topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 福岡通信 01/11/09 (金) <前へ次へindexへ>

 いよいよ正念場。残り3試合に全力を尽くせ。


 文/中倉一志
 延長前半の14分、右サイドから磐田の川口がゴール前にアーリークロスを放り込んだ。グンと伸びたボールはファーサイドのポストめがけて飛んでいく。GK小島がキャッチするには難しく、またゴールを狙う中山にとっては角度のないコース。17,002人の観客が見つめる中、中山がジャンプ。ややタイミングが送れて小島も飛び上がって両手を伸ばした。次の瞬間、中山の額が捉えたボールは、僅かにあった隙間を抜けてゴールへ吸い込まれた。

 いいようのない重苦しい雰囲気が博多の森を包み込む。数人の選手たちはピッチの上に倒れこんだまま身動きも出来ない。ここまでわずか2敗、初の両ステージ制覇へ向けて鹿島と激しくデッドヒートを繰り広げる磐田相手に互角以上の戦いを見せたが、現実は厳しかった。静まり返った博多の森のスタンドに向かって、「どうだっ!!」とばかりに胸を張る中山。17,002人の観衆は、黙ってその姿を見つめることしか出来なかった。

 どうにも流れが悪い。この日は立ち上がりから積極的なプレスで磐田の中盤に襲い掛かり、磐田の流れるようなパスワークを封じ込めた。先制点を奪われてもひるむことなく、前に出る姿勢を忘れなかった。2−1とリードした後も不必要に守ることなく、巧みにゲームをコントロールした。しかし、たった一つのプレーで形勢は逆転。最後は敗れるべくして敗れた。上手くいきそうで結局敗れる。今シーズンの福岡の戦いを象徴するような試合だった。

 「全力を尽くしたから」「全ての力を出し切ったから」、そんな言葉は慰めになりようもないことは選手が一番知っている。善戦は善戦以上の何物でもない。必要なのは勝ち点、内容ではない。サポーターからの激励の拍手にも応えられず、ただうつむく福岡イレブンに対し、アウェイ側では「オーッ、中山っ!」の掛け声に合わせてゴン中山がパフォーマンスを披露している。その対照的な風景は両チームの置かれた立場を鮮明にしていた。



 しかし、うなだれているわけにはいかない。残り試合はあと3つ。まだ戦いは終わらない。J1残留争いを繰り広げるのは浦和、横浜、東京V、そして福岡の4チーム。痺れを切らしたチームが、来年度のJ2での戦いを余儀なくされる。予想される残留ラインは勝ち点30。場合によっては、さらに高くなる可能性もある。どのチームも、残留争いから抜け出せそうで抜けきれないチーム状態は似たり寄ったり。最後の最後まで行方は見えない。

 年間順位で12位につける浦和は、小野の移籍後急激に失速。いつの間にかJ1残留争いに顔を出した。5連敗を脱した9節の福岡戦以降は1勝3分。盛り返したとは言えないものの、辛抱強く勝ち点を積み重ねて残留ラインの勝ち点30にたどり着いた。しかし、安定感を欠くDF陣と、噛み合わないコンビネーションは修正されたとは言い切れない。まだまだ安心するのは早い。新加入のアリソンがどこまでチームを引っ張れるかが鍵になりそうだ。

 中村、松田、波戸をはじめとする現役日本代表や、代表経験者を数多く擁する横浜も安定感のない戦いを続けている。2nd stageに入って3連勝。波に乗ったかと思われたが、その後は3連敗。そして2勝1分と再び上昇の気配を見せたが、第10節からは1分2敗。強いのか、弱いのか、その実力が測れない不思議なチームだ。疲労の蓄積からか、ここへ来て怪我人も増えてきておりチーム状態は良いとはいえない。中村に頼らざるを得ないようだと苦しいかもしれない。

 残留争いをしているチームの中で一番不気味な存在が東京Vだ。第9節までは覇気のない戦いを続け、かつての名門もここまでかと思われたが、第10節以降は2勝1分。勝ち点を伸ばせない他のチームに迫ってきた。そして、第11節からチームに合流したエジムンドが不気味な雰囲気を漂わせる。誰もが驚いた東京Vの最後の切り札。機能すればこれほど心強い味方はないが、その反動も大きい。劇薬に手をつけた東京V。なりふり構わない姿勢は他のどのチームより強い。



