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 福岡通信 01/06/01 (金) <前へ次へindexへ>

 天空を見上げる大きな瞳。ビッグアイ、オープン!!


 文/中倉一志
 大分駅からシャトルバスをに乗り込んで約20分。市街地を抜けバスは山の中へと入っていく。深い森を抜け、渓谷を渡り、山の頂上にやってくると、緑に囲まれた自然のど真ん中に大きな円形の屋根が見えてくる。大分スポーツ公園総合競技場、通称「ビッグアイ」だ。随分遠くにあると聞いてはいたが、まさか山の頂上にあるとは思わなかった。しかし、そんなことよりも驚いたのは、このビッグアイを中心とするスポーツ公園の広大さだ。

 実はビッグアイは、大分県が開発を進める「大分スポーツ公園(大分スポパーク21)」のメインスタジアムとして建設されたもの。この公園全体には、ビッグアイの他に、4面のサッカー・ラグビー場、野球場、多目的グラウンド、テニスコート、プール、体育館、サブ競技場、更には宿泊・研修センターまで備えられる予定で、山ひとつを丸ごと公園にしたようなものだ。実にその広さは255ha。これは国立競技場34個分の広さに相当する。

 公園全てが完成する時期は、現段階ではハッキリとはしていないが、W杯開催までの第1期にビッグアイの他にサッカー・ラグビー場2面が完成。この第1期工事だけで約500億円を投じる(うち、ビッグアイは約250億円)。その後、2008年の国体開催までに、総合体育館、テニスコート、サブ競技場、投てき練習場等を完成させ、国体以降の第3期工事では、宿泊・研修センター、ゲートボール場、クロスカントリーコースなどを整備する予定になっている。

 もちろん、目指すものも大きい。「大分スポーツ公園」の基本理念は「健やかで活力を高める県民総スポーツの振興」。公園全体を3つのエリアに区分し、「街のスポーツエリア」では様々なスポーツアスリートが自己の限界に挑戦できる環境を用意し、「野のスポーツエリア」では、誰もが広大にフィールドで気軽にスポーツに親しめる環境作りを目指す。そして「森のスポーツエリア」は、緑あふれる自然環境の中で生き生きと活動できるアウトドアライフゾーンになる。



 そして、古くから里山として親しまれているこの地域の開発に当たって、最も気が配られているのが自然環境の保護だ。最終的に公園の63%が緑地として残されるのだが、そのため、各施設の建設予定地にある既存の樹木を、根ごと、しかも周辺の微生物や植物と一緒に移植したり、この山で採取した80種類もの種を育てて出来た苗を植樹したりする方法が取られている。

 また、この地域は環境庁のレッドデータブックにある絶滅危惧第2種に該当する「オオイタサンショウウオ」の生息地。この貴重な生物の産卵や繁殖行動を手助けするために、公園内に16箇所の保護観察池を作り定期的に観察している。こうして作られるスポーツ公園は、まさしく森の中のスポーツ公園。ビッグアイのプロモーションビデオでは、2人の子供が森林を掻き分けてくると、突然、目の前に巨大なドームが現れるシーンが盛り込まれているが、完成した暁には、まさにそんなスポーツ公園になるはずだ。

 こうした理念に基づいて作られたビッグアイは、その大きさに反して、実に柔らかな印象を与えてくれる。スタジアムと言うよりは野外ステージ、そんな印象なのだ。スタンドと周辺広場は高さ3mほどの金網で区別はされているものの、基本的にはスタジアムと周辺は地続き。スタンド後方の通路の半分は金網の内側になっているが、残り半分は外に出ており、広場と区別する段差さえもない。その境目のなさが、このスタジアムを優しく感じさせてくれるのだろう。

 またゴール裏は吹き抜けになっており、スタンドに座っていても、周辺の緑が目に飛び込んでくる。ピッチの上で繰り広げられる戦いは激しいものに違いないが、そんな戦いを母親が穏やかに見守っていてくれるような優しさが、このスタジアムにはある。ただ、その反面、W杯のことを考えた場合、ゴール裏の金網越しに試合が見えてしまうという問題点がある。そして、簡単に登れる3mほどの金網ではセキュリティ面で問題がありそうな気がしないわけでもないが・・・。



