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 福岡通信 01/04/27 (金) <前へ次へindexへ>

 目指すは全国大会。第12回九州クラブユースサッカー選手権大会


 文/中倉一志
 週末になると身体がうずく。せっかくの休日なのだから、たまにはゆっくりと身体でも休ませればいいものをと自分でも思うのだが、どうにも、はやる気持ちを抑えきれない。8年前、Jリーグが華々しく開幕した時から、1年を通して土曜日と言えば必ずどこかのスタジアムに通うようになった。当時は、毎週1回、プロサッカーが見られるだけで感激していたものだが、人間というのは欲張りなもの。見れば見るほど、もっとサッカーが見たくなってしまう。

 代表の試合はもちろん、興味の対象はJ2、JFL、大学、高校、等々、どんどんと広がっていく。そしてこれがまた面白い。トップレベルの試合と比較すれば技術的にも、戦術的にも劣っているが、そこはサッカー。どんなカテゴリーでも魅力は一杯だ。こうなってくると、後は麻薬みたいなもの。「週末=サッカー」という図式は完全に頭の中にインプットされ、とにかくサッカーを求めてスタジアムを歩き回るようになってしまった。

 4月22日、スケジュール表を片手にやってきたのは、すっかり馴染みになった鳥栖スタジアム。さすがにスタンドは閑散としているが、私と同じようにサッカーの魔力に取り付かれた人たちが、スタンドからピッチの上に熱い視線を注いでいる。この日は、第12回九州クラブユースサッカー選手権大会の開幕日。上位3位までに与えられる「第25回日本クラブユース選手権大会」の出場権獲得を目指して熱い戦いの火蓋が切って落とされた。

 大会形式は1回戦総当りのリーグ戦。延長戦は行なわず、勝ち点の合計で順位が争われる。参加チームは、アビスパ福岡U−18、サガン鳥栖U−18、大分トリニータU−18らJリーグの下部組織と、ブレイズ熊本U−18、福岡春日イーグルスFC、わかばFC、志免FC・U−18の合計7チーム。実力的にはアビスパ福岡がやや抜けていると思われるが、後は横一線。どこのチームにも全国大会出場のチャンスがあり、目の離せない戦いが続く。



 さて、開幕戦で戦ったのは、ブレイズ熊本と春日イーグルス。昨年、全国大会に出場したブレイズ熊本は縦に速い攻撃が持ち味。中盤で時間をかけず、前方のスペースへボールを蹴って、そこへスピードを生かして前線の選手が走りこんでいくのがチームスタイルのようだ。対する春日イーグルスは、ブレイズ熊本とは対照的にパスをつないで組み立てていくチーム。中盤をしっかり作って、全員でビルドアップしながら攻撃を組み立てている。

 対照的なチーム同士の対戦となった開幕戦だったが、この試合では春日イーグルスの志向する質の高いサッカーが目を引いた。前線の選手は惜しみなくチェイシングを繰り返し、DFラインもしっかりと押し上げてコンパクトなゾーンを崩さない。そして少ないタッチのショートパスと、効果的なサイドチェンジを織り交ぜてピッチ全体にボールを散らす。マイボールに対するサポートの意識も徹底しており、ボールに2人、3人と絡んでいく。

 また、一見小柄に見える選手が多いのだが、器用に身体を入れて相手からボールを奪い、攻守の切り替えの速いサッカーを志向していた。ただ残念だったのはミスが多いこと。何度もいい形で相手を崩しながらもパスミスから相手のカウンターを許したり、完全にサイドを破っても、ラストパスが通らずゴールに結び付けられなかった。チーム戦術という点では明らかにブレイズ熊本を上回っていただけに、今後はこの辺りが課題になるのだろう。

 そして、サッカーでは必ずしも内容のいいほうが勝つとは限らないが、この試合はその見本のような結果になった。32分、ブレイズ熊本のFWが縦のロングパス1本で抜け出したところを、春日イーグルスがペナルティエリア内で思わずファール。ブレイズ熊本はこれで得たPKを確実に決めて、後半の春日イーグルスの猛攻を凌いで逃げきった。組織的なサッカーで試合の主導権を握っていた春日イーグルスにとっては、悔やまれる敗戦だった。



