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 福岡通信 01/11/23 (金) <前へ次へindexへ>

 残された宿題


 文/中倉一志
 博多駅から鹿児島本線(快速)に乗り込んで約30分。線路の左側に厳かな雰囲気を漂わせた鳥栖スタジアムが見えてくる。傾斜のきついスタンドを重ねただけの簡素な作りで、剥き出しの鉄筋からは何の飾り気も感じられないスタジアム。しかし、その無骨な姿が力強さを強調し、サッカーファンの心をたまらないほどくすぐるのだから不思議なものだ。オーロラビジョンもない。移動式カメラもない。だが、その雰囲気は九州随一と言える。

 試合開始までは後1時間。いつもならばまだ静かなスタジアムの周辺も、既に多くの観客で賑わっている。対戦相手が、この日の試合にJ1昇格の夢をかける大分トリニータであることも影響しているのだろう。青と黄色のレプリカを身に付けたサポーターの姿が目立つ。しかし、それだけが理由ではない。ラスト3試合での15,000人の動員を目標にするクラブをサポーターたちが全面的にバックアップ。観客動員に一役買ったからだった。

 その活動はインターネットを通して、はたまた口コミで鳥栖市内だけに留まらず、周辺地域にも広がっていった。動員のための様々なアイデアがweb上の掲示板に書き込まれ、その活動結果が報告される。そしてこの日、フラッグを抱え、そしてメガホンを持った観客が次々とゲートに向かってきた。いつのまにかチケット売り場の前には10メートルを越す列ができ、その流れはキックオフ直前まで途切れない。観客の数は12,810人を数えた。

 そしてキックオフ30分前、両サポーターによる声援が始まった。まず応援合戦のリードを取ったのは大分。メインスタンドとゴール裏から繰り出される大きな声は、ゴール裏のサガンティーノたちの声を大きく上回る。しかし、鳥栖にはスタジアムに訪れた12,000人を超すサポーターがいる。多少の声援でひるむはずはない。そんな中、青と白のユニフォームを来た22人の選手たちがピッチの上に散っていく。さあ、いよいよキックオフだ。



 大分トリニータにとって、この日の試合は願ってもないものだった。一時は2位まで順位を上げたものの終盤に来て失速。J1昇格の望みは消えたかに思われていた。しかし、土壇場で仙台が甲府、鳥栖にまさかの連敗。最終節にきてJ1昇格の可能性が出てきたからだ。昇格条件は90分以内での勝利と、仙台、山形がともに破れること。厳しそうに見える条件だが、仙台、山形の相手はそれぞれ京都と川崎。大分のJ1昇格の可能性は十分にあった。

 経験という意味でも大分には分があった。仙台は昇格を前にして自分たちのサッカーが出来なくなっていたし、ここまで伸び伸びと戦ってきた山形は、J1昇格を目の当たりにして試合をするのは初めてのこと。一方の大分は2年連続して痺れるような戦いを経験している。3チームのうちでは最も平常心で戦えるはずだった。しかし、大分は過去2年間の最終節同様、どこか怯えたような、どこか思い切りのないようなプレーでスタートした。

 確かに押しているような雰囲気もあった。だが、ただ船越にボールを蹴るだけでは形は出来ず、逆に12分に鳥栖に先制点を許してしまう。これで目が覚めたのか、失点後はボールを支配して圧倒的に攻撃に出たが、この1点の重みは予想以上に大分イレブンにプレッシャーを与えていたようだ。一方的に攻め込みながらも決定的なシーンは皆無。ようやく得たチャンスは、33分に梅田が放ったドリブルシュート1本だけだった。

 後半に入ると大分は徐々にボールがつながるようになり、それに伴って決定機を度々演出するようになる。しかし、どうしてもゴールが割れない。ようやく同点に追いついた75分以降は、いつゴールが生まれてもおかしくない展開だったが、それでもゴールは生まれなかった。「サッカーはこういうもの」と言うのは簡単だが、攻め込みながらも最後の所で冷静さを欠いていたことも事実。結局1−1で90分が終わり、大分の夢は絶たれた。



