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 福岡通信 02/03/08 (金) <前へ次へindexへ>

 突きつけられた現実


 文/中倉一志
「やり直さなくちゃいけませんね」。昨年の11月24日、万博記念競技場で、あるサポーターが呟いた。この試合の前に行われた14節では清水相手に2−0とリード、しかも数的有利の状態から逆転負け。この万博での試合でも、G大阪が2人の退場者を出し、しかも1点リードという局面から、まさかの逆転負けを喫した。待っていたのはJ2降格という現実。何が起こるかわからないのがサッカー。しかし、「これがサッカー」というには、あまりにもお粗末な結果だった。

 そして、誰もが気づいていたが決して口にしなかった問題が、改めてクローズアップされた。選手の高齢化だ。万年降格候補と呼ばれていた福岡は、目先の勝敗を考えるので精一杯。毎年監督をすげ替え、選手補強も目先を睨んだものばかり。それは、戦力計算のできるベテランに頼り、若手の育成をおろそかにするという結果をもたらした。気づいてみれば大半の選手が30歳を超え、ベンチにさえ若手と呼ばれる選手はいなくなってしまった。

 J1復帰とチームの若返り、さらにクラブの構造改革と一遍に問題が表面化した。しかも、J2降格という現実は収入減という結果をもたらすことは必至で、ただでさえ苦しい経営を圧迫することも予想された。そんな中、クラブはフロント改革とチームを作り直すことを宣言。さらに1年でJ1に復帰するという目標を掲げた。シーズンオフのゴタゴタで2002年シーズンへの対応は遅きに失した感はあるが、それでもクラブは少しずつ動き出した。

 そんなクラブを、行政、企業、サポーターは変わらぬ支援をすることを態度で示した。多少の減少はあったとは言え、クラブの運営予算14億円弱はJ2平均の5億円を大きく上回り、激励の集いには1,300人を超えるサポーターが駆けつけ、選手たちにエールを贈った。2002年シーズンの開幕に訪れた観衆は10,583人。物足りないものを感じつつも、今年も精一杯チームを支えようという気持ちを表した。しかし、突きつけられた現実は厳しいものだった。



 最初の10分間は緊張感溢れる試合が続いていた。互いに昇格候補に挙げられる両チーム。ここでの勝敗の行方は、ただの44分の1以上の意味を持つことは分かっている。中盤での主導権争いが続く。しかし、時間の経過と共に試合の主導権は大分が掴んだ。大分のサッカーは極めてシンプルだ。中盤でボールを奪うと、そのままDFラインの裏側へロングボールをフィード。そこへアンドラジーニャ、吉田がスピードを活かして走りこんだ。手数をかけずにボールをゴールまで運んでいる。

 また中盤では福岡の起点になる盧廷潤を徹底マークで封じ込め、福岡ボールの時には素早く戻ってゴール前を固める。細かいことは一切しない。この3つを徹底して、しかし忠実にこなしていく。それぞれの役割を担当する選手たちにも迷いは見られない。高度な戦術眼があるわけではない。卓越した個人技があるわけでもない。しかし、タイトな守備から手数をかけずにカウンター一発でゴールを目指す。まさしく、これがJ2の戦い方だ。

 迎え撃つ福岡は、このシンプルそのものの戦術にてこずった。DFラインは、裏へ放りこまれるロングボールの対応に追われ安定感を欠き、中央へ意識が集中すると左サイドを崩された。囲まれる盧廷潤をフォローすることが出来ず、課題とされていたサイドアタックも見られない。昨年と同じように、ボールをキープしては横パスばかり。手数をかけてゴール前へたどり着くと、そこはサンドロを中心とするDFラインが待ち構えている。やむなくアーリークロスを放り込んで、当たり前のように弾き返された。

 そして試合は大分の狙い通りに進む。16分、不用意な藤崎のパスをカットしたファビーニョがそのままゴールへ向かってドリブル。最後はその左を並走するアンドラジーニャにラストパス。アンドラジーニャがノートラップシュートを決めた。絵に描いたようなカウンターだった。追加点は76分、ゴール前で得たFKのチャンスをアンドラジーニャが直接決めた。福岡は古賀が直接FKを決めて一矢を報いるのが精一杯。1点差だったが、そこには大きな差があった。



