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 福岡通信 01/09/14 (金) <前へ次へindexへ>

 AVISPOTが熱く燃えた日


 文/中倉一志
 J1 2nd stage第4節。この日、アビスパ福岡は日本列島を縦断して、札幌の厚別陸上競技場に乗り込んでいた。2nd stageの成績は、ここまで1勝2敗。呂比須、内藤、盧廷潤の加入で生まれ変わったかに思えたが、前節の柏戦ではホームで戦いながら2−5とまさかの大敗。とうとう年間順位を14位にまで下げた。そればかりか下位チームとの勝ち点差はC大阪と6、東京Vとは4。誰の目から見ても「お尻に火がついた」のは明らかだった。

 いても立ってもいられない。サポーターたちはそんな気持ちで一杯だった。そして、多くのサポーターが選手とともに厚別陸上競技場に乗り込んだ。恐らく真っ赤に染まるであろう厚別の地。2nd stageのコンサドーレ札幌が3連敗中であるとは言っても、アウェイでの戦いを意識させられる戦いは決して楽ではない。そんな重圧の中での戦う選手たちを後押しするため、そして、降格の危機を吹き飛ばすため、誰もがともに戦う気持ちでいた。

 もちろん、福岡に残るサポーターも思いは同じ。そんな仲間たちが、試合開始時間が近づくとともに、今年から設置されたアビスパ福岡の交流スペースに集まってきた。通称「AVISPOT(アビスポット)」と呼ばれるこの交流スペースは、アビスパ福岡の博多本社事務所の移転を機に事務所の隣に併設されたもので、アビスパ福岡を始めとするサッカー情報を提供するスペース。この日は札幌との試合をTV観戦できることになっていた。

 試合開始を待つ間、TV画面にはアビスパ福岡の歴史を綴ったビデオが流れている。思い出深い数々のゴールシーン。アビスパ福岡を支えてきた選手たちの顔。そして参入戦での山下の奇跡の同点ゴール。そのひとつ、ひとつがまるで昨日のことのように蘇ってくる。しかし、誰かが言った。「全部終わったこと。大切なのは今日の試合だ」。その通りだ。これまで築いてきた歴史を無駄にしないためには、今日の試合を勝つこと意外にはない。



 AVISPOT内だけに入りきれず、外の通路にまで溢れるサポーター。そんな大勢の目がTV画面に注がれる中、戦いのホイッスルが鳴る。AVISPOTはビルの地下1階の飲食店街の中。いつものように大声を出しながら応援するわけには行かない。誰もがじっと画面を凝視する。今日は勝ってくれるだろうか。いや、勝つに決まっている。ひとつ、ひとつのプレーのたびに期待と不安が交錯する。黙っている分だけ、緊張感は否が応でも高まってくる。

 しかし、立ち上がりの福岡は動きが鈍い。中盤を札幌に支配され、ボールを回されては振り回される。ボールを奪いに行っても簡単にかわされてしまい、押し込まれる時間帯が続く。危険な香りを漂わせるウィル。鋭いスピードで飛び出してくる播戸と山瀬。そして新加入のアダウトがドリブルで左サイドを切り裂いてくる。しかし、辛抱強く耐えた福岡は次第にペースを取り戻し、中払がGKと1対1になる絶好の決定機を作り出した。

 「よしっ!」。中払が右足を一閃したのと同時に思わず立ち上がる。しかし、GK佐藤がこれをファインセーブ。そして、26分にウィルに先制弾を浴びせられると、福岡に焦りの色が出始めた。全員が前がかりになってしまい中盤に人がいない。ただゴール前にへばりついているだけだ。野田がボールをキープする姿が画面に映し出されても、他の選手は誰も画面に映らない。止む無くロングボールを放り込んでは相手に取られるパターンを繰り返している。

 何の活路も見出せない福岡に対して、札幌は実に軽快な動きを見せた。基本的には守備重視。そしてボールを奪うと流れるように選手が動き出してカウンターを狙う。チャンスと見るや、後方からどんどん選手がスペースに飛び出して福岡ゴールを狙う。どうやって攻めるかということが実によく徹底されている。そしてロスタイム、札幌は貴重な2点目を挙げた。「何でロスタイムに」。言いようのない脱力感に襲われて前半が終了した。



