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 福岡通信 01/07/13 (金) <前へ次へindexへ>

 町のクラブチーム その1


 文/中倉一志
 授業を終えた小学生たちが、校庭や市営グラウンドでコーチがやってくるのを待つ。みんなの顔がそろえばトレーニングの始まりだ。誰もが楽しそうにボールを追う。暗くなってくると、今度はナイターで、Jrユース、ユースのトレーニングが始まる。サッカー強豪校への進学を夢見る選手。高円宮杯での活躍を夢見る選手。小さな頃から親しんだクラブでプレーすることを望む選手。目標は様々だが、どの顔も生き生きとして笑顔が絶えない。

 町のクラブチーム。プロになることを最大の目標にしているわけではない。ボールを蹴るのが好きで、仲間とボールを追いかけるのが好きで、トレーニング日が待ちきれずにグラウンドにやって来る、そんなサッカー好きの子供たちのチーム、それが「町のクラブチーム」だ。そうしたクラブチームの活動について紹介したいと思い、福岡では歴史のある福岡春日イーグルスFC(以下、春日イーグルスFC)の杉山活明コーチと、わかばFCの隈真一郎コーチにお話を伺った。

 春日イーグルスFCの歴史は20年を越える。そして、1988年には九州で初めてユースチームを誕生させた老舗のクラブでもある。ユースチームの監督を務める杉山コーチは静岡県出身。大学卒業後、5年間教員として教鞭を執った後、サッカーの指導に携わるため福岡へやってきて6年が過ぎた。今年の九州クラブユース選手権では7位に甘んじたが、杉山コーチが指導する本場静岡仕込みのスキルフルで創造性溢れるサッカーは魅力的だ。

 1990年、春日イーグルスFCについで、福岡では2番目にユースチームを立ち上げたのが、わかばFC。クラブとしての歴史は春日イーグルスFCを上回る25年を越える歴史を誇り、地域に密着したクラブチームという印象が強い。現在、ユースチームの監督として腕を振るう隈コーチは生粋の「わかば育ち」。小学生の時に、わかばFCに加入してから足掛け20年にわたってクラブに関わり続け、クラブチームに対する情熱は誰よりも熱い。



 両クラブとも規模はほぼ同程度。総勢500名を越えるというクラブ員は、小学生4年以下(U-10)、小学校6年生以下(U-12)、Jrユース(U-15)、ユース(U-18)の4つのカテゴリーに区分されて、それぞれトレーニングを行っている。最年少は春日イーグルスFCは1年生、わかばFCは幼児も受け入れているそうだ。人数構成は小学校4年生以下が最も多く、上位カテゴリーに行くほど人数が絞り込まれている。これは、学校のクラブ活動との兼ね合いもあるのだろう。

 小学校年代のトレーニングは巡回スクールのような形で行なわれている。曜日とグラウンドを決めて、そこへ訪問してサッカーを指導するというものだ。春日イーグルスFCは各学校の校庭を利用し、わかばFCでは市営グラウンドを練習場として利用している。また、同じ小学校年代でも、6年生以下(U-12)になると、学校単位ではなく、各地区毎にトレーニング場を設定し、そこへ子供たちを集めて週3回程度指導するという方法を取っている。

 Jrユース以降のカテゴリーのトレーニングは、基本的にはナイター。小学校年代のスクールが終わった後の19:00〜21:00位の時間帯が、トレーニング時間になる。トレーニング回数は平日2回と、土日の計4回というのが基本的なパターンだ。これらのトレーニングを、専属コーチ3人とクラブのOBや高校生年代の選手たちで行なうというのだから、指導者の方たちの情熱には驚かされる。職業とは言え、好きでなければやれないことだ。

 指導方針は「楽しくやる」こと。隈コーチは次のように語る。「町のクラブには、Jのクラブ(プロ選手育成型)に近いチームから、全然それとは違うクラブもあるけれど、一番大事にしたいのはサッカーを好きだということ。また明日もサッカーをしたいなと思うような、サッカーが楽しくて仕方がないということを大事にしたい。その中で、少しでも成績が良くなることを目指していますが、まずは、楽しくなければいけないと思います」



