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 福岡通信 01/02/25 (金) <前へ次へindexへ>

 これぞサッカー劇場 〜カシマサッカースタジアム


 文/中倉一志
 サッカーの試合の主役と言えばピッチの上の選手たち。このことに異論をはさまれる方はいらっしゃらないだろう。選手個々の高度なテクニックはもちろん、11人が織り成す組織プレーの妙や、ひたすらゴールを追い求めるアグレッシブな姿勢は、我々をサッカーの虜にして離さない。そして、そうした一つ一つの積み重ねの末に生まれるゴールは、その過程が美しければ美しいほど、激しければ激しいほど、我々に大きな喜びを与えてくれる。

 そしてもうひとつ、サッカーの試合を盛り上げる重要なファクターを担っているのがスタジアムだ。スポーツを楽しむ上では、プレーを繰り広げる選手たちと時間と空間を共有することが欠かせない要素であるが、必要以上にピッチとスタンドが離れていたり、ボールや選手たちの位置がわかりづらいようなスタジアムでは、サッカーの楽しみも半減してしまうものだ。もちろん、まぶしいほどに青々とした芝生も欠かせないもののひとつだ。

 そういう観点から見ると、カシマサッカースタジアムは間違いなく日本で有数のスタジアムだった。収容人数15,810人。その規模は、決して大きなスタジアムに分類されるものではなかったが、ピッチとの距離感を感じさせないスタンド、絨毯のような芝、全席背もたれ付きの完全独立シート、そしてスタンドを覆う屋根は、まさしく日本で1、2を争うスタジアムだった。そのスタジアムが、2002年W杯のために大きくグレードアップした。

 福岡からは少々(?)遠い気がしないわけでもなかったが、サッカーフリークの1人として、どうしても、その「柿落とし」を見たいという欲求には勝てなかった。少しばかり寂しい懐が気になったが、人生には何事にも優先して行なわなければならないこともある(ちょっと、大げさかもしれないが・・・)。気が付けば飛行機の中。行き先は、もちろんカシマサッカースタジアムだ。果たして、どんなスタジアムになっているのだろう。



 羽田駅から山手線に乗り換えて東京駅へ。そして「鹿島神宮行き」の高速バス乗り場へと急ぐ。まだ午前10時を回ったばかりだが、既に長蛇の列が出来ていた。誰もが同じ気持ちのようだ。結局、混雑のため1台をやり過ごして次のバスに乗り込む。はやる気持ちを抑えながらバスに揺られること約2時間で鹿島神宮駅に到着。そこからタクシーを利用してスタジアムに向かう。運転手さんと軽口を交わしているうちにスタジアムが見えてきた。

 「でかい」、これが第一印象だった。それもそのはず。総敷地面積107,000uは改修前の約2.7倍に当たり、なんと国立霞ヶ丘競技場よりも約1.4倍もあるのだ。そして、流線型の屋根に象徴されるように丸みを帯びた外観も目を引いた。飾り気のない直線的に建物で、何処か骨太な感じを醸し出していたスタジアムは、改修によって、優雅で都会的な感じを漂わせるスタジアムに変貌していた。それが、周辺の緑と調和されて優しげな雰囲気が感じられる。

 さて、受付を通って階段を上り、いよいよスタンドに足を踏み入れる。すると、目の前に緑の絨毯が飛び込んできた。実に見事な芝だ。以前からカシマスタジアムは芝の美しさに定評があったが、ここの美しさは際立っている。聞いた話によると、屋根がついている影響でピッチの場所によって日の当たり具合が均一ではないため、何種類課の芝を使い分けて、緑を均一に保つように工夫がされているのだそうだ。

 そして、そのピッチを壁のようなスタンドが囲みこんでいる。ただでさえピッチとスタンドが近いのに加え、29度の傾斜をつけたスタンドはピッチとの距離を感じさせなかったのだが、2層式に改修された上段のスタンドの傾斜角度は33度。広くなったにもかかわらず全く距離を感じさせない。すぐそこにピッチがあるような錯覚に襲われるほどだ。まるで、すぐ目の前で試合をやっているかのような臨場感が味わえる。



