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 福岡通信 01/05/04 (金) <前へ次へindexへ>

 50年後のワールドカップ王者への挑戦 RoboCup Japan Open 2001


 文/中倉一志
 「50年後、人間のサッカーワールドカップ王者に勝つことを目指して、熱い戦いが始まる」。そんなキャッチフレーズのもと、「RoboCup Japan Open 2001 in 福岡」が4月28日〜30日の日程で、福岡工業大学FITアリーナで開催された。「RoboCup(以下、ロボカップ)」とは、ロボットによるサッカーの大会のこと。以前、TVでロボカップの世界大会が紹介されたこともあるので、読者のみなさんの中には、ご存知の方も少なくはないだろう。

 ロボカップは1993年、工学博士である北野宏明氏(ロボカップ国際委員会委員長)、浅田稔氏(ロボカップJapan日本委員会会長・大阪大学教授)ら、日本の若手研究者グループによって構想されたもので、1997年8月に第1回世界大会が名古屋で開催された。国内大会であるJapan Cupの開催は1998年から。日韓W杯が開催される2002年には、人間のW杯同様、福岡と釜山が連携し、「第5回ロボカップ世界大会」が開催される予定だ。

 その目的は、自律移動ロボットにサッカーをさせることによって、ロボット工学や人工知能、あるいは、技術開発の過程で生まれてくる新素材等の研究を推進し、それらの技術を様々な場面に転用すること。例えば、完全自立型ロボットの開発は、二次災害が予想される危険な場所での災害救助等に活かされるだろうし、人間と一緒にプレーできるほどの柔らかな皮膚や骨格は、福祉の面でもロボットが活躍できる可能性を生むことになる。

 「サッカーを選んだのは、比較的ルールが簡単だから。例えば1台でもボールをゴールに入れたらサッカー。それに、段階的に難しくしていけるスポーツ。そしてサッカーという限られた場面での開発を突破口にしたい」とは浅田稔氏。サッカーができるロボットを作るということは、そのロボットが人と接するいろいろな場面に対応できるということ。それをフィードバックして研究を進め、一般の人たちと夢を共有したいと語ってくれた。



 さて、ロボカップは現在5つのカテゴリーに分類されている。卓球台とほぼ同じ大きさのフィールドで、直径18cm以内の大きさのロボット5台以内がゴルフボールをサッカーボールに見立てて行なう「小型リーグ」。卓球台9枚のフィールドを、直径50cm以内のロボット4台が動き回る「中型リーグ」。ボールは4号球を使用する。そして、一番古くから存在するのが、コンピュータ上に設営した仮想フィールドでソフトウェアのプレイヤーがサッカーをする「シミュレーション・リーグ」だ。

 最も観客の人気を集めていたのが「四脚ロボットリーグ」。エンターテインメントロボット「AIBO」が3対3でプレーするサッカーで、それぞれのチームが開発したソフトウェアを読み込ませ、テニスボールほどのゴムボールを使ってゴールを狙う。ボールを捜すために頭をしきりに動かすしぐさや、突然逆立ちをしだしたりする愛くるしい姿は、特に小さな子供たちの人気の的。サッカーそのものよりも、その姿が人気を集めている。

 そして、「ロボカップレスキュー」。コンピューター上の仮想空間の中に実在する町を再現し、大規模災害の救助活動をシミュレーションするもの。被害規模をどれだけ最小限に抑えることができるかを競い合う。また、これらのロボット開発を担う時代の世代を育成することを目的として行なわれているのが「ロボカップ・ジュニア」。ロボットの設計、製作を通じて子供達の好奇心や探究心を引き出し、子供たちは次世代のリーダーとなるための基礎を学んでいる。

 1997年に行なわれた第1回世界大会の出場チームは中型5チーム、小型4チーム、シミュレーションが15〜16チーム程度だったのだが、このプロジェクトに賛同する研究者は爆発的に増えつづけ、現在では35カ国以上、数千人の研究者と学生が参加する草の根ネットワーク型の国際共同プロジェクトにまで発展している。このJapan Cupにも58チームが参加。ボールを認識することさえやっとだったロボットは、いまやパスどころか、戦略的にプレーすることができるようになっている。



