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 福岡通信 01/12/28 (金) <前へ次へindexへ>

 振り出しに戻ったサガン鳥栖。再建なるか。


 文/中倉一志
 経営難と役員人事問題で揺れるサガン鳥栖は22日、鳥栖市商工会議所で臨時株主総会を開催し、「定款の一部変更の件」「取締役4名選出の件」「新株発行の件」について審議を行なった。議決権を持つ141名−1940株の株主のうち、70名(委任状を含む)−1310株の株主が出席した臨時株主総会はスムーズに進行。ここのところ、審議が紛糾し数時間にも及ぶことが多かった株主総会だったが、1時間あまりで全ての審議事項が承認された。

 「定款の一部変更」とは、授権資本を増額するというもの。現在の定款で定められている授権資本は1億2000万円(2400株)で、実際の資本金は9700万円。しかし、現段階で1億200万円の累積赤字を抱え、更に、今季も3000万円の赤字が見込まれている現状では債務超過に陥るのは確実で、そのため、授権資本を2億円(4000株)に引き上げることを決定。この変更に併せて、新株発行により3000万円を増資することも承認された。

 また、注目された役員人事は、石橋千和、藤川謙二両専務を始め、凌俊朗氏、平野勝氏、永淵一郎氏の3人の取締役が辞任。その後任として、齋藤恭宏氏、野津まどか氏、江口紀彬氏、野下雄二氏の4人の取締役が選出され、留任が決っている上村春甫氏、中島義高氏、古賀照子氏とあわせた7名の新体制で会社運営に取り組むことが決った。なお、最大の懸案事項だった社長問題については、中村安昭氏が代表取締役に留任することが発表された。

 5人もの役員が辞任した理由を問われた上村取締役は、両専務については現職について長いことを理由に挙げた他、一連の責任問題があったことも示唆。経営手法を代えて会社再建に臨むためと説明した。また、平野勝氏(たらみ)については、(株)たらみがJリーグから撤退するため会社としての協力が得られなくなったこと、その他の3人については公務多忙のためと説明した。なお、常勤役員は中村社長と古賀取締役の2人。Jリーグ経営諮問委員会から求められていた4人の常勤役員は選定することができなかった。



 サガン鳥栖が八方塞の状況に陥っていることが改めて明らかになった記者会見だった。一連のドタバタ劇の発端となった中村社長の辞任は全て白紙。来年1月の任期切れに伴い、新しい社長を迎えることで取締役会の意見は一致していたはずだったが、一転して中村社長に続投(?)を要請。それどころか、任期は再来年の1月末まであったと説明した。残念ながら、いつのまにか任期が伸びたことに対する明確な説明を得ることは出来なかった。

 しかし、今回の社長就任が苦肉の策であることは明らかだ。中村社長は「今の状態で辞めるわけには行かない。皆さんのご推薦もいただいた」とする一方で、「後任者があれば、何時でも私はお辞めします」と発言。また上村取締役も「(体調不良のため)私がドクターストップをおかけしたいくらい。現取締役で無理にお願いしたというのが本当のところで、良い方がいらっしゃれば、私も社長交代ということを考えている」と説明した。

 報道陣とのやり取りの中で、会社の苦しい状況が見えてくる。会社の体制を一新すること、常勤役員を4名置くことがJリーグ諮問委員会からの強い要請であったが、様々な手を尽くしたものの、社長候補も常勤役員も見つからなかったと上村取締役は説明。旧役員のうちの半数以上が交代し、体制をリセットすることは出来たものの、そこから先の手立ては打ちようがなかった。上村取締役の歯切れの悪い説明から苦しい胸の内が窺い知れる。

「これからの1年間が一番ハードルが高い1年間」という上村取締役は、現段階では、このままで行くしかないとしながらも、引き続き、新社長と常勤役員にふさわしい人物を探すことを明言。そして、鳥栖市の人間が中心になってやっていくことの重要性を口にすると共に、今後は鳥栖の財界や政界にも協力を求めていくとした。「甘くは見ていない」と強い口調で締めくくった上村取締役。経営体質改善に向けてサガン鳥栖は必死の活動を余儀なくされる。