 次にピッチにも降りてみた。スタンドを見上げるとその迫力は更に増す。スタンドから見下ろす以上に壁で囲まれているような感じに襲われるのだ。しかも、スタンドから見る以上に距離感はなく、スタンドの隅々までが見えるようだ。鹿島アントラーズの選手たちにとっては41,800人とともに一体になって戦っている気分になれるはずだが、対戦チームはたまったものじゃない。大きく聳え立つ壁に押しつぶされるようなプレッシャーを感じるはずだ。

 実際に試合が始まってみると、この壁のようなスタンドがアントラーズを大きく後押しする。ゴール裏のサポーターに声援が壁に反射して、更に大きな声援となってピッチに降り注ぐのだ。もちろん、その大声援は観客をも包み込み、そして、その歓声に自分が同化していくような気分に襲われる。8年前の5月15日、国立競技場を包み込んだ、あの大歓声が蘇ってくる。これはもう、サッカーフリークにはたまらない雰囲気だ。

 もちろん、スタンドを埋め尽くす観客のほとんどはアントラーズサポーター。アントラーズのチャンスになると、その声援は更に大きくなる。そして、この日の対戦相手である柏レイソルが得点を挙げると、まるで水を打ったような静寂が襲う。このギャップがまた凄い。そのあまりの落差に、まるでレイソルが悪いことをしたようにさえ感じるのだ。もっとも、アントラーズサポーターにとっては嬉しいことであるはずはないのだが・・・。

 アントラーズのチャンスには、アントラーズイレブンと、四方を囲む壁が自分たちにプレッシャーをかけてくる。その一方で、自分たちが得点しても、何か悪いことをしているかのように冷ややかな視線が送られる。しかも、すぐそばからだ。これは、どう考えてみたって、アントラーズが圧倒的に有利だ。でも、それがサッカーなのだ。地元のチームを地元が総出で応援する。そしてチームと一体化してサッカーを楽しむ。新装カシマサッカースタジアムは、そんなサッカーの醍醐味を味わえるスタジアムだ。



 「今日来てピッチに足を踏み入れる前にですね、絨毯かと思ったほど、それほど素晴らしいかったです。やっぱり、こういうのは世界でも見たことがないですよね、こんなに素晴らしい・・・。上から見たらどんなに素晴らしいかと思いますけれど、本当に心からそう思います」。スタジアムの感想を聞かれたトニーニョ・セレーゾ監督は、こう答えた。そして続けた。「現役を退いて数年経っていますけれど、戻りたいなと本気で今日は思いました」

 このスタジアムの素晴らしさを言葉で表現するのは難しいが、とにかく素晴らしいの一言だった。スタンドはピッチに近いだけではなく、目の前をさえぎるものは何もなく、前の席に座っている人の頭が気になることもない。スタンドを拡張したため、今まで雨に濡れずに済んでいた1階席が雨に濡れてしまうようになったことが欠点と言えば欠点だが、そんなことを差し引いてもお釣りが来る。サッカー劇場という言葉は、このスタジアムにこそふさわしい。

 また、スタンドの外側の通路にも配慮が為されているのもいい。とにかく広くて、大観衆も気にならない。そして、周りはベンチになっており、座ってくつろげるように工夫が凝らされている。加えて、スタジアムの周辺は緑で囲まれており、スタジアムから眺めると実に素晴らしい景観が楽しめる。収容人数が一気に約2.6倍にもなったため、交通アクセスの整備が必要とされているが、それも順次整備される計画にあり、いずれは問題もなくなるだろう。

 今回のスタジアムの改修費用は約200億円。最初の建設費用が45億くらいだったと記憶しているので、総費用で250億円近いお金をつぎ込んだことになる。しかし、このスタジアムを誇りに思い、そして2週間に一度、地元に人たちが一体となって、世界に通用するスタジアムで「俺が町のチーム」に声援を送ることができる。これは、お金には換算できない素晴らしいこと。そんなスタジアムを持っている鹿島市の人たちが本当にうらやましくなった。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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