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 福岡通信 01/04/06 (金) <前へ次へindexへ>

 圧倒的なフィジカルの強さ。光陽製鐵高校がFBS杯を制す。


 文/中倉一志
 桜の季節とともに高校サッカー界にも春がやってくる。最上級生を送り出した後には新入部員が加わり、高校サッカー最大の目標である「全国高校サッカー選手権」での活躍を夢見て、日々トレーニングに汗を流すことになる。そんな高校サッカー界にあっては、チーム強化を目的として、学校の休みを利用して各地でフェスティバルが開催されている。基本的には非公式戦の扱いだが、その規模や内容は公式戦さながらのものだ。

 ここ福岡でも、春の訪れとともに、高校サッカーフェスティバルとしてはすっかりお馴染みになった「FBS杯高校サッカーチャンピオン大会」が開催された。今年で8回目を迎えたこの大会は、福岡県新人大会と九州高校新人大会の実績で選抜されたチームと、全国大会の実績を元に選考された合計16チームが参加。予選リンク戦を経て、各ブロックの上位チームによる決勝トーナメントを行なうというもの。決勝戦は地元TV局で放送されるなど、規模も内容も本格的なもので、高校サッカー最大のフェスティバルとして高い注目を集めている。

 九州代表として参加するのは、東海第五、筑陽学園、佐賀学園、国見高校、大分鶴崎、日章学園、鹿児島実業の7チーム。それに加えて、青森山田、市立船橋、前橋商業、武南高校、清水市商業、草津東、大阪朝鮮校、明徳義塾らの高校サッカーフリークにはお馴染みの高校が参加する。そして、第3回大会から参加している韓国代表チームとして、今年は光陽製鐵高校が参加している。

 大会は、まずは4チーム・4ブロックに分かれて予選リンクを実施。それぞれの上位2チームが決勝トーナメントに出場して優勝を争う。試合時間は60分。3位決定戦、ならびに決勝戦だけは70分で行なわれることになっている。会場は、福岡市を中心に6会場を利用。準決勝からは、Jリーグファンにはすっかりお馴染みになった博多の森球技場が使用され、今年は国見高校、光陽製鐵高校、日章学園、大分鶴崎の4校が駒を進めてきた。



 準決勝第1試合は、国見高校と光陽製鐵高校の顔合わせ。事実上の決勝戦とも言える対戦だ。国見のスタイルはすっかりお馴染み。堅固な守備で相手の攻撃を防ぎ、中盤では激しくプレッシャーをかけて全員で前に押し上げる。そしてボールを奪うと素早く前線のスペースにボールを供給。スピードのあるFWがゴールを狙う。一方の光陽製鐵高校はフィジカルにものを言わせたパワーサッカーが信条。どんどんボールを前へ放り込み、ゴール前に3人、4人と詰めていく攻撃には、同じ高校生とは思えない迫力がある。

 試合は6分に光陽製鐵高校が先制。国見DFのペナルティエリア内でのパスミスを拾ったムン・リンウン選手が豪快に蹴りこんだ。その後はともに決め手に欠き、結局、この1点が決勝戦となって光陽製鐵高校が決勝戦進出を果たした。結果的には国見高校のミスが勝負を決した形となったのだが、試合は、60分を通して光陽製鐵高校のペース。フィジカルの強さを誇る国見高校を上回るフィジカルとパワーは、さすが韓国と思わせるものだった。

 第2試合は、日章学園と大分鶴崎の九州勢同士の対戦。日章学園はサイド攻撃が主体のチームで、中盤の底でワンボランチの井上選手が攻守の起点となりボールを両サイドに散らす。一方の大分鶴崎は、1トップの木崎選手にボールを当てて、落としたボールを2列目の阿部選手、甲斐選手、平川選手が飛び出してゴールを狙うというスタイル。実力的に拮抗する両チームは、互いに主導権を譲らず、しばらく膠着状態が続いている。

 先制点は22分、日章学園が相手のファールで得たPKを確実に決めた。その後は日章学園ペースで試合が進んでいく。そんな展開も後半の9分、ゴール前の混戦から大分鶴崎が同点に追いつくと、今度は大分鶴崎がペースを握る。前へ前へと出て行く大分鶴崎の前に、日章学園は得意のサイド攻撃を完全に封じ込まれてしまった。しかし、ともに決勝点を奪うことが出来ずに決着はPK戦に。そして、5−3でPK戦を制した大分鶴崎が光陽製鐵高校と優勝をかけて争うことになった。