 いろいろとお話を伺ったのだが、視覚の確保に様々な工夫が凝らされているのが興味深かった。小型ロボットの視覚の確保はグローバルビジョンと呼ばれるものを使用。これは、フィールドの頭上にカメラを設置してフィールド全体を捉え、その映像をロボットが下から覗き見るというもの。しかし、人間のように瞬時に判別することは難しいらしく、しばしばボールを見失い、目標物を無くしたロボットが止まってしまうことも多かった。

 また、中型ロボットはローカルビジョンを採用。これはロボットそのものにカメラが備え付けられたものであるが、いかんせん、カメラのレンズが捕らえられる視界は非常に狭い。そこで開発されたのが全方位視覚。ロボットの頭の部分にキノコのような棒が付いているのだが、そのてっぺんに円錐状の鏡がついており、これを下からカメラが覗くというもの。鏡に反射した映像を捉えるわけだが、360度の視覚が得られる仕組みになっている。

 しかし、実際のプレーのスピードに画像処理がついていかないため、現在のロボットは相手やゴール、ボール等を物体として認識するのではなく、それぞれの色で識別するようにされているそうだ。そのため、ボールはオレンジ色、ゴールはブルーとイエロー、ロボット本体は黒で統一されている。普段何気なくものを見ている我々だが、人間の視覚というものはすごいものなんだなあと、改めて感じさせられた。

 そして、もうひとつ工夫が凝らされていたのが移動の方法。通常タイヤのついた物体は、前後にはスムーズに移動できるが、横へ移動しようとしたら一度切り返すしかないが、サッカーは様々な方向へ動く必要があり、これでは非常に都合が悪い。そこで工夫を凝らして、どんな方向にもすぐに移動できるようにされていた。その方法は様々だが、こうした方法は、例えば車椅子の移動方法にも取り入れることができるそうだ。



 ロボットとは言っても、みんな四角い形をした箱型の物体。「中々思うようには動きませんよ」と言われたが、確かに止まっていることが多く、予想していたほどスムーズには動いてはいなかった。しかし、会場で流していた昨年の世界大会のビデオを見てビックリ。箱型の物体が、パスワークを駆使して相手ゴールを狙う映像が流れていたからだ。中には、ジュビロ磐田よろしく、相手を翻弄しているチームもある。これは、来年の世界大会を見に行かないわけにはいかないかもしれない。

 さて、浅田稔氏が最後にこんなことを語ってくれた。「ロボカップで一番良かったというのは学生さんじゃないですか。我々は研究と言うけれど、学生たちはしんどいですけれど作って喜んで、海外に行って、海外で同じ世代の人たちとディスカッションして、いろいろな情報を得てくる。そういう意味では、非常に教育的効果は大きいと思います。ロボカップ・ジュニアもそのためにやっていますから」

 そして、こう続けてくれた。「(ロボットを作るということは)問題解決も入っているし、何より我慢を覚える。プログラミングなら、また明日っていうことになりますけど、ロボットだったら動くまでやりますから。それに、チームワークでやるのでお互いの役割分担ができる。そして互いにカバーしあう。人間形成にぴったりですよ」。なんだか、この話を聞いていたら、本当のサッカーと同じだなと思えてきた。

 当初は幼稚園のサッカーのように、敵、味方の区別なくボールに群がっていただけのロボカップは、いまではパスを交換するまでになっている。そして、来年の世界大会からは、いよいよ2足歩行のヒューマノイドによるリーグ戦も開催されるそうだ。どこまで進化するんだろう。子供の頃、「鉄腕アトム」の活躍に一喜一憂した世代の人間としては、とても興味のそそられる大会だった。

 サッカーの話のような、ロボットの話のような、奇妙なコラムになってしまったが、サッカーという名前さえつけば何でも見るのが私のモットー。それに免じて許していただければ幸いです。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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