 続く第2試合では、ホームのサガン鳥栖が出場。わかばFCと対戦した。互いに攻撃の意識が高い両チームは、試合開始早々から激しくぶつかり合い、がむしゃらにゴールを目指す。とにかく、縦へ、縦へと突進していく。お互いにゴールに向かおうとする意識が強いあまりに、横パスやビルドアップのためのパスはほとんど見られず、マイボールを前に蹴って前線の選手を走らせるといった展開が続き、ややドタバタした感がぬぐえない。

 開幕戦と比較すると、両チームともに技術的にやや劣るところがあり、また、とにかく前に走るというサッカーは戦術的にも劣るようにも思われた。しかし、そういった課題を払拭してしまうほど、両チームのゴールを目指す意識は強烈だった。とにかくすさまじいまでの気迫でボールを前に運ぶのだ。いや、正確に言えば、ボールを持った選手が「俺が決めるんだ」と言わんばかりにドリブルで突っかけていく。その傾向は、特にサガン鳥栖に顕著なようだ。

 とにかく前へめがけて進む。恐らく、中盤で貯めるなどと言うことは眼中にないのだろう。ボールを奪ったらすぐさま前へ。そして前で受けたら近くの味方の力を借りずにドリブルでゴールに向かう。奪われても、失敗しても、その姿勢は崩さない。少しばかりサッカーを知っている人なら、「これでは戦術がない」と言うだろうが、これだけ徹底すれば、それは立派な戦術。相手もさぞかしやりづらいに違いない。実際、ゲームはサガン鳥栖が主導権を握っていた。

 そして後半の3分。DFに当たってこぼれたシュートを拾ったサガン鳥栖は、再びこれを蹴りこんで先制。そして、最後まで前に出つづけて大事な初戦で勝ち点3を獲得した。「もっと器用なやり方があるだろう」と指摘される方もいらっしゃるだろう。確かに、味方さえも無視してドリブルで突進するのは、組織として考えたらマイナスなのかもしれない。しかし、組織も戦術も大事な要素だが、それよりもなによりも、とにかくゴールを決めるという意識が大切だということを感じずにはいられないゲームだった。



 ところで、高校年代では全国でもトップレベルであることが知られている九州だが、残念ながら、クラブチームのユース年代では中々好成績が上げられずにいる。昨年は、アビスパ福岡、ブレイズ熊本、わかばFCが全国大会に駒を進めたが、アビスパ福岡が2分1敗に終わったのをはじめ、いずれも勝ち星を挙げられずに予選リーグで敗退した強化という点だけでみれば、まだまだ発展途上と言える。

 しかし、この日の春日イーグルスのように、クラブチームらしい技術と戦術を持つチームも現れ始めており、これからの活動に寄せられる期待は大きい。九州には、Jリーグに所属するチームが3つもあるが、それらのチームで、このような地元九州のクラブチームから育った選手が活躍すれば、これほど地元サッカーファンにとって嬉しいことはない。

 そしてまた、若者がスポーツに触れることができる環境作り、スポーツの素晴らしさを知る機会を与えると言う意味でも、クラブチームの存在は、これからもっと重要視されることだろう。サッカーは11人でプレーすると言う性格上、学校教育の場だけでプレーしていては、出場機会はおのずと限られてくる。強いチームを作ることも大事だが、スポーツの持つ素晴らしさを体験する場を提供することが何よりも大事だということを忘れてはならない。

 さて、洗練されたパスサッカーを志向する春日イーグルス。とにかく、ゴールに対する欲求を前面に押し出して試合を進めるサガン鳥栖。また、この日は自分たちの特徴を出し切れなかったブレイズ熊本と、わかばFCも、今日の試合が今シーズンの公式戦の開幕戦。これから始まる1ヵ月半に渡るリーグ戦では、また違った面も見せてくれるはずだ。これから完成度を増していく7チームが、どんなチームに成長していくかを追いかけるのも、ユースチームを観戦する楽しみのひとつだ。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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