 そんな3チームと残留をかけた争いを繰り広げる福岡。しかし、残念なことに、福岡もチーム状態も他の3チームと変わりはない。抜群の運動量とスピードでピッチの上を走り回る盧廷潤、ここへ来て調子を上げているバデアの存在は心強いが、2nd stageに入って獲得した内藤と呂比須は怪我で万全の状態からは程遠い。また攻撃面での戦術浸透度も低いと言わざるを得ない。好材料と不安材料が同居するチーム。それが今の福岡だ。

 正直なところ、残留争いを繰り広げている4チームに力の差はないといって言い。また、それぞれ残された対戦相手の実力やこれまでの相性も気になるところだが、それは勝敗の結果にそれ程影響を与えることはないだろう。絶対に勝ち残るんだというモチベーションの高さと、敗れたら終わりという大きなプレッシャー。その両方を背負って戦う選手たちに相手チームのことが入り込む余地はなく、また、過去の対戦成績もあてにはならない。

 これまで積み重ねてきたものを全て出し切れるかどうか。勝負の行方を左右するのは、この一点につきる。そういう意味では、磐田戦で見せた福岡の戦い方は、残された3試合を戦い抜くという気持ちが現れた試合だった。決して下がることなくゴールを目指し、リードした後も守りに入らず、あくまでも攻め勝つ道を選んでいた。戦術という観点からすれば不満も残らなかったわけではないが、いま出来ることの全てを出して戦っていた。

 ここまで来てしまったら、出来ないことをとやかく言っても意味はない。自分たちに出来ること全てを出し切ること、何があっても勝ち抜くんだという強い気持ちを持って戦うこと、J1残留を決めるためにはそれしかない。これはどこのチームにも言えること。その気持ちが強いチームが最後は残留することになる。残りは3試合。これまで戦った12試合とは比べ物にならない大きなプレッシャーが襲うことだろう。そんな中で、強い気持ちを持ち続けられるかどうかがJ1残留の鍵を握っている。



 さて、既に新聞紙上等で報道され、またクラブ側も発表しているのでご存知のことと思うが、福岡の若手有望選手が児童買春等禁止法違反容疑で逮捕された。事件の詳細や、その処分については司直とクラブの判断に委ねられるべきものであるためコメントは差し控えるが、ただ、ただ残念としか言いようがない。本人に一番の責任があることは明らかとはいえ、事件発生防止に向けて、もう少し手が打てたのではないかという思いが消えない。

 一番驚くべきは、事件がクラブの管理化にある独身寮内で起こったと言う事実だ。報道されている内容によると、独身寮の門限は事実上ないに等しく、本来ならば部外者立ち入り禁止のはずが、それも守られてはいなかったらしい。こうした事実をクラブ側は把握しきれていなかったようだ。選手たちの自主性を重んじていたということなのだろうが、自主性という言葉は時として「なんでもあり」につながり、やがて事件の芽が生まれてくる。

 1970年、プロ野球界を襲った「黒い霧事件」で、当時、西鉄の若きエースだった池永投手が永久追放処分を受けた。高校卒のルーキーとして初めて20勝を挙げ、実働6年間で103勝を挙げている最中の出来事だった。その池永氏は7日、マスターズリーグの「福岡どんたくず」の一員として31年ぶりにスタジアムに戻ってきた。池永氏が師と仰ぐ稲尾氏の尽力によるものだった。しかし、日本野球機構は同氏の処分を未だに撤回していない。

 事件は当事者に大きな傷跡を残す。事件防止に向けて管理を行うのは、クラブのためでもあり、本人のためでもある。もちろん、本人が責任を取ることは当然のこと。しかし、処分や責任を取らなければいけないような事件を発生させないために、最低限の管理が必要なのだ。それがクラブの責任であり、そして選手のためでもある。フロントも、そして選手たちも、もう一度このことを理解する必要がある。今後の自浄作用を期待したい。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
<前へ次へindexへ>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送