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 福岡通信 01/08/17 (金) <前へ次へindexへ>

 未来のスーパースターを夢見て


 文/中倉一志
 福岡県の空の玄関、福岡空港。そのすぐ東側に広大な丘陵地帯が広がる。正式名称は福岡県東平尾公園。福岡に住む人たちに「博多の森」の名で親しまれているスポーツ公園だ。この公園は、その名にふさわしく、自然のままの丘陵や池、樹林をそのまま取り入れたもの。面積94.4ヘクタールの敷地内には、おなじみの博多の森球技場他、大小さまざまなスポーツ施設が大きな森に囲まれるように設置され、福岡のスポーツの中心地になっている。

 福岡に住いを移してから2年と4ヶ月。一体何度この森に通ったことだろう。博多の森球技場の他にも、公園内には、素晴らしいピッチを備えた博多の森陸上競技場と、その付属施設である補助グラウンドがあり、毎週のように、何らかのサッカーの試合が行われている。そこで行なわれる試合は、ある時は冷徹なまでに勝者と敗者を区別するが、喜びも悲しみも、この森が暖かく包み込んでくれる。私が最も気に入っている場所のひとつだ。

 そして今日も、雄雄しくそびえる森の中を抜けて博多の森にやって来た。バスを降りて丘を登ること15分。森の頂上に博多の森陸上競技場補助グラウンドが見えてくる。8月5日のこの日、ここで第6回福岡県クラブジュニアユースサッカー1年生大会が行なわれている。先週に引き続き、猛暑に教われる福岡は朝から気温は30度を超しており、とてもサッカー日和とは言えないが、そんな中でも、中学生たちは元気にボールを追いかけ、ゴールを目指す。

 この大会の出場資格は中学校1年生であること。中学年代では学年毎のフィジカルに大きな違いがあること、まだフルコートのサッカーになれていないことなどから、1年生のうちからジュニアユース(U-15)のチームでレギュラーを取ることは難しい。しかし、サッカーは試合を通してしか分からないことも多い。そこで、試合を通して1年生の技術向上をはかることと、チーム相互の交流を目的として、この大会が行なわれている。



 現在、福岡県でクラブジュニアユースに登録しているチームは、福岡地区15、北九州地区6、筑豊地区7、筑後地区4の合計32チーム。それぞれの地区で予選を行なった後、12チームが福岡県大会に駒を進めてきた。試合時間は25分ハーフ。3チーム毎、4パートで予選リーグ戦を行い、各パートの1位チームがトーナメント方式で優勝を争う。今大会では、NEO、アビスパ福岡、小倉南FC、わかばFCが決勝トーナメントに進出してきた。

 準決勝の第1試合は、北九州地区代表のNEOと、今大会優勝候補筆頭に挙げられているアビスパ福岡の対戦。前評判通りの実力を見せるアビスパ福岡が主導権を握って、試合は進んでいく。圧倒的にボールを支配するアビスパ福岡は、NEO陣内で試合を進め、決して自陣にNEOの進出を許さない。結局、前半はNEOに1本のシュートも許さなかった。しかし、アビスパも決定力という面では物足りない。何回も決定機を作ったが、こちらも得点は生まれなかった。

 迎えた後半、やはり試合の主導権を握ったのはアビスパ福岡。しかし、前半同様、ボールを支配しながらも得点が生まれない。そして19分、NEOが縦1本のパスから、GKと1対1となるビッグチャンスを演出。これは、アビスパ福岡のGKのファインセーブで凌いだが、これで勢いづいたNEOが猛攻を開始。それまでとはうって変わって一進一退のゲーム展開となった。しかし、両チームともゴールは割れず勝負はPK戦へ。その結果、5−4でアビスパ福岡が決勝進出を決めた。

 両チームとも、まだ中学1年生ということもあって、戦術という点では物足りなさが残った。特に、その傾向はNEOに顕著で、ボールのそばに選手が集まりすぎて、ボールをパスしようにもパスが出来ず、必要以上にキープしてボールを奪われるシーンが目立っていたようだ。またアビスパも、ボールを回すのはいいのだが、縦への効果的なパスはあまり見られなかった。しかし、技術的な面では、それぞれに高いものを持っており、これからが楽しみな選手たちばかりだった。