 ここまでは完全な負けパターン。誰もが無口になっている。「こんなんでいいのか」。そう口にするサポーターもいる。そんな重い雰囲気の中で後半が始まった。この時、殆どのサポーターが負けを覚悟していたのかもしれない。しかし、後半に入るとちょっとした変化が見え始める。札幌のラインが引いていること。そして前線にへばりついていた福岡の選手が、時折中盤に下がってスペースを使うようになったことだ。これが試合の流れを大きく変えた。

 基本的にはロングボールを放り込む福岡。しかし、ラインに厚みが出た福岡はヘディングで落としたボールをつないで試合の主導権を握る。前半は見られなかったサイド攻撃も出始めた。そしてバデアが鬼のような形相でミドルシュートを狙う。2点のビハインドを跳ね返すのは至難の業。だが、ここで負けては全てが終わる。何が何でも勝つしかないのだ。そんな選手の気持ちが画面から伝わってくる。そうだ、諦めるのはまだ早い。

 そして63分、遂にバデアのミドルがゴールを捕らえた。AVISPOTに集まった全員が一斉に立ち上がり歓声が上がる。もう周りの店に気兼ねして静かに見ているわけにはいかない。誰もが口々に「行けっ」「右だっ」「打てっ」と声をあげる。10分後、致命的とも思われる3点目を失い諦めにも似た雰囲気が漂ったが、すかさず、ビアージョが追撃弾を挙げた。画面の中の選手たちは「決して諦めないぞ」という気迫を漂わせている。そうだ、まだやれる。不安をかき消しながら声援を送る。

 試合はとうとうロスタイム。もう駄目か。そう思った次の瞬間、呂比須が頭から飛び込んだ。ゴール!再び歓声がビルの地下に響き渡った。誰からともなく起こる呂比須コール。もう全員が大声を挙げていた。ラーメン屋の大将も、喫茶店のマスターも、いつのまにか一緒になって画面に釘付けだ。そして96分、遂に最高の歓喜の瞬間が訪れる。ヤッサンのクロスを再び呂比須が頭から飛び込んでVゴール。これ以上ない逆転劇に、AVISPOTは沸きに沸いた。



 苦しい試合だった。何度も諦めかけた。しかし、画面の中の選手たちは最後の最後までゴールを奪うことを諦めなかった。そんな選手たちのプレーの数々は、AVISPOTに集まったサポーターの気持ちを一つにしてくれた。そして、「i MAS JUNTOS, PODEMOS MAS!(マス フントス ポデモス マス:もっと一丸となればもっとやれるの意)」ということを身をもって示してくれた。一瞬でも諦めかけた自分が恥ずかしかった。そうだ、まだまだこれからだ。

 そして、この日の勝利は単なる勝点2以上のものをチームにもたらしたのではないか。今年の福岡は、怪我人続出の影響で思うような攻撃が出来ないままに、ここまでやって来た。昨シーズンに見せた全員が一丸となって戦うという姿は、ややもすれば薄れがちで、それぞれの選手が孤立し、互いの連携がないままに敗れる試合も多かった。しかし、この日の試合は、全員が一丸となって戦ったと言う意味では、今シーズン最高の試合だった。

 スピードのあるFWに簡単に裏を取られるシーンが目立ったこと。その結果、3失点も喫したこと。後半はサイドを意識した攻撃が見られたが、まだまだ不十分であること等々、課題を数えていたらきりがない。しかし、そんなことよりも、一致団結して戦えることを再び示せたことが何よりも大きい。昨年は先制点を奪われても必ず追いつき、90分間では殆ど負けなかった。あのチームの勢いを、もう一度思い出す大きなきっかけになったのではないかと思う。

 さりとて喜んでばかりもいられない。大事な試合はまだまだ続く。この勢いを次の試合に続けてこそ、この日の勝利の意味がある。苦しい試合もあるだろう。絶体絶命のピンチがやってくるかもしれない。しかし、そんな時こそ、今日のような戦い方が必要になる。いままでも、この日の試合のように戦ってきたのだ。そして、これからも、この日の戦いのように戦っていけばいい。その先にこそ、アビスパ福岡の明日がある。さあ、ここからが巻き返しだ。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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