 この4つのカテゴリーの中で、クラブ運営の中で最も大きな比率を占め、そして最も難しいのがJrユースだそうだ。とにかく「サッカーを楽しむこと」を第一にするクラブにとっては、クラブ員全員が何らかの形で満足することが一番大切になる。しかし、中学校になると、学年毎のフィジカルの差が大きすぎるため、トレーニングや、練習試合などを学年に関係なく一緒にやるわけがいかなくなってくるのだそうだ。

 また、小学校年代では気にならなかった技術面での差が開き始めるのもこの頃。技術の高い子供と、そうでない子供が一緒にプレーした場合に、ともに楽しめなくなるという問題も出始める。そして、思春期に差し掛かるこの年代では、それぞれの子供たちの自我がやや強くなる傾向もある。加えて、卒業後、どこでサッカーを続けるかという大きな問題にも直面する。そのため、様々な面で十分なケアが必要となるこの年代に、スタッフを一番多く投じているのだそうだ。

 そして、もうひとつの大きな問題点として、中学校のクラブ活動との兼ね合いがある。日本のスポーツは、学校教育の場を通して行なわれたきたという、世界的に見れば極めて異例な形で発展してきたのだが、それが次第に壊れつつある。指導者不足という問題、少子化の問題の他、集団下校等の関係で校庭の利用が制限されているのに加え、かつてのように、教員が手弁当でスポーツを指導するという環境ではなくなってきている。このことは、子供たちからスポーツを行なう環境を奪いつつあることを意味している。

 もともと、学校教育の一環としてしかスポーツが行なわれていなかったということ自体が問題だったわけだが、それが顕著に表面に現れるようになったいま、スポーツが多くの人たちに親しまれるという本来の目的を果たすためには、クラブチームの持つ役割や責任というものが、益々大きくなってきている。こうした観点からも、この年代の指導体制の充実は、クラブに課せられた大きな課題でもある。



 こうした大きな課題に直面しているJrユース世代のサッカー環境だが、幸い、活動の場という意味では、福岡県は非常に恵まれている環境にあるのだそうだ。Jrユースの活動は福岡県を4つのブロックに分けて行なわれているのだが、昨年の実数で言えば、福岡地区で14、北九州地区5、筑豊地区6、筑後地区5の計30チームがJrユースチームとして活動を行なっており、今年の登録チームは更に増加している。福岡(市)地区に限って言えば、自転車なら20分程度のところにクラブが4〜5チームある勘定になる。

 また、中体連もクラブチームと連携する姿勢を見せている。九州地区の中体連の新人大会は九州大会が最後で全国大会につながっていないことから、この大会に限っては、参加資格を各クラブのJrユースまで拡大しようという計画が持ち上がっているそうだ。まだ様々な調整が必要な段階だというが、方向性としては、今後は互いの垣根をなくして活動していこうということで一致していると言う。

 活動の場所と、双方の協力体制により、Jrユース世代の選択肢は確実に拡大傾向にある。中学校で部活を続けるのか。クラブチームでサッカーをするのか。そして、どのクラブでプレーするのかという選択肢さえ出来つつある。かつては、クラブチームでトレーニングをするために、遠方からグラウンドに通い、帰宅は11:00を過ぎるということがあったそうだが、いまはそういう子供はいなくなったそうだ。

 現在、わかばFCでは、トレーニング場所を複数に分散し、ウィークデーは自宅から近い場所でトレーニングを、土日には全員で集合トレーニングをするという方式を取っている。そして、将来的には、各地区のトレーニング場を独立運営させて、更にプレーできる環境の充実に努めたいと語ってくれた。

 さて、様々な問題を抱えながらも、着実に発展しつつあるJrユース年代。解決すべき課題は多いと思われるが、間違いなくいい方向に進んでいるといっていいだろう。では、ユース年代のクラブと高校のかかわりはどうなっているのだろうか。来週は、その問題について、それぞれのクラブの考えを紹介したいと思う。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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