 決勝戦は4月1日、春らしい穏やかな天候の中で行なわれた。韓国代表として参加してる光陽製鐵高校は、昨年行なわれた第33回大統領金杯全国高校サッカー大会、第55回全国高校サッカー選手権大会で、ともに準優勝を飾ったチーム。対する大分鶴崎はFBS杯には初出場。九州高校新人大会ベスト8の実績が評価されて選抜された。チームの信条は「全員攻撃・全員守備」。ショートパスをつなぐ組織サッカーが持ち味だ。

 「フィジカルとパワー」対「ショートパスをつなぐ組織サッカー」。まるで、日韓のフル代表同士の対戦のようなシチュエーションになった決勝戦は、日韓対決にふさわしい白熱したものになった。これまで以上の迫力でボールを放り込み、チャンスと見るや前線に3人、4人と飛び出してくる光陽製鐵高校。組織で守り、チャンスと見るやパスをつないでチャンスを作り出す大分鶴崎。両チームとも一歩も譲らぬ展開が続いている。

 しかし、大分鶴崎がフィジカルの強さに押され始めた31分、一瞬DFの足が止まりシュートコースが空く。その隙を見逃さず、ムン・ソンウン選手が先制点を叩き出した。更に続く33分、大分DFがクリアをしてラインを上げようとした瞬間、攻めあがっていたDFキム・ジュンが、このクリアボールをダイレクトでシュート。首藤選手の伸ばした手をかすめたボールは、鋭くドライブがかかってゴールに突き刺さった。

 あっという間の2得点。しかもフィジカルでは完全に押し込まれている。大分鶴崎に反撃の余地は内容に思われた。しかし、後半に入ると、個人技の高さと組織プレーで上回る大分鶴崎が反撃を開始する。そして後半の16分、DF吉竹選手がドリブルで攻めあがってチャンスを作ると、パスを受けたFW木崎選手がゴールをゲット。大分鶴崎が1点を返す。しかし、大分鶴崎の反撃もここまで。必死で追い上げたが、光陽製鐵高校の固いDFを最後まで破ることが出来ず、結局2−1で光陽製鐵高校が初優勝を飾った。



 光陽製鐵高校の攻撃はロングパスをどんどん放り込んでくるだけのものだったが、フィジカルの強さに裏打ちされたその迫力は、わかっていても容易に止めることは出来なかった。ロングボール主体というと単調な攻撃を連想しがちだが、ここまで迫力があると、これはもう立派な戦術だ。しかも、ただ放り込むだけではなく、攻めあがる時はペナルティエリア内に3人も4人も詰めているのだ。韓国パワーの底力を見せ付けられて感じだった。

 一方、破れたとは言え大分鶴崎も堂々と互角の戦いを演じて見せた。光陽製鐵高校と比較すればフィジカルでは劣っていたが、個人技の高さと組織力では明らかに上。1対1の局面では光陽製鐵高校の選手を個人技で翻弄するシーンも随所に見られた。この試合では破れたが、チームとしてみた場合、その実力はほぼ互角だったように思う。ただ、もう少しシンプルにボールを運ぶことが出来ればまた違った展開もあったかもしれない。

 しかし、サッカーというものは「国民性が表れる」とよく言われるが、今日の試合はまさにそれを実感することになった。どちらが優れているとか、どちらのほうが世界で通用するとかいう問題ではない。韓国はああいうスタイルなのだし、日本もまたこういうスタイルなのだ。その証拠に、日韓のサッカーの歴史を紐解くと、もう50年も昔から、ショートパスをつなぐ日本と、フィジカルとパワーの韓国というサッカーを展開している。

 時代が移り変わり、多少の変化はあっても根本的なところは変わらない。それは生まれ育った環境や、ものの考え方が、結局はその国のサッカーに大きな影響を与えるということなのだろう。数年前に日韓の国会議員同士の試合を取材する機会に恵まれたことがあったが、その時でさえ、ショートパスをつなぐ日本と、フィジカルの韓国という図式は変わっていなかった。それぞれのスタイルに欠点も長所もある。しかし、それぞれのスタイルを貫きながら戦うのがサッカーの面白さなのだろう。


キ・ヨンオク監督(光陽製鐵高校)インタビュー



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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