 さて、スタジアム内部も素晴らしいものだ。ここにも近代的な姿でありながら、何処か暖かな優しさが漂っている。それはゆったりと作られた空間のせいかもしれない。スタジアムの周りを囲む壁がないため、とても開放感を感じるのだ。また、車椅子専用観客席は、スタンドをぐるりと囲むように儲けられており、特定の場所ではなく好きな場所で観戦ができるようになっている。さらには、食堂のほか、ギャラリーも儲けられており、試合を待つ間もいろいろと楽しめる仕掛けが施してある。

 もちろん、近代的な設備もふんだんに取り入れられている。そのひとつがスカイカメラ。天井の梁に備え付けられたこのカメラは、ピッチの真上という新しいアングルからの映像を可能にしている。また、サッカー観戦では、陸上トラックがピッチとの距離感を感じさせてしまうものだが、ビッグアイでは、サッカー観戦時には可動式のスタンドがトラックの上にせり出し、ピッチとの距離感をなくしてくれる。スタンドの傾斜も距離感を感じさせない理由の一つだ。

 素晴らしいスタジアムはサッカー観戦を快適にし、そして、試合を盛り上げる大きな要素となるもの。オープニングマッチとなった大分vs.京都戦では、そんなことを改めて感じることが出来た。この日、スタジアムに訪れた観衆は29,226人。半数近くは招待客。また、「柿落とし」ということだけでやってきた観衆も多く、恐らく、サッカーをあまり見たことがない人たちが多かったはず。そんなせいか、最初のうちはスタンドには、それほど緊張感はなかった。

 しかも、試合そのものの展開が引き込まれるようなものではなく、初めて観戦にきた人たちが盛り上がるには、少々辛い試合だった。しかし、スタジアム内に反響するサポーターの声に刺激されてか、時間とともに、スタンドのあちこちから歓声が上がり始める。そして不器用ながらも必死で攻める大分イレブンに対して、スタンド全体から手拍子がなり始めた。そんな中、大分はリードを奪い、そして駄目押し点を決めた。スタンドと選手が一体になった瞬間だった。



 もちろん、問題点も多かった。やはり最大の懸案事項は芝。噂にたがわず、その状態はひどいものだった。スタンドの上部に設けられた記者席からでも、つぎはぎだらけであることは手に取るように分かる。そして、あちこちの枯れて茶色くなった芝が気になった。サッカーは緑のピッチの上でこそ、その素晴らしさを増す。全席を覆う屋根の影響で、芝が必要な日照時間を得られないらしいが、是非、本番までには絨毯のようにして欲しいものだ。

 そしてやはり、交通アクセスが気になる。今回は観客が30,000人を切っていたことや、その半分近くが、近隣地区の招待客であったことが影響して、シャトルバスでの運行に混乱はなく、当初予定していた時間よりも1時間も早く最終バスが出発したが、本番ではほとんどの人たちが遠くからやって来る。試合が終わってから2時間以上も待たされるようでは問題外だ。また、シャトルバスの発着所や駐車場が、スタジアムから遠すぎるのも気になる点だ。

 そして、W杯とは直接関係のないところでも少々気になる点があった。それは、試合前にオーロラビジョンに映し出されていた映像のこと。流れてくるのは、大分県でのW杯開催に関するものや、大分県紹介のビデオばかり。残念ながら、トリニータの映像は映し出されなかった。W杯はもちろん大切。しかし、同時に、ここはトリニータのホームスタジアムになるところ。せっかく見にきた観衆に、そのことをアピールして欲しかったと思う。

 大分でビッグイベントが行なわれたことがないということもあって、不慣れな点からの不行き届きもあったようだ。しかし、そんなことは言ってみても始まらない。とにかく、運営のテストを通して本番に備えなければならない。ただし、本番前までに3万人以上の観衆が訪れる機会は、いまのところキリンカップしかない。この機会をどうやって活かすかが大切になってくる。スタジアムは素晴らしいものができた。後は、どうやって運営し、使うかだけがポイントだ。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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