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 福岡通信 01/11/30 (金) <前へ次へindexへ>

 新たなる旅立ち


 文/中倉一志
 その数は500人はいただろうか。ある者は新幹線で、ある者は深夜バスで万博記念競技場にやって来た。アビスパ福岡側のゴール裏は8割方サポーターで埋まり、ガンバ大阪側のそれよりも明らかに多い。ゴール裏に足を運んでみると見知ったサポーターたちも大勢駆けつけている。そして誰もがアビスパ福岡の勝利を信じていた。思っていたほどの悲壮感はない。「とにかく勝つだけです」。あるサポーターは真正面を見据えて、そう語った。

 記者控室にも福岡からやって来た記者たちが溢れていた。福岡のメディア、あるいはアビスパ福岡の番記者たちが、ずらりと顔をそろえている。2001年Jリーグの最後の試合で3チームの運命が決まる。担当記者としては見逃せるはずもない。そして、集まったサポーター同様、アビスパ福岡の勝利を願っていた。博多の森のスタジアムDJとして、すっかりお馴染みになった信川竜太アナはタオルマフラーを首に巻いて臨戦体制を整えていた。

 14:04、試合開始を告げるホイッスルが鳴った。その直後、いきなりG大阪に決定機を作られたが、福岡は慌てない。注意深く敷いた守備網にG大阪の選手を引っ掛け、ボールを回してサイドから攻めあがり、時間の経過とともに福岡が試合の支配権を握る。そして31分には片野坂が、34分には木場が立て続けに退場処分に。全ての流れは福岡勝利に向かっていた。しかし、ここで福岡の足が突然止まる。前節の清水戦と同じような展開だ。

 40分、それでも江口が先制点を挙げる。しかし、ロスタイムにまさかの失点。59分にはバデアが勝ち越し点を挙げ勢いに乗るかと思われたが、74分に再び同点に追いつかれる。どうしても突き放せない。そして迎えた83分、とうとう新井場に勝ち越し点を奪われると、諦めにも似た雰囲気が漂い始める。一縷の望みをかけて望んだ5分間のロスタイムでもゴールは生まれない。そして、モットラム主審が手を高く掲げてホイッスルを鳴らした。



「もっと一丸となれば、もっとやれる」。昨年の2nd stageで終盤まで優勝争いをした福岡は、この合言葉の下、今年は更なる飛躍を目指すはずだった。しかし、今にして思えば、つまづきはシーズン前から始まっていたのかもしれない。一昨年、若手育成に力を入れるとして獲得した大量の若手選手の殆どをたった1年で解雇。その一方で獲得を目指した大久保をC大阪にさらわれ、カズには条件提示すら出来なかった。そして長い間不在の左SBには全く手がつけられないままシーズンを迎えた。

 あまりにも多すぎた怪我人も大きな足かせになった。その兆候は既にシーズン前からあったと言える。昨年のアビスパの躍進は、トレーニングキャンプで徹底的に身体を鍛え上げた成果によるものだったが、今シーズンは、そのキャンプで怪我人が続出。フィジカルトレーニングはもちろん、十分な戦術面でのトレーニングを積むことができなかった。そして無理を押して望んだシーズンでは、最後までベストの布陣を組むことなく終えた。

 そして、今年も若手が育たなかった。私が福岡を取材してから3年間。新しい選手は全て他チームから移籍してきたベテラン選手ばかり。どんなチームでも、必ず1人や、2人はサテライトから昇格してくる選手がいるものだが、福岡に限っては若手が出てくることはない。今シーズンは怪我人の影響で、やむなく数人の若手がベンチ入りを果たしたが、その実力は、とてもトップチームで通用するものではなかった。

 補強による戦力の上積がなく、若手を育成することも出来ない。やむなく現有戦力をやりくりしなければならなくなったが、それも怪我人の続出で満足なメンバーが組めない。やがて、ベテラン選手の衰えが見え始め、今までチームを引っ張ってきた選手たちのパフォーマンスも確実に落ちた。90分間集中を保つことが出来ず、ただゴール前に放り込むだけの攻撃、そして、簡単に崩される守備陣。それは99年シーズンを見ているようだった。