 当たり前の話だが、どちらかが勝てば、もう片方は負ける。残り試合はまだ43試合。試合の結果だけを問題にするような時期ではない。大分も来年のJ1昇格候補のひとつ。相手も必死になって戦っているわけで、何回か対戦すれば、敗戦を喫することがあるのは誰でも理解できることだ。しかし、その内容が悪すぎた。「目指すサッカーはシンプルなサッカー」。今井監督はいつでもこの言葉を口にするが、その片鱗は少しも感じられなかった。

 何よりもショックだったのが、福岡の攻撃が昨年と全く変わっていなかったこと。そして、目指している(はずの?)サッカーの気配すら感じられなかったことだ。「選手が代わって、監督も代わったのに、やっているサッカーは変わらない」。あるサポーターが嘆いた。1年でJ1復帰を目指すシーズンの大事な初戦。しかも相手は昇格争いのライバル。この日の試合に照準をあわせての調整だったはずだ。なのに・・・。誰もが同じ思いを抱いたに違いない。

 多くの選手がチームを去り、ピッチの上に立つメンバーの顔ぶれは大幅に変わった。監督をはじめ、コーチ陣も様変わりしている。そんな新しいチームが、チームとしての形を現すまでには時間がかかるもの。野田、呂比須らの中心選手も怪我で欠いた。ある意味では、福岡にとっては難しい試合であったことも確かだ。しかし、そういったことを差し引いても、あまりにもチームは未熟だった。戦う気持ちよりも、どこか落ち着かないシーンばかりが気になった。

 数日後の練習では、大分戦の反省からか、ロングボールに対する守備のトレーニングをしただけではなく、ロングボールで素早く前線に送るトレーニングを開始した福岡。開幕戦では1トップだったが、2トップの布陣を試し、一部の選手のポジションの変更も視野に入れている様子も見せた。素早い対応になればいい。しかし、たった一つの敗戦で、いままで作ってきたフォーメーションを棄てるようなら、事態は益々混迷を深めるだけだ。



 この1年間で若手を育て、なおかつJ1への復帰を果たすという高い目標にチャレンジする福岡。そのハードルは決して低くはない。しかし、考えてみて欲しい。平均運営予算が約5億円のJ2にあって、14億弱という予算は脅威的ともいえる金額だ。しかも、ベテランが多いとはいえ、その戦力はセレッソ大阪と共にJ2の中では群を抜いている。アルゼンチン代表経験者のパスを、ワールドカップ2度出場の選手が受ける。こんなチームは、セレッソ以外J2の何処を探しても見当たらない。

 そういう意味では、福岡が1年でJ1復帰を果たすのは義務と言ってもいい。ただ若手を育てるだけ、チームを変えるだけなら、これほどの大金やスタープレーヤーはいらない。それでも、行政、企業、サポーターが変わらぬ支援をしたことを、クラブに分かってもらいたい。敗れたから言うのではない。その内容のなさと、変わろうとする気配が感じられなかったからだ。誰もがJ1復帰を願っている。そして、その夢をクラブに託している。

 この日の博多の森は、どこかいつもの博多の森とは違っていた。失点を重ねても、敗色濃厚になっても、最後まで大きな声援を送り続けたサポーターがいた。ふがいない戦いをいさめるために、後半からは声援を止めたサポーターがいた。フロントに対する不満を横断幕に書いたサポーターもいた。そして、残り時間が10分になったところで、スタジアムを後にする観客もいた。それぞれの人たちにそれぞれの理由がある。しかし、あのひとつにまとまった博多の森の熱狂は、最後まで感じられなかった。

 J2で戦うということを前提にすれば、十分な戦力と運営資金がある。後は気持ちをひとつにして、必ずやり遂げるという強い信念と、必ず変わるのだという強い意思で戦うだけでいい。いまやらなければならないのはそれだけだ。その気持ちをクラブが見せてくれた時、博多の森にあの熱狂が帰ってくる。次のホームゲームは3月16日の川崎戦。J1昇格を視野に入れているチームだ。その試合で、戦う気持ちと数々のゴールを見せてくれることを多くのサポーターが望んでいる。



※このレポートは「online magazine yahoo 2002CLUB」、ならびに「online magazine ISIZE 2002CLUB」に掲載されたものです。
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