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 福岡通信 01/12/21 (金) <前へ次へindexへ>

 さすがは本物? エジムンドの華麗なプレー


 文/中倉一志
 本名エジムンド・アウベス・デ・ソウザ・ネット。1971年4月2日生まれの屈指のストライカーが日本にやって来た。バスコ・ダ・ガマのユースで育ち、21歳の時にトップチームに昇格。同年7月のメキシコ戦ではセレソンのユニフォームも身に付けたブラジルの、いや世界のトップフレーヤーだ。97年の南米選手権や、98年フランスW杯でもブラジル代表として活躍した姿を目にしたファンも多いことだろう。その実力は折り紙つきだ。

 しかし、J1残留争いの真っ只中にいた東京ヴェルディが、そのエジムンドの獲得を発表した時、日本中のサッカーファンは絶句した。何故なら、エジムンドは実力だけではなく、その素行の悪さでも世界に名を馳せていたからだ。トップチームに昇格してから足掛け10年間で移籍を経験すること9回。もちろん、実力が認められての移籍であるが、その陰には、いつもトラブルがついて回った。

 犬猿の仲と噂されるロマーリオがキャプテンマークをつけることをキックオフ前に知り、激怒して自ら試合への出場を放棄したこともある。フィオレンティナ時代には、リオのカーニバルに参加して踊るために優勝争いの真っ只中にいたチームを離れた。そして今年の10月、クルゼイロの選手として出場した古巣のバスコ・ダ・ガマ戦では「バスコは最愛のチーム。バスコから点を取りたくない」と公言。試合中にPKを外すなどして即刻首を言い渡された。

 そのほかにも、とにかく数々のトラブルを起したエジムンド。ついたあだ名は「アニマウ(野獣)」だった。果たしてエジムンドはピッチの上でおとなしく(?)プレーするのだろうか。既に崖っぷちにいた東京ヴェルディに、更なる火種を起すのではないか。サッカーファンの関心は、その実力よりも彼の素行に注がれた。しかし、エジムンドは5試合を無事に(?)プレー。その存在感を見せ付けて東京ヴェルディを降格の危機から救った。



 そして12月16日、そんなエジムンドがチームと共に熊本にやって来た。天皇杯4回戦でジュビロ磐田と対戦するためだ。熊本でプロのサッカーチームが公式戦をプレーする唯一の機会であることもあってスタジアムには9,155人の観衆が集まっていた。多くの観客の目当ては実力No.1の呼び声高いジュビロ磐田。しかし、ピッチの上で存在感を見せたのは、JリーグアウォーズMVPの藤田でもなく、ゴン中山でもなく、エジムンドその人だった。

 プレーが噛み合わないと、時折両手を大きく広げて大きな声を出す場面はあったが、プレー振りは真剣そのもの。「アニマウ」と呼ばれる身勝手さは感じられず、攻撃の中心となってチームを引っ張った。そして23分、やや下がり気味の位置でボールを受けると、簡単にはたいて自らは中央へ。ゴール前を固める磐田DFの壁を、まるで透明人間のようにすり抜けると、菊池(利)からのパスを右足ダイレクトであわせて先制点を奪って見せた。

 続く27分には、小倉のセンターリングに飛び込んだ小林と、磐田GKのヴァンズワムが交錯してボールがこぼれたところに、これまたスルスルと現れて今度は左足を振りぬいて2点目をゲット。東京ヴェルディのリードを広げた。そして勝負を決定づけた3点目を生むきっかけとなったCKも、エジムンドのプレーから奪ったものだった。1点目と同じようにボールを受けたエジムンドは右にはたいて、そのままゴール前へ。そして、1点目同様、いとも簡単にDFの間をすり抜けてシュートを放った。

 後半の30分を過ぎた辺りからは、東京ヴェルディが引きすぎてしまったことと、自らの運動量が減ったこともあって前線にたった1人で孤立するようになったが、試合を通しての存在感は抜群。いとも簡単にプレーするのだが、ボールに触れるだけでピッチの上の雰囲気をガラリと変えた。エジムンドのプレーについて感想を問われた磐田の服部も「予想以上に上手かった。あれはいいね」と脱帽していた。