 しかし、過去を振り返ってばかりいても仕方がない。残念なことではあるが、ある意味では今の福岡はJ2に降格しても仕方がないクラブになっている。それならば、この結果はクラブのあり方や運営方法を見直すいい機会と捉えて、是が非でもチーム改革に臨んでもらいたい。そうでなければJ2に降格した意味がない。これまでと同じことを繰り返すのなら、この日の試合に意味はなく、そして、いつの間にかJ2に安住するクラブになるだけだ。

 そんな福岡がまず目指さなければならないことは、チームの構造改革だ。選手構成をきちんとしたピラミッド型にして、常に下部組織から上へ選手を送り込むようなシステム作りをしなければならない。そして、要所にベテランを配した上で若手を積極的に起用し、使いながら育てていく方法をとることが必要になる。過去、何度も大量補強、大量解雇を繰り返して失敗を続けた京都にも出来たこと。福岡にだってやれないわけはない。

 そのためには、クラブの将来がどうあるべきかという長期的なビジョンが欠かせない。3年後、5年後にどういうクラブにするのか。それをハッキリさせることによって来年1年間の目標が明確になる。そして、それが出来てこそ、必要な戦力、補強すべきポジションが明確になってくる。いるメンバーで戦おうなどというのは愚の骨頂だ。金がないなどというのは言い訳でしかない。何が必要かが明確になれば、いくらでも知恵は出るものだ。

 選手層の厚さではJリーグ1を誇る鹿島アントラーズ。かつて本山、小笠原、中田、山口、中村のU-19代表5人を獲得した時、周囲は驚きを隠せなかった。先発の殆どを代表選手で固める鹿島に彼らのポジションはないように思われたからだ。しかし、鹿島は3年後、5年後のチームのあり方と、その時に誰がどのポジションにいるかを彼らに見せたと言う。あれから4年目となるの今シーズン、本山、中田、小笠原の活躍は語るまでもないだろう。



 チームのビジョンが決まれば、その実現にふさわしい監督、スタッフをそろえなければならない。決してオールマイティの人間がいないように、監督にも得手不得手があるもの。誰を連れてきてもいいというものではない。大切なチームの将来を託すことになるのだから、十分な吟味が必要になる。さて、そこで問題になるのが、来シーズンの福岡を誰が率いるかということだ。スポーツ紙等から聞こえてくる内容ではピッコリ監督の続投が濃厚なようだ。

 私自身は、ピッコリ監督の真摯な姿勢とサッカーにかける情熱に大変好感を持っている。昨年度の躍進は間違いなく監督の手腕によるものだと考えているし、今シーズンは、ピッコリ監督が存分に手腕を震える状況になく、全ての責任を監督に負わせることについては反対と考えている人間の一人だ。しかし、それでもなお、まるで当たり前のように続投が決まることに対して違和感を感じていることも確かだ。

 前述の通り、チームをどのようにするかで監督の人選は変わってくる。まだ、来年度の方針すら決まらないうちに監督だけ決まるというのは、やはり不自然だ。私はピッコリ監督の続投に反対するものではないが、敗因の原因、問題点の分析、そして、どの方向へ進むべきかの議論があった後に、初めてピッコリ監督の続投か否かということが吟味できるのだ。もし、それが出来ていないのなら、ピッコリ監督にとっても決していい話ではない。



 多くの問題を抱えながら、福岡は来年J2で44試合を戦うことになる。チームの構造改革を行ないながら、若手を育てながら、更には1年でJ1を目指すと言う目標は、とてつもなく高い。足元を固めてじっくりと戻って来ればいいという意見があっても不思議ではない。しかし、私は敢えて1年で戻って来いと言いたい。高い目標にチャレンジし、それを手にすることでチームは成長する。そうすることによってチームは本当の厳しさと言うものを身に付けるのだ。

 ならばやってみろ! サポーターが支えたいのは、そんな福岡の姿なのだ。恐れるな。正面からぶつかれ。この悔しさを必ず晴らせ。そして来年は再びJ1の舞台に旋風を巻き起こそう。その姿を誰もが待っている。頑張れ!アビスパ福岡!



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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