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 福岡通信 01/03/16 (金) <前へ次へindexへ>

 進化を続けるアビスパ福岡


 文/中倉一志
 朝からどことなく気持ちが落ち着かない。今日はせっかくの土曜日。ゆっくりと惰眠をむさぼるつもりが、まだ暗いうちから目がやたらと冴えている。仕方なく、山積みになった取材資料を整理しようとパソコンに向かったが、どうにも集中力に欠く。やむを得ずTVのチャンネルをひねってみたが、これが少しも頭に中に入っていかない。それもそのはず、今日は待ちに待ったJリーグの開幕日。サッカーのこと以外に考えられるはずもない。

 遅々として少しも進まない時計がようやく12時を回った。地上波とBS、そしてCSの番組表とにらめっこしながら、3台のビデオデッキを駆使してタイマーをセット。そして、愛用のデイバックに、取材ノート、ストップウォッチ、双眼鏡の「三種の神器」を詰め込んで準備完了。西鉄大牟田線大橋駅前からシャトルバスに乗り込み、いざ戦いの舞台へ向かう。15分ほど走ると、小高い山の中から流線型の屋根が見えてくる。それが、博多の森球技場。我らがアビスパ福岡のホームスタジアムだ。

 「チケットあるよ〜」。見慣れた顔、聞きなれた声のおばちゃんが、スタジアムに向かう人たちに声をかけている。その間をぬって、多くの観客が足早に通り過ぎる。キックオフまでは、まだ1時間半。しかし、この日を待ちわびたサポーターたちは、はやる気持ちを抑えられない。そして、シーズンオフの間、小高い丘の上にひっそりと身を隠していたスタジアムは、まるで「ようこそ」と語りかけてくれるように、我々をやさしく迎えてくれる。

 スタンドに足を踏み入れると、目の前に青々とした芝生が広がる。その芝生を明るく照らす春の日差し。心地よい風。そして芝生の臭いが我々を包み込む。顔なじみのサポーターと言葉を交わし、これから始まる長いシーズンに思いをはせる。仕事仲間のディレクターが「いよいよですね」と声をかけてくる。「やっぱり、この雰囲気が最高ですね」と私。さあ、待ちに待った2001年のJリーグが、いよいよ幕を開ける。



 しかし、今シーズンの福岡は一抹の不安を抱えていた。選手補強が思うように進まなかった上に、キャンプではベテラン勢を中心に怪我人が続出したからだった。ピッコリ監督は「昨年に比べ満足度は低い」と語るほど。加えて、ビスコンティの怪我の回復が遅れ、開幕戦の出場が絶望視されていた。レギュラー陣の実力は他のクラブにひけを取らないとは言え層の薄さは否めない。誰が攻撃の起点になるかという大きな問題も抱えていた。

 そんな福岡の開幕戦の相手はG大阪。先発メンバーの平均年齢は23.6歳と若いチームだがタレント揃いの強豪。昨シーズンの2nd stageでは最後まで優勝争いに加わった。早野監督が指揮をとって3年目となる今シーズンは更なる飛躍を狙っている。チームの中心は、いまや日本を代表するボランチに成長した稲本。その稲本とコンビを組む遠藤を中心に、ビタウ、山口らがゲームを組み立てる。そして、FWニーノ・ブーレの存在感は抜群だ。

 だが、それでもピッコリ監督はいつものように強気な姿勢を崩さなかった。開幕直前には「チーム状態は上り調子。いい形でホームでの開幕戦を迎えられそうだ」と発言。その理由として、同じメンバーで戦うことで戦術理解度が高まったことを上げた。また、同じく選手たちも強気の姿勢を崩さない。「優勝は目標ではなくて使命。その使命を達成したい」と中払。復帰が期待される山下も、「優勝してビールかけがしたい」と語った。

 福岡にとって、今シーズンは真価が問われる年。昨年終盤の活躍が認められてか、多少はメディアへの露出度が高まったとは言え、まだまだ福岡に対する評価は高いとはいえない。その証拠に、多くのメディアが開幕戦ではG大阪の有利を予想していた。そんな中で、昨年の活躍が本物であることを証明するためには、今年も自分たちの実力を見せつける以外にない。しかも今日は博多の森での開幕戦。どんなことがあっても勝たないわけにはいかないのだ。



 サポーターの注目を浴びる中、試合は15:03にキックオフ。試合の主導権はまずG大阪が握った。中盤を作らずにロングフィードをニーノ・ブーレに集めるG大阪は、そのこぼれ球にビタウ、山口が絡んでゲームを展開。福岡を押し込んだ。しかし、福岡の集中力の高さは見事だった。最終ラインを統率する前田は、激しく競り合ってニーノ・ブーレを自由にさせず、運動量豊富な野田は中盤の底で相手の攻撃の芽を確実に摘み取っていく。

 とにかく全員の守備に対する意識が非常に高い。確かに押し込まれてはいるのだが、決して決定的なチャンスを与えない。そんな頑張りを見せるイレブンに対し、ウルトラ・オブリの面々は絶え間ない大声援で選手たちを後押しする。そしてエスコティーバも、ウルトラ・オブリの声援に合わせて力の限りエールを送る。選手も、サポーターも、ジリジリする展開の中、福岡は来たるべきチャンスに備えて、虎視眈々と牙を磨いていた。

 そして15分。福岡は一瞬のチャンスをものにする。中払がペナルティエリア内にロングスローを放り込むと、混戦の中からこぼれたボールにいち早く久永が反応。右足を力強く振りぬくとボールがゴールネットを強く揺らした。湧き上がる博多の森。そして呆然とするG大阪イレブン。狙い済ましたワンプレーで試合の流れは一気に福岡に傾いた。浮き足立つG大阪に襲い掛かる福岡は、27分には全く同じパターンから再び久永が2点目をゲット。勝利をほぼ手中に収めることに成功した。

 後半に入ると、福岡は今までとは別の顔を見せる。アビスパといえば、高い位置からの襲い掛かるようなプレッシングが代名詞になっているが、そんな激しいプレッシングを温存し、引き気味の布陣を敷いて守備固めに出たのだ。無理な体制から攻撃を仕掛けてくるG大阪を落着いて跳ね返し、前線へボールが供給されると見るやDFラインを高く保ち、ことごとくオフサイドの反則を誘う。まさに完璧といえる戦い振りで開幕戦を勝利で飾った。



 身体を張ってゴールを守った小島。前田は激しく競り合ってニーノ・ブーレの自由を奪った。巧みなラインコントロールで数え切れないほどのオフサイドを奪ったDFライン。攻守の要として余りある活躍を見せたバデア・野田のダブルボランチ。鋭いドリブルで何度もカウンターを仕掛けた久永と中払。ヴィラジョンガと江口の2トップも最前線からチェイシングを繰り返した。そして、服部、篠田、三好らの交代組も、その役割を十分に全うした。「今日の勝者はチーム全員」。ピッコリ監督は、そう言って胸を張った。

 そして何より目を引いたのは、チームとしての成熟度が上がっていたことだ。相手の出方によってはプレスをかけず、また引くべき時には手堅くゴール前を固めた。しかし、ラインを下げることはせず、昨年同様、数え切れないほどのオフサイドを演出した。そして、ここというポイントでは鋭い出足でボールを奪取。得意のプレスからのカウンターで何度もゴールを脅かした。昨年大きな進化を遂げた福岡は、更に高い位置を目指して進化を続けている。

 新たな一面を見せて開幕戦を勝利で飾った福岡。シーズン前にサポーターが感じていた一抹の不安をいとも簡単に拭い去ってくれた。しかし、選手たちは気を緩めることはしない。2得点を挙げ、昨年と比べて余裕があると語った久永でさえ、「それを過信しないように、いつも確認しながら練習に取り組んでいる。ただ正直、今日はゴール以外は、僕はあんまり誉められたもんじゃないと思ってる」と気を引き締めることを忘れなかった。

 長い戦いのスタートは切られた。今から8ヶ月間に渡る厳しい戦いが始まる。長い間には苦しい時が必ずやって来る。そんな時、この日のように全員が一丸となって戦えるかが、今年の福岡のポイントになる。そして、シーズンを通して結果を残すことこそが今年の福岡に求められている。それが出来てこそ、昨シーズンの戦いが意味を持つのだ。目指すは昨年の順位を上回ること、そして優勝だ。進化を続ける福岡は、今年も我々に数々の感動を与えてくれるに違いない。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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