 とにかく上手い。こんな表現しか出来ないのは、プロのライターを名乗る者としては恥ずかしい限りなのだが、本当に上手い。相手を背にしていようが、2人に囲まれていようが、どんな状況でも余裕たっぷり。決して簡単に相手にボールを与えない。それも極めて高いボールコントロールの技術のなせる技なのだろう。そして独特の間合いから、すっとスピードを上げて相手を抜き去るドリブルは天下一品。これを見るだけでもお釣りが来る。

 また、特に目を引いたのが相手のDFを抜き去る瞬間だ。大きな切り返しや、フェイントをしているわけではない。ほとんど上体を揺さぶらずにスルッと言う感じで相手の背後に出てしまう。抜き去るというよりも、すり抜けると言った表現の方がいいだろう。猛烈にスピードを感じさせるわけでもない。必要以上にテクニックを見せびらかすわけでもない。本当に気が付いたらスルッとすり抜けているのだ。このプレーはため息ものだ。

 華麗なパスも見逃せない。エジムンドはトップに張るタイプではなく、後ろへ下がったり、サイドへ開いたりしてボールを受けることが多いのだが、そのボールを実に巧みなところに供給する。それが実に優しいパスなのだ。適度なスピードと角度で、受け手が受けやすいように、そしてスペースに走りこみやすいように、本当に心のこもったパスを繰り出していた。その風貌からは(失礼)、全く考えられないようなボールだった。

 そして最も感心させられたのが、必ずパス&ゴーを繰り返すという点だ。サッカーをプレーしたことがある方ならば、「そんなことは当たり前だ」と仰るに違いない。しかし、いつ、どんな時でも欠かさずにパス&ゴーを実行できる選手は多くはない。しかし、エジムンドは、どんな時でもパス&ゴーをサボることはなかった。随所に見せた華麗なプレーと、その存在感の大きさは、こうした基本を確実にこなすところから来ているのだろう。



 私はエジムンドの移籍を知った時、多くのサッカーファンが感じたように、噂になっている彼の素行の悪さばかりが気になった。日本の実力が飛躍的に高くなったといっても、世界のトップレベルと比較すれば、まだまだ足りないところは多い。そんなJリーグで、果たしてエジムンドが真面目にプレーするだろうか、いや、いつ爆発するだろうかと考えていた1人だった。しかし、この日の彼のプレーは、そんな心配を何処かに吹き飛ばした。

 試合後、コメントを取ろうとロッカールームから出てくるのを待ち受けていた報道陣の前に姿を現したエジムンドは、物静かでシャイな選手そのものだった。試合中の厳しい表情はすっかり影を潜め、とても耳にしていた素行の悪さなど感じられない。時間がないと言いながら、嫌な顔ひとつ見せずに最後まで丁寧に答え、バスに乗り込む前には、ファンの姿を見つけて話し掛け、そして、差し出されたシャツにサインをして応えていた。

 往々にして噂と言うものは分からないものだ。面白おかしく報道されているものもあるだろう。その時の自らを囲む環境が様々なトラブルの原因になっていたかもしれない。しかし、今のところは、噂されている素行の悪さは何処かに身を隠しているようだ。その技術が世界のトップレベルにあることは、彼のプレーを見たことのある方なら誰でも知っていること。安定した状態でのプレーが続けば、間違いなく本物のサッカーを見せてくれるはずだ。

 今年は、まだ彼のプレーを天皇杯で見ることができる。そして、来シーズンも東京ヴェルディでプレーすることが既に決っている。しばらくの間、きっと素晴らしいプレーを我々に見せてくれることだろう。いつかは爆発する(?)という一抹の不安が隠せないわけではないが、久しぶりに見る大物選手のプレーに、妙にワクワクした1日だった。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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