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 福岡通信 01/03/23 (金) <前へ次へindexへ>

 成長の後を見せるサガン鳥栖


 文/中倉一志
 気温が20度を超えソメイヨシノが咲き始めた福岡市。しかし、すぐ隣の鳥栖市をホームタウンとするサガン鳥栖の春は、まだ遠いようだ。開幕から2戦して1分1敗。わずか1得点しか挙げられない攻撃力不足が原因となって、まだ勝ち星を挙げられずにいる。新加入選手12人を加えた新生サガン鳥栖がJ2の台風の目となって暴れるためには、もう少し時間が必要なようだ。若手主体のチームが活躍する姿を待ち望んでいるサポーターたちは、じっとその時を待ちわびている。

 最大の誤算は、開幕直前になって怪我人が続出したこと。2列目からの鋭い飛び出しを武器にする小石、高祖監督が自ら獲得に動いた「関西学生リーグアシスト王」の東らをはじめとして、攻撃陣に多くの怪我人を抱えてしまった。その影響から、今シーズンはボランチでの活躍が期待されていた北内を1.5列目で使わざるを得ず、三原の抜けたボランチを埋めきれていないのも大きな原因になっている。また、右サイドが固定できないのも悩みの種だ。

 加えて、大幅にチームを入れ替えた影響で、チームとしての成熟度が不足していることも災いしている。今シーズン、攻撃の起点として期待されている大型FWの富永は、中々チーム戦術になじめず、ポストプレーヤーとしての役割を果たすまでには至っていないし、昨年の持ち味であったダイレクトパスの交換も、いまひとつ切れがないように思える。そのせいか中盤でのミスも多く、せっかくのチャンスにもリズムに乗り切れない展開が目立つ。

 しかし、桜も時期が来れば満開の花を咲かすように、サガン鳥栖にもその時は必ずやって来る。まだぎこちなさが残るチームも確実に成熟度を上げているし、何より若い選手たちが中心というのは未来を感じさせてくれる。チームとして、選手としての経験のなさは否めないが、彼らには若さならではの吸収力がある。高祖監督の指導力と、彼らの意欲がマッチした時、チームは大きく花開くはずだ。



 開花の日に備えて準備を続ける鳥栖。日に日に膨らむ桜のつぼみのように、チームは、目に見えてまとまりが強くなってきている。今年、初めて鳥栖の試合を見たのは3月25日の九州学生選抜とのトレーニングマッチだったが、ほぼレギュラー組で戦った1本目でさえ、これといった活躍が見られなかった。得点こそ3−1だったが、相手を崩して奪ったゴールは小石の1点だけに留まった。高祖監督が思い描く攻撃はほとんど機能しなかった。

 しかし、翌週行なわれた本田FC戦ではGKのミスから0−1で破れたものの、前半は随所に攻撃の形が見え始めた。ロングフィードからサイドへ広く展開。そこから早めにクロスを入れて、こぼれたボールを1.5列目の選手が狙う。まだパスミスが多く、狙っていたダイレクトのパス交換からの素早い攻撃は見られなかったが、わずか1週間で、全く別のチームになっていた。課題はボランチ。三原の後を勤める鈴木にはやや荷が思いように思われた。

 そして、期待と不安が入り混じる開幕戦。鳥栖は更に成長の後を見せる。記者会見では「攻撃の意図が感じられないんじゃないか」と質問する記者もいたが、なかなかどうして、高祖監督の狙いは随所に見て取れた。サイドかのボランチへのバックパスをダイレクトでフィードして2列目が飛び出す。ダイレクトパスを使っての中盤の突破と、DFラインから中盤を飛び越して両サイドのスペースへボールを運ぶ突破。組み立ての意図は明確だった。

 さらに、1トップ気味の富永が落としたボールに北内、佐藤大実が飛び込んでゴールを狙う。そして先制点となったゴールは、それまで前へ出ることがなかった鈴木が持ち込んで出したスルーパスに佐藤大実が反応。高祖監督が好きだという、2列目からの長い走りを活かしてのゴールだった。ペナルティエリア内での不用意なファールからPKで追いつかれ、勝ち点3を逃した一戦となったが、攻撃の意図が随所に見られるようになったのは大きな進歩だった。



