホルヘと一緒に滞在するホテルに出向く。しかしグラナダにも飛びした内乱の嵐は、リカルドの目の前で親友を奪い去っていった。自分が親友を死に追いやったと悲しむリカルドを慰める父・ヴィセンテ。しかしホルヘの葬儀があった夜、そんな父が血まみれになって帰ってきた姿を見てしまう。そして拭いたい過去と決別するかのようにリカルド一家はスペインをあとにした。 現在(1954年)はプエリトルコで新聞記者となったリカルド(イーサイ・モラレス)は31歳。それでもロルカに対する情熱は衰えず、彼の生涯を本に認めようと、謎となっているロルカ最期の真相を求めて、リカルドは危険を冒しフランコ政権下のスペインを訪れる決心をした…

 ロルカを演じるアンディ・ガルシアと言えば、「アンタッチャブル」でエリオット・ネスの部下・ストーン役で一躍、注目を集め、「ゴットファーザーPartV」のヴィンセント役ではアカデミーの助演男優賞にノミネートされた実力派。大人に成長したリカルド役のイーサイ・モラレスは「ラ・バンバ」や「ネーキッド・タンゴ」など多数の作品に出演しています。また影のあるタクシー運転手役のジャンカルロ・ジャンニーニは本国イタリアだけでなく「雲の中の散歩」や「ハンニバル」などハリウッド作品でも高い評価を受け、本作でも登場時間は短いながらも渋い演技で強い印象を残しています。

 この映画に於いて、サッカーボールは父と子の距離を測る小道具として使われています。子供にとり父親は甘えられる存在であり、その大きな姿に敬愛を抱くものです。父と1つのボールを通じて語らう少年もいつかは大人になっていく…。孫とボールを蹴り合う父を見詰めるリカルド。少年の日のような眼差しを湛えることはない。

 紫陽花が思い出させる父子の記憶。今でも2人は一緒に変わらぬサッカーの風景を見ているでしょうか……

月は子供の手をひいて、
空をわたる            (ロルカ「月よ、月よのロマンセ」より)


「ロルカ、暗殺の丘」(1997年 スペイン・アメリカ合作)
監督・製作 マルコス・スリナガ
キャスト  アンディ・ガルシア、イーサイ・モラレス他
時間    114分
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