 そんな中で、僅かに見えた明るい光は齋藤恭宏氏(現鳥栖構内タクシー代表取締役)の役員就任だろう。新任役員のうち1人だけ記者会見に出席したことから見て、今後は中心となってサガン鳥栖の経営に携わることが予想される。鳥栖フューチャーズの誘致に関わっていた同氏は、経営とボランティア活動は別として、それ以降、サッカーとの関わりはなくなっていた。しかし、サガン鳥栖の株主として、この窮状を見て「こういう折に何とか頑張らなくちゃいけない」と役員就任を決めたという。

 齋藤取締役は、これまでのサガン鳥栖を次のように分析する。「外から見てまして、いろんな思いがたくさんありました。一番思ったのが、社長を隣にして申し訳ないんですけれど、経営理念が全くないと。もう少しやりようがあるんじゃないかという思いを持っていました。ですから、特段難しいことをやるつもりは全くありません。ごく当たり前の、機能する会社にしたいというのが私の抱負です」

 既に過去2期分の経理資料に目を通したと言う齋藤取締役は、併せて事業計画(案)をも作成済みだ。これから、現場のスタッフとの打ち合わせを通じて徹底的に予算化し、「入ってくる間違いない数字で(支出を)抑える」と言う。そんな取締役のキーワードは「当たり前のことをやる」ということ。話を聞いている間も何度もこの言葉が飛び出した。企業としてやるべきことを当たり前にやる。これはサガン鳥栖に最も欠けていた点だった。

「当然ながら、当たり前と言うのは事業計画書をきっちり作って、今まで増資に頼るのが当たり前みたいな経営感覚にあったのを止めて、年度の収支バランスをまずはとっていくということ」という齋藤取締役は、これまで行き当たりばったり的な経営ではなかったのかとも指摘。併せて、Jリーグの理念に基づいてサガン鳥栖なりの企業理念を打ち出して、それに沿った事業展開を進めていく必要性があることも指摘した。



「自分で成り立つ可能性がなければ、ここにいるつもりはなかったんです。ですから急いで数字を拾ってみたら、どうにかなるなと、ギリギリのところでということがありましたので、いろんな思いもあって取締役に就任させていただいて、ここにいるわけです」。温和な表情ながら力強く語る齋藤取締役。その口調からは強い意志がひしひしと伝わってくる。サガン鳥栖再建に向けて並々ならぬ覚悟で臨んでいることは誰の目にも明らかだ。

 経理書類に詳しく目を通しているため、経理を担当するのかという取材陣の質問があったが、担当はまだ決まっていないとした上で、こう語った。「やはり自分で納得しないと。先も見えないのに誰もやりませんよ。当たり前でね。単純に言われたからやりますと言うのではなく、やるからには責任を持ってやる必要がありますので、きちんと確認した上で、何処まで自分が出来るのか把握した上でここにいます。ごく当たり前です。当たり前の話です」。ここでも、当たり前を強調していた。

 5万人の署名活動を支えたボランティアによって産まれたサガン鳥栖は、その経営もボランティアに委ねられていた。株式会社の形式を取っていたとは言え、その感覚はボランティア感覚そのものであったといっても言い過ぎではない。そして、その感覚が経営を苦しめていたことも間違いのない事実だ。そんな中に現れた齋藤取締役。サガン鳥栖が会社として生まれ変わる最後のチャンスかもしれない。

「先ほども株主総会があったんですけれど、私も会社やっていますが、こんなに皆様から支援いただく会社はありません。ありがたいことです、本当に。一株式会社に対して、いろんな精神的支援とか、寝る暇も忘れるように熱心に応援してくださる方、こんな素晴らしい方がたくさんいて成り立たない方がおかしいと思っています」という齋藤取締役。改革に取り組もうという姿勢に対し、役員、スタッフがどれだけ協力体制を作れるかが大きなポイントになりそうだ。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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