 さて、鳥栖にとっても、この試合は重要な意味を持つ試合だった。今シーズンの鳥栖は立ち上がりから躓いた。シーズン当初からチーム編成が上手くいかず勝ち星を挙げられない日々が続く。そしてその数は14を数えた。その後も怪我人が絶えずに調子は上がらないまま。3巡目に入ってようやく上昇の兆しを見せたかに思えたが、今度は島岡が突然の退団を発表。この頃からチーム内のいざこざが噂されるようになり、再びチームは低迷する。

 そして、経営危機が明るみに出ると、同時に起こった役員人事を巡るドタバタ劇。しかも、これらの問題は解決に向かうどころか、時間の経過とともに泥沼化していく。そろわぬ戦力、そろわぬバックアップ体制。選手たちが試合に集中する環境はなくなっていた。しかし、そんな中で選手たちは何かを見つけた。41節の水戸戦を皮切りに3連勝。結果とともに、忘れかけていた鳥栖らしさが復活。ドタバタ劇をよそに良い試合をし始めたのだ。

 「選手として何が出来るかって考えたんですけど、そしたら、やっぱりグランドで結果を出すしかないと」。これは2年前、チームの消滅が決まった横浜Fに当時在籍していた三浦(淳)が、天皇杯の決勝戦後に語った言葉だ。悪い噂が飛び交う中で、選手たちは、当時の三浦(淳)と同じ心境に達したのだろう。精一杯に戦うこと。それこそが無言のアピールであり、それこそが「フロントよ、いいかげんにしろ」というメッセージだった。

 だからこそ、最終戦で大分をホームで破る必要があった。11回戦った九州ダービーは全敗。いくら実力差があっても、プロとしてこれほど恥ずかしい結果はない。12,810人のサポーターの前で自分たちの気持ちを形に表す必要があった。そして、その気持ちは先制点よりも、その後の守備に強く表れていた。ピンチになったら身体を張り、誰かが抜かれれば、周りの選手が必死になってカバーリングに回る。その見事なまでの集中力は、今季一番の出来と言っていい。勝つことは出来なかったが最高のアピールだった。



 さて、長かったJ2リーグは京都と仙台のJ1昇格という結果を残して終了した。そして、それぞれのチームに何かを残したように、大分と鳥栖にも大きな課題と教訓を残してくれたはずだ。互いに不本意なシーズンを送った両チームにとっては、今年は特に多くの課題を突きつけられたはずだ。しかし、過ぎてしまったことを悔やんだところで何も生まれやしない。大切なことは、こうして得た教訓を来シーズンにつなげることだ。目をつぶってしまっては何も生まれてこない。

 大分は、ある意味では来シーズンこそ本当のチーム作りができるのではないか。良くも悪くも、フロントはFIFAワールドカップTMを意識して活動してきたが、来年は「ワールドカップのために」という言葉は使えない。必然的に、なぜ大分にチームが必要なのか、なぜ大分からJ1を目指さなければならないのかということを考え直さなければならないからだ。それは、選手にとっても、フロントにとっても、目をそむけてはいけない問題だ。

 一方の鳥栖も、J2のチームとして4年目を迎える来シーズンは、チームのあり方を根本から問い直さなければならない。いままでは「存続させること」を一番に考えて活動してきたが、Jリーグのチームとは、あればいいというものではない。なぜチームを作ったのか、なぜ必死になって守ってきたのか、もう一度原点に返るべきだ。終盤の戦いを見ていると、選手たちはその答えを見つけつつあるようにも思える。後はフロントの仕事だ。

 鳥栖と大分の経営規模は大きく違う。したがって、その方法論にも違いは出ることだろう。しかし、方法論は違っても、ともにビッグクラブを目指すチームではないはず。勝利も大切だが、クラブとしての存在理由を明確にすることが何より大事になるだろう。そして、その存在理由とは、Jリーグの理念であることは疑いもないことだ。それぞれの環境で、それぞれに合ったやり方で、どうやって地域に密着したチーム作りができるのか。それこそが、来シーズンの両チームの宿題になる。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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