 第2試合は小倉南FCとわかばFCの対戦。両チームとも安定したDFをベースに、そつのない戦い方をしているが、組織としてのまとまりを見せるわかばFCが試合の主導権を握っている。わかばFCの特徴は、互いのカバーリングとフォローの動き。この辺りが良く整備されていて、チームとして戦っているのが良く分かる。また、スペースの使い方も上手いようだ。しかし、ともに決定機を作ることが出来ず、前半は0−0のままで終了した。

 後半に入ると、わかばFCの運動量が落ちたところをついて小倉南FCがペースを握る。中盤での争いで有利に立ったことから反撃を開始した。一方のわかばFCも、5分過ぎから再び主導権を握り返す。しかし、ともに決定機を演出することが出来ず、やがて試合は膠着状態に。そして迎えた21分、左からのクロスボールに反応したわかばFCのFWがDFラインの裏側に飛び出して待望の先制点をゲット。結局これが決勝点になった。

 第1試合と比較すると、両チームとも組織で戦おうとする意識がうかがえた。特に、わかばFCは、チームとして戦う意識が高く、選手が移動した後のカバーリングや、ボールをキープしている選手に対するフォロー、そして、空いたスペースを使おうと言う意識が高かったように思う。それほど決定機を作ることが出来なかったといっても、彼らはまだ1年生。そこまで要求するのは高望みというものだろう。しかし、戦い方によっては、アビスパ福岡に一泡食わす可能性を感じさせるチームだった。



 さて決勝戦福岡県内のクラブチームでは、カテゴリーに拘わらず圧倒的な強さを誇るアビスパ福岡だが、今年はやや小粒の印象。そんなアビスパ福岡に対して、組織としてのまとまりを見せる、わかばFCが大健闘。試合は一進一退の攻防が続く。

 両チームの戦い方は実に対照的だ。オーソドックスな4−4−2システムを取るわかばFCは、準決勝同様、互いのカバーリングの良さと組織力を前面に打ち出して試合を進める。高い位置からチェイシングをかけ、空いたスペースを効果的にカバーし、そして奪ったボールをサイドに集めて攻撃を組み立てる。

 対するアビスパ福岡も基本のシステムは4−4−2。ただ、FWは1トップ気味で、トップ下に2人、オフェンシブなMFが左右に1人ずつ、ボランチは1人で対応している。技術的には高いものを見せるが、どちらかと言えば組織で戦う意識がやや低く、どうしても1人、1人のボールタッチが多い。攻撃も、どちらかと言うと中央に集まり気味だ。

 ともに互角に戦った前半は0−0。勝負は後半に持ち越されたが、さすがに後半は地力の差が出たのか、アビスパ福岡が圧倒的な攻勢を見せる。ボランチはもとより、後方からどんどん攻めあがり、わかばFCをゴール前に釘付けにする。しかし、わかばFCも必死のDFでこれを凌ぎ、結局試合は0−0で終了。勝敗の行方はPK戦に委ねられた。しかし、必死の守りで力が尽きたのか、わかばFCは1本しか決めることが出来ず、アビスパ福岡が、今大会2連覇を決めた。



 昨年も、この大会を見て感心したのだが、中学1年生とはいえ、それぞれの選手たちは、なかなか技術の高いものを見せてくれた。組織プレーという点では、まだまだ物足りないものもあるが、まだ彼らは中学1年生。これ以上のものを求めるのは酷というものだろう。これからフィジカルを鍛え、フルコートのサッカーに慣れることで、もっともっと質の高いサッカーができるようになるはず。彼らの成長が楽しみだ。

 猛暑の中、必死になってボールを追い、ゴールを目指した中学1年生たち。彼らの夢見る先はJリーガーか。そして代表チームに名を連ね、やがてはサッカーの本場、欧州でプレーすることだろうか。夢を実現するには、多くの壁が待っている。しかし、彼らの中に、必死になってボールを追ったこの日の記憶が残る限り、彼らは挑戦を続けだろう。そして、何時の日か、その夢を実現する時がやって来る。いつか、Jリーグの舞台で再会することを祈って、グラウンドを後にした。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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