 そして迎えた第2節。相手はエメルソンを要する川崎フロンターレ。J2優勝の最有力候補に上げられる強豪だ。相手の攻撃力を恐れてか、前半はボランチの鈴木が低い位置から動かないためラインが上げられず苦戦を強いられた。また、富永と佐藤大実の2トップの動き出しが悪く攻撃がほとんど機能しない。中盤でのパスミスや、せっかく奪ったボールを簡単に奪い返される等、攻撃の起点を作れず、鳥栖の良さが全く感じられなかった。

 しかし、後半に入って2トップを森田と石谷に交代すると、まるで別のチームになったように川崎を圧倒。どちらが優勝候補か分からないようなサッカーを展開した。1トップ気味のルーキー森田は、プロの激しい当たりに苦労しながらも前線の起点として機能。それに石谷が絡んで相手の最終ラインを突破にかかる。加えて、前線中央で起点を作ることによって出来た両サイドのスペースを利用して、面白いようにサイドを攻め立てた。

 ボールが前で落着くようになったためか、それまで中盤の底に潜んでいた鈴木も積極的に前に出て行くシーンが見られるようになっていく。川崎の守備陣が安定していないことも手伝って、面白いようにチャンスの山を築き上げていく。後半の戦い方だけを見れば、「こうやって相手を崩すんだ」というお手本のようなゲームだった。残す課題は、ラストパスの精度。相手を何度も崩しながら、最後のパスがゴール前に届かず決定的なチャンスが作れなかった。

 結局、フィニッシュにつながるボールの精度の悪さが響いて川崎を破ることは出来なかったが、優勝候補相手に互角以上の戦いを演じた内容は、これからの戦いに大きな希望をもたせてくれた。しかし、「前半から後半のようなサッカーが出来るはずだった」とは高祖監督。監督はもちろん、選手たちも、力を発揮できなかった前半の戦い方を嘆いた。その言葉からは、「もっとやれて当たり前」という自信のようなものが感じられた。



 確かに課題は多い。ラストパスの悪さはここ何年も指摘されていること。右サイドを誰が勤めるのかも、まだ決められずにいる。前への飛び出しには強さを見せる前田も、ハイボールの処理とポジショニングに難点を抱えている。また、攻撃的な面を見せ始めたとは言え、鈴木は無難なプレーを選択する傾向が強く、中盤の底でボールが落着いてしまい、攻撃面でのスピードが遅くなる原因になっている。しかし、それ以上に好材料は多い。

 川崎との対戦で森田が使える目処が立ったこと。どう使えばいいのか自分自身が迷っている節があるが、抜群の身体能力の高さを示す矢野マイケルもいる。そして何より、抜群の安定感を示すDF陣が頼もしい。川前の活躍は当然のこととしても、アグレッシブな守備を見せる松田、鋭い読みでボールを奪う佐藤(陽)の成長には目を見張るものがある。守備が強いのは強者の鉄則。彼らの活躍は、必ずやチームに勝利をもたらしてくれるはずだ。

 しかし、ここからが最大の頑張りどころであることも確かだ。ラストパスの精度が悪いという鳥栖の課題はどのチームにも当てはまること。この課題を克服できるか否かによって、強いチームと、そうでないチームとの区別が生まれる。しばらくは安定した守備陣の踏ん張りに支えられることになるだろうが、チームとして脱皮し、そして、勝ち星を挙げ続けられるようになるためには、最後の壁を全ての力を振り絞って破らなければならない。

 ここまでのJ2の戦跡を見る限り、今年のJ2は昨年以上の混戦が予想される。しばらくはジリジリとした戦いが続くだろう。そんな中で、自分たちの力を信じ、常に上を目指して強い意志で戦い抜いたチームだけに上位進出が許される。苦しい時、勝てない時にどれだけ自分たちを信じてトレーニングを積むことが出来るかが大きなポイントになる。そして、それをやり抜いた時、昨シーズンを上回る成績がついてくる。頑張れ、サガン